表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍の《薬師》~最強暗殺者の《毒使い》は、捨てられた邪竜と聖竜を拾い、主として信頼されてます  作者: あまうい白一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/33

炎の中で

「な、なによこれ……」


 リリスの視界は、数秒前と大きく変わっていた。

 

 背後、左右に広がるのは、炎の壁。

 

 目の前には、失った肩部から血を零しながら立ち上がり、前方をにらむ父、ヴァスキーの後ろ姿があった。

 

 そしてその奥には、先ほど投げつけられたメイスと同じようなものを担ぐ、角の生えた鬼人がいた。

 

 鬼人は牙をむき出しにするように笑いながら、こちらに声を飛ばしてくる。


「いやはや、ありがとうよ! 標的が毒を使う戦闘をおっぱじめてくれて、俺としちゃあ大助かりだったぜ」


 その言葉に、ヴァスキーは眉をひそめた。


「我らの戦いを見ていただと? 気配も感じさせずに……!」


「おうよ。詳しい理屈は分からねえが、魔王サマの手で頭に埋め込まれた、『陽炎』っていう特別な術でな。炎の魔法を応用して、身体を風景に溶け込ませられるんだと。『陽炎のグレンデル』って名付けられたくらい、特別な存在なんだよ、オレァ」


 笑いながらグレンデルと名乗った男は、片手をあげる。すると、その部分だけが、景色に溶け込むように見えづらくなった。

 

 その様子を見て、ヴァスキーは、舌打ちを一つし、

 

「なるほどな。魔王の改造を受けて、特殊な魔法を手に入れたものか。この炎壁も、その爆発するメイスも」


「はは、当たりだぜ。この炎壁がある限り、テメエらは逃げられねえ。外に助けを求めても無駄だ。一緒にいたやつらは、俺の一撃で吹き飛んでるだろうからよ!」


 その言葉に、リリスはハッとして、


「カムイ! スノウ!!」


 先ほどまで共にいた二人が居た場所――背後に声を飛ばした。


 応答はない。炎のせいで、どうなっているかも見えない

 

「……邪魔っ!!」


 だから、炎を振り払おうと、竜の剛力をもって、炎の壁に腕を叩きつけた。

 

 それだけで風が起き、地面が割れ、ただの炎程度ならば、なぎ倒せるはずだった。だが、


「……ッ!」


 炎の壁に少し触れただけで、激痛が走った。

 反射的に振った手を止めてしまうほどに。


 数瞬触れただけなのに、腕は火傷で赤く腫れあがっていた。


「リリス!? 平気か!」


 その様子を見て、父が心配そうな表情と共にこちらを見た。


「う、うん。大丈夫よ、パパ……」


「……我が娘の力でも、消えぬ炎、か。改造体の中でも我らに特化した存在、滅竜獣者とやらか?」

 

 こちらを見て、グレンデルは、ケラケラと笑い声をあげている。

 

「そこまで知ってるかよ。なら猶更、俺の炎壁を突破できると思うなよ。竜の鱗だろうが、瞬間的に焼き尽くす。対竜用に、そういう風に作ったらしいからな」

 

 竜は基本的に熱に強い。竜の体の時には鱗が守るし、人間の姿になったときでも、圧縮された魔力が肉体を守るからだ。

 低級~中級の炎魔法では傷ひとつもつかない。自分の体もそうだ。

 にもかかわらず、この炎は魔力の防護をたやすく貫いてきた。

 

 ……魔王の改造体で、なおかつこれだけの力を持つものがいるなんて……。

 

 リリスがそう思っていると、グレンデルは一歩一歩こちらに近づいてきていて、


「邪竜ヴァスキー。テメエの倒し方もついでに頭に入れられててな。『血液と魔力を組み合わせて毒を生み出す能力を保持しているから、まず深手を負わせて挑むこと』だそうだが。当たってるか」


 煽るように告げた。

 

 対して父は、失った右肩を個体毒で塗り固めて、出血を止めており、


「貴様一人くらい、この程度の傷を負っていようが倒すのに支障はない……」


 対抗するように、そう言いながら、グレンデルに近づいていく。だが、その途中で、

 

 ――ドガン!

 

 という音と共に、その体が地面に叩きつけられた。

 まるで、上からぶん殴られたかのように。


「ッ!?」


「パパ!?」

 

 頭から出血したヴァスキーの目は驚きで揺れている。つまり意図した動きではなかった。では何ごとか。

 その答えは、ヴァスキーの横で揺らぐものにあり、


「ああ、忘れてた。俺の陽炎は、他者――つまり俺の配下たちを隠すことも出来るんだ!」


 そこには、周囲の景色に紛れるようにして、こん棒を振りぬいたオーガの姿があったのだ。その体躯は二メートルを超えている。


 ……この大きさのオーガが、近くにいて気付かなかった……!?


 視認どころか、気配まで隠される。あまりに特殊すぎる魔法だ。

 リリスが思う間に、地面に付していたヴァスキーは飛びあがるように立ち、


「ッ消えろ!!」


 残った左腕でオーガを殴り飛ばした。


 片腕とはいえ、邪竜の一撃だ。一発で、オーガは、こん棒と腕を共にへし折られ、吹っ飛び転がる。


「まだ力は残ってるみてえだが……俺の配下はその程度の傷じゃ止まらねえぜ」


 だが、すぐにオーガは立ち上がった。腕も折れていて無傷ではないが、戦意は衰えていない。


 ……オーガには、生まれ持った強靭な肉体がある。それは、上半身だけになってもしばらく生きる程だって聞いていたけれど……


 配下と呼ばれたオーガもそういう存在なのだろう。再び父に向かおうとしている。

 それを見て、沸き起こるのは、


「なら、私が戦るわ!」


 怒りと決意だ。

 オーガに対し、リリスは思い切り、飛び蹴りを叩き込む。


 オーガの胸元に足先がめり込み、そして、


「――!」 


 グレンデルのほうにきりもみながら吹き飛び、そのまま転がって動かなくなった。

 

「……ヴァスキーの娘だったか。ニオイが混ざっていてわかりづらかったが、そっちもなかなか力はあるみてえだな」


「褒めてもらってどうも。……アンタをぶん殴って、さっさと出て皆を探して、そしてパパに治療を受けさせてやるんだから!」

【お読み頂いた御礼とお願い】


 本作品をここまでお読み頂き、有り難うございます。

「面白かった」

「この先が気になる」

「竜の子達可愛い! 続きが読みたい!」


 少しでもそう思って頂けましたら、広告の下にある☆☆☆☆☆のポイント評価、そしてブックマークの登録をして頂けますと、作者のモチベーションになります!


 どうぞよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ