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龍の《薬師》~最強暗殺者の《毒使い》は、捨てられた邪竜と聖竜を拾い、主として信頼されてます  作者: あまうい白一


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褒章を貰いに……?

グレンデルとの戦闘から一週間が経った。

 

 普段の薬屋業務に戻った俺は、いつものように薬屋で患者を診ていた。といっても、患者はいつもの町民ではなく、

 

「まだ、この苦い薬を飲まねばいかんのか……」

 

「全治一か月なんだから当然だね」


 いまだ入院中のヴァスキーだ。

 薬屋の別室にあるベッドで、緑色の薬を見て唸っている。


「カムイのお陰で一か月で済んでいるのはありがたいと思った方がいいわよ」


 あきれたように言うのは薬屋の制服姿のリリスだ。

 傷も浅かったためか、一足早く元気になっており、スノウと共に、普段の仕事をしつつ、ヴァスキーの看病もしている。


「う、む。まあ、腕がなくなる寸前だったのだしな。それを思えば、むしろ短いのだろう。もう日常的な運動は可能だしな」

 

 そういうヴァスキーの肩を見る。薬液をしみこませた包帯を巻いてはいるが、そろそろ外しても良い頃合いだろうか。


「うん。触った感じも問題ないし、次はリハビリかな。安心して動かして行くといいよ。魔法的な再生とは違って、筋肉とかも残ってるし、なじみも早いはずだから」


 手足の欠損も、治せないわけではないのだが。新造となると、神経系や筋肉系の連結にズレが生じることもある。

 今回はそれがあまりない形なので、リハビリするのも楽だろう、と思っていると、


「……カムイが、私たちに触れて治療行為をすることが出来るの、本当に助かるわね」


 何気なくリリスがそんなことを言ってくる。


「ふむ? そうなのかい?」


 聞くと、答えはヴァスキーからも来て、


「我々が人間に診られるときは、基本的に防護服越しになるからな。人間形態であっても、どこに毒があるか分かっておらんし。刺激で即死級の毒が出る可能性だってある。そのせいで、医療技術を十全に発揮するのも難しいとのことだ」


「私も似たようなものよ。だから、カムイは私たちみたいな龍を、きちんと見られる唯一の薬師ってこと」


 その言葉に、隣で一緒に働いているスノウも同意している。

 

「なるほどなあ。俺としてはいつ毒を吹き出してもらっても良いんだけどね! 別部屋での治療をしているから、迷惑もかけないし!」


 この部屋は物理的に密閉もできるので、毒が漏れ出す心配はない。ポイズンスライムなどが時折来るが、そういうときに便利な部屋なのだ。


「多種多様な召喚獣を診る必要のある場所っていうのも、要素としては大きいのね」


「そういうことだとも! だから遠慮はいらないよ!」


「遠慮して毒を出さないでいるわけではないのだが……」


 そんな話をしていると、だ。


「カムイくーん」


 部屋の外からお呼びがかかった。


 見ればそこには笑みで、一枚の書類をぴらぴらしているモカがいて、

 

「モカさん? なんです、その紙」


「貴方が倒したっていう個体の、検死・調査結果が出たのよ。そのお知らせ」


 グレンデルとの一戦が終わった後、ボロボロになったヴァスキーとリリスを連れて店に戻った訳だが。明らかな重傷者を抱えて入ってきた俺をモカさんが放っておくわけもなく。

 色々と事情を話しながら、治療を手伝ってもらっていた。

 彼らに触れるのは俺だけにしておいた方が安全ということで、もっぱら薬の調合などだが、とても助かった。

 

 その際、検死と調査のためにギルドを回してくれて、結果も渡すように言っておく話だったが、このタイミングで来たのだろう。

 

「どうでした?」


「魔王の改造体で間違いなかったみたいよ。個体名グレンデル。戦時中に何百もの被害者を出して、そのあとも、諸所を襲撃して回っていて、お尋ね者だったらしいわ」


「へえ、結構やらかしてたんですね」


 魔王との戦争が終わっても魔物は人を襲うし、魔王が改造したという存在も、各々の意思を持って動くようになっているのは知っているが。グレンデルが暴れていたのはここだけではないらしい。

 

 そうでなければこんな街の近くで、大っぴらに竜を襲いに来ないか、とも思うが。


「とりあえず、亡骸は都の研究機関に運ばれることになったわ。普通の魔物と違って魔石も出ないし、素材もないし、倒したカムイ君には、メリットがないけれど」


「別に構いませんよ。それに、ヴァスキーさん達を治すための障害がなくなったと考えたら十分メリットがありますとも」


 実際、そこを求めて戦いになったのだし。

 

 そう思いながら言うとモカは微笑んだ。


「本当に薬師として動いてくれて有難いわね。……あ、ただ、この報告書に補足があってね。グレンデルを指名手配してる国もあって、そこから褒章が出るらしいから。受け取りに言ったらどう?」


 モカは報告書の下の方を指さして見せながら言ってくる。

 確かにそこには、ギルドからの補足と提案が書かれていて、それなりの褒美が貰えると書いてあるが、


「褒章……かあ。有難いけど、いくらかのお金のために何日もかけて他国にいくのもなあ」


 お金は大事であるし、貰えるものなら貰いたい、とは思う。ただ、それよりも俺にとっては、毒と薬の調合や研究を勧めたいし、魅力的な毒草薬草が、近場の未開拓地域にある。

 時間を使うなら、そちらを優先したい気持ちが強い。


「せめて、珍しい薬草とか毒草なら、もっと喜んで受け取るんだけど……」


「あら? その国には聖域があるので、そこでしか育たないの薬草が生えているそうだけど? 貴重だろうけど、褒美としてなら、融通してくれるかも……」


「よし! 直ぐに行こう!」


 気が変わった。


「変わり身、早いわねカムイ……」


「そんな貴重なものがある場所なら、話が違うってことさ! ……って、スノウ?」


 話をしている最中、スノウの顔色が急に変わったように見えた。だから聞くと、スノウはおずおずと声を出した。


「聖域がある国……その国の名前はなんというんですか?」

 

 聞かれ、調査報告書を見る。


「ニウェウス王国って書いてあるね。この街から、ちょっと遠い場所にある国だけど」


「……」


 答えると、スノウの顔色がさらに曇った。


「スノウ? 大丈夫?」


 リリスも心配している。

 

「何か思うところでもあったのかい?」

 

 聞くと、スノウは静かに頷き、


「……たぶん、私の家族がいる国です。……落ちこぼれの私を追い出したがっていた、聖竜が」


 そんなことを言うのだった。


【お読み頂いた御礼とお願い】

 本作品をここまでお読み頂き、有り難うございます。

 これにて、第2部、邪竜親子喧嘩編、完!ということで。

 続きは未定ですが、考えが纏まり次第、書いていければな、と。


 そして、この区切りまで読んで、ちょっとでも

「面白い!」

「続きを読みたい!」

 と思って頂けましたら。☆☆☆☆☆のポイント評価、そしてブックマークの登録をして頂けますと、作者のモチベーションになります!


 どうぞよろしくお願いいたします!

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