薬師と竜の新たな関係
飛竜が寝入ったのを見届けて、俺は三人が待機している店の方へと足を運ぶ。
「ジルニアさん、あとはお願い出来るかな。睡眠毒の中に記憶封鎖も混ぜたから、起きた時にはここに来た理由も忘れてるだろうから。スノウの事を忘れるなら、暴れる理由は無い筈だし。ついでに竜用の歯生え薬も調合して渡すよ」
竜の牙は何度も生え変わる。歯生え薬は、召喚獣で、虫歯になって歯を失って泣いているレッサードラゴンなどに、処方したことがある。今回もそれを渡そう。
「アンタの薬は相変わらず強力だねえ。ちょうどいいや。召喚士ギルドの若いもんを集めて、野良の竜はどうなっているか。それと、アンタの薬がどれだけ効くか、観察と勉強させるかね。その後に、どっかに逃がしておくよ」
「よろしく。いやあ、硬化毒は久々に飲んだけど、頭の奥がしびれる感覚が楽しくて良いねえ!」
薬屋では、フェンリルの生体などの大物を相手にするときくらいしか飲まないし。
もう解毒されて、何の効果もなくなっているが、毒というのはやはりいいものだなあ、と思っていると、
「カムイって、人間、なのよね?」
唖然とした表情でリリスが聞いてきた。
「勿論。純粋な人族だとも」
祖先に何がいたか、とか親に聞いてないから、そこは分からないけど。
「私のいたところだと、人間が竜を投げ飛ばす光景は見たことがないんだけど。そんな気軽にできるの?」
「気軽かどうかわからないけど、あの位だったらまあ」
「黒の竜のお嬢ちゃん。カムイは大分特殊だからね。これを人間の基準にしないでくれよ」
「う、うん。分かったわ……」
ジルニアがリリスに説明をしているので、俺は俺でスノウに説明をしよう。
「ともあれ、この通りでね。竜が来るくらいなら俺は対処できるし。全然迷惑じゃないさ」
召喚士の街という事もあり、多少のデカブツが街の近くに来たところで慌てるような場所でもないし。
「だからスノウ。安心して、この街にいて良いんだ。そして体を治すことに専念してくれ」
そういった。すると、
「……」
ぽろぽろと泣き始めてしまった。
「お、おお?! どうしたんだ!? どこか痛いのかい?」
竜とのやり合いの際に、土礫でも飛んで当たっただろうか。
そう思って言うと、スノウは、違うんです、と首を振り、
「す、すみません……。私、こんな体で。居場所なんてなくて。そんなふうに、居て良いって、言われたの、初めてで」
涙をこぼしながらそう言った。
どうにも何か事情があるようだ。
人語を喋れるような竜で、しかも特殊な体質を持っているのに、召喚に応じるというのだから、何らかはあるのだろうと思っていたけれど。
……召喚は、元居た場所から離れたいという意思がなければ、基本的には成立しないしなあ。
無理やりな術式だそうだから、その基本条項を無視して連れてこられたのかもしれないけれど。
本当の所は聞いてみるまで分からないが。とりあえずは、自分の本心を告げよう。
「なんというか、改めて言うけど。君がいても、俺は何にも迷惑じゃないから。薬を渡したものとしては、近くにいてくれると有難いし。よろしく頼むよ」
言うと、スノウは、泣きながらも嬉しそうな笑みを浮かべて、
「はい……!」
と、頷いた。もう、無理やり解呪なんていうことをすることはなさそうだ。
「リリスも同じだからね。ウチにいることを迷惑だなんて思う必要はないから」
「ありがとう。お世話になるわ。あのお家、薬の匂いがするのも、結構好きだし」
「おお、それは良かった」
どうやら二人とも、無茶な解呪をしなさそうだ。
それを見て、ジルニアは俺の方を見て、
「話はまとまったかい? とりあえず、一か月後また来るといい。モカにも適当に話しておくから。共同で生活しているってこともね」
「色々ありがとうございます。それじゃあ、一旦店に戻りますね」
「あいよ。一か月の同居人が出来たことだし、人らしい生活するんだよー」
そうして、今日から正式に、竜の同居人が二人ほど増えたのだ。
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