広島鬼道 1
『食わせろ。』
広島、いや、かつて広島と呼ばれた地域は見るも無惨だった。人が人を狩り、そして食うのだ。戦争直後にあった数多くの暴力団を含む不良たちの団体は、今は数えるほどしかなかった。理由は簡単で、金銭や貴金属などの価値がなくなったからだ。生きていくためには必要なものは食糧だけだった。頭が良いとか、集団を束ねる力とか、そういった能力は無効となった。力の強さだけが生き残れる指標となった。必然と人と人との共同体の概念が崩れた。群れることが意味をなさなくなった。人は人のために行動することをやめた。そこにはただ力の強い人間が力の弱い人間を狩る世界だった。とてもシンプルで残酷だった。
戦争が始まって一年以内にほぼ老人、女、子供はいなくなった。食糧と変わったのだった。旧県境は固く封じられている、何人も広島県外に出ることはできない。しかし弱者は強者から逃れようと県境に群がるしかなく、越境を試みるが跳ね返され、そして力尽きて食われるの繰り返しだった。
そんな広島に一人の男が現れた。名を本郷ミノルという。本郷ミノル(以下ミノル)は格闘の力はもちろんだが、頭がかなり切れた。ほぼケモノと化した人間を手懐けることができたのだ。一緒に狩りをし、獲物を分かち合うことができた。ミノルはこの時代の広島にあって、統率という稀有な能力を持っていた。そして彼が手懐けた人間たちはとても従順にミノルを慕って、よく従った。県内の”エサ”が少なくなると、 ミノルはまずは東に遠征した。大阪や神戸の人間が岡山に傾れ込んだことによって、岡山、広島東部はカオスとなっていた。そこは人として生きることを捨てた修羅しか生き残れない場所であった。ミノルはよく闘った。率先して闘ったと言ってもいい。よく働いて、”チーム”のリーダーということを皆に示した。傷は絶えなかったが、ミノルの負った傷の数に比例して仲間が増えていった。仲間が増えることによって、ミノルの分け前は少なくなったが、ミノルは我慢した。
日本中の日本人を食べ尽くすまでミノルはいってみようと思った。いつか本当に、自分の集団以外の人を食い尽くした時、この集団は崩壊し、互いに食い合うことになるだろう。そして日本から日本人がいなくなるのだ。
『それでいい。』
ミノルは誰にいうでもなくそう呟いた。




