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YAMAGUCHI DEAD END  作者: 遠藤信彦
18/46

召集 2

胸を掬うようないい匂いがしている。黄金に近い黄色で、見るからに食欲をそそる。今日の夕食には鶏卵で作った卵焼きが出た。母の作る卵焼きはケンジの好みに合わせて少し甘くしてある。玄米のご飯に味噌汁、そしてケンジが丹精を込めて作ったカエルの味噌焼きが小松菜のおひたしの横に添えてあった。

今日はケンジが両親と食事を取れる最後の夜だった。子供が藩から選抜され、中央学校に入学が決まると市に報告すると、市長自らたくさんの鶏卵や調味料などの贅沢品の寄贈の申し入れがあった。ケンジも両親も市と市民に感謝した。

『久しぶりに焼いたけんねぇ、緊張したわいね。上手く焼けちょるとええけどねぇ。』

母はハニカミながらケンジに熱いうちに食べるように促した。

『こりゃ最高のご馳走だわ。ケンジが仕事も勉強も頑張るお陰じゃわ。』

父がケンヂの頭を撫でながら感謝した。ケンジはにっこりと笑う。

『僕が育てたカエルも食べてね。』

ケンジが、胸を張る。育て方にコツがあって、筋肉を柔らかくする餌に特徴があるのだと説明した。

『うまい、うまい。』

父が何度も美味いを連発し、涙した。母は少し少食だった。


藩の中央学校は山口市にある。が、山口県の頃から誰も山口市とは言わない。では、どうやって山口県の”やまぐち”と山口市の”やまぐち”を言い分け、聞き分けるのかというと、発音を使い分けるのである。市の方のやまぐちはやにアクセントを置き、県の方のやまぐちはフラットアクセントである。県民以外の人にはまず会話が成り立たないようになっている。

その山口(市)にケンジは車で向かいっていた。ガソリンを使ってもらえるのは藩がケンジに期待をしている現れだった。久しぶりの車にケンジは興奮と車酔いをした。車窓から見えるのはのどかな田園風景であり、沢山の人が田んぼで働いていた。まだ青々しいが、背の高く実った稲穂と、オレンジのガードレールのコントラストが綺麗だった。




使われなくなった高校の体育館に十二人の生徒が集合した。年代も性別もバラバラであった。校長役の小瀬谷が挨拶をする。彼は20代後半であり、校長先生のイメージからは離れていた。

『こんにちは。今日からみんなと共に歩み、学ぶことになる校長の小瀬谷です。生まれは萩ですが、育ちはロンドンを中心にヨーロッパ各地です。ここでは外国語と数学、統計学、コンピューターを教えます。よろしくお願いします。常任教師は私一人になりますが、生徒それぞれに専門、臨時コーチをつけますので、皆さんは沢山の’せんせい”と毎日会うことになると思います。』

それから小瀬谷校長はみんなに学校の概要を説明した。学校は松下村塾を模倣する。学校は”塾”と呼ぶようにする。先生、生徒、コーチの間に差はなく、共に学ぶ場だとする。藩と藩民を救うために選ばれ、共に学んでいるのであって、そこに遠慮はあってはならないこと。塾と藩と藩民を愛すること。

ケンジは小瀬谷のスピーチと説明を聞いてワクワクしていた。いままでももっと沢山勉強したいと思っていたが、それが叶うのだ。

『何か質問は?』

一人の少女が手を挙げた。とても美しい少女だった。





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