召集 1
大きな音がした。
何度目だろう。
アメリカは日本に核爆弾を落とす。中国が負けじと核爆弾を日本に落とす。たくさんの日本人が死ぬ。ケンジは家族が未だ全員無事である事に感謝しながらカエルの養殖場の手入れをする。
『どうか爆弾が山口に落ちませんように。』
朝の養殖場での労働の後、夜間の学校に通う毎日。ケンジは算数と国語と外国語、そして戦闘の4科目で優秀な成績であったため、藩の中央学校入学の誘いがあった。藩はなんとか生き残るべく道を模索していたが、度重なる藩外からの侵入者殲滅に物資や人的資源を失い、現状維持が精一杯だった。藩は根底から仕組みや成り立ちを変えようと、エリートが集まる学校を作ることにした。もしかしたら10年や20年かかるかもしれないが、勉学と行動だけが人生を変え得るという吉田松陰先生の教えに沿ったものだった。今こそが国難である、そして過去に今以上の国難を救った吉田松陰先生とその弟子たちに肖ったのだった。
『じいちゃん、僕は山口(山口市)まで行かんにゃいけんの?』
顔を左右に振り振り、ケンジは涙ぐんで嫌がった。
『明日にも死ぬかもしれんし、じいちゃんやばあちゃんと離れたくない。』
熱い涙が頬を伝った。顎から落ちた涙がシャツに黒いシミを作った。
『ケンジ、泣かんでもええわいね。ケンジは仕事も勉強も運動もがんばっちょるけぇ、もしかしたら将来、山口を率いて動かす人材になるかもしれんけぇね。藩の中央、お偉いさん方も放っちょかんわいね。』
あなたは私たちの誇りですよと、ばあちゃんが付け加えた。その優しい言葉がケンジの涙を加速させた。慟哭と言っていいほどケンジは泣いた。
『あらあら、男の子はこんくらいで泣かんもんよ?』
ばあちゃんがケンジの背中をさすってやった。
『なんでアメリカが日本人を殺すん?なんで中国は日本人が嫌いなん?』
ケンジは泣きじゃくりながら喚いた。じいちゃんもばあちゃんも返答に困り顔であった。じいちゃんはケンジの両肩を自分の両掌で包み込みながら諭すように言い聞かせた。
『じいちゃんもばあちゃんもそんなに長くは生きられん。アメリカや中国に殺される前に寿命が来ても不思議じゃない。ええか、ケンジ、ワシもばあちゃんもお前と出会って本当に幸せじゃった。お前がいるから生きて来れた。お前に会うために生まれてきた。ケンジに会えて本当に感謝している。そして十分だ。十分に生きた。十分に幸せじゃ。ケンジ、お前は山口の宝じゃ。お前をワシらだけで独占なんて100万の山口藩人に対して申し訳ない気持ちでいっぱいじゃ。じゃが、お前はまだ幼い。両親がお前を行かせたくないのなら、それでもいい。お前とお前の両親の意見を尊重する。明日にでも実家に帰ってよう話しんさい。そして答えを出しんさい。』
じいちゃんがにっこり笑った。
『ありがとう、ケンジ。私たちはとても幸せよ。』
ばあちゃんがさつまいもの味噌汁を作ってあげると言ってくれた。
ケンジは市役所に行き、養殖場と学校の休み届けを出した。祖父に連れられて実家に帰った。祖父は1週間後に戻ってくると言って長居もせずに帰っていった。
ケンジは祖父母と共に疎開という形をとっているため、もう両親とは暮らしていない。久しぶりの再会にケンジは嬉しかった。両親もとても喜び息子を可愛がった。
そして毎日、ケンジの将来について家族で話し合った。




