邪竜を鎮静
竜人の拳が止まったのをカムイは見届てから、背後に視線を送った。
岩を投げてきたリリスの周囲にある魔法陣からは光が消えている。
「魔法陣の光が収まってるって事は、どうにか二人の儀式は終わったみたいだね」
この魔法儀式には手間がかかると言っていたし。中途半端な解呪をして、二人の身体に負担をかけるわけにもいかないし。粘った甲斐もあったようだ。
よかったよかった。と胸を撫でおろしていると、
「待て。貴様、名を『カムイ』というのか」
リリスの父親であろう竜人はこちらを指さし問うてきた。
「うん。そうだね」
先ほど、彼の拳が止まったのは岩が投げられたから、ではなかった。
リリスが叫んだ俺の名前を聞いたタイミングで、明らかに戸惑いが見られたのだ。
何か気になる事でもあるのだろうか、と思っていると、
「では、マツリカ・サージェリーを知っているか!?」
そんなことを聞いてきた。俺と同じ苗字を持った名前。
それに思わず目を見開く。
思い返すのはかつての事だ。
「その名前は久々に聞いたね。俺を治療してくれて、毒を教えてくれた師匠だよ!」
身体の肉も骨もボロボロになり、もはや長生きできぬと路地裏に放り捨てられた重病人の自分を拾い上げてくれた人だ。
常人に使えば死ぬような強力な毒、薬品をいくつも使われた結果、俺は病を克服できたのだ。
……彼女は大臣の子飼いの毒使いだったから、そのままの流れで彼女の教え子として暗殺部隊入りしたのだけども。
世間的にも有名な冒険者ではなかったし、毒使いとしても教本に乗るような存在ではなかった。
そんな経緯があるからこそ、彼女の名前を知っている人物は数少ない。
だから、名前が出てきたのにはびっくりしていた。
「貴方は、俺が苗字を受け継いだ彼女の事を知っているんだね」
「当然だとも。もしも奴の教え子、カムイ・サージェリーならば、我の事は聴いたことがあるはずだ。邪竜ヴァスキーの名を」
その名前を聞いて、俺はハッとした。
「ああ!! 師匠の友達だっていう邪竜さんか! 師匠とめちゃくちゃ付き合いがあったらしいと聞いていたけど」
当時、俺の師匠が使っていた毒は、どこの植物や動物から採取したものなのか、と聞いたことがある。
その時に、友人である邪竜から提供されているのだ、と。
「その話は真実だ。そして我はマツリカから、お前のことも聞いている。――自分が鍛え上げた最高傑作だと。そして戦場でも見たことがある。人に協力するものとは敵対していなかったはずだ」
ヴァスキーは、眉をひそめ、
「なぜそんな貴様が我が娘にあんなことを……」
その言葉に答えるのは、背後からズカズカと歩いてきたリリスで、
「さっきから話をしているでしょ、馬鹿パパ!! カムイは薬師で、私は治療してもらってたの!!」
「治療……?」
リリスは口の端に垂れた赤い液体のあとを指さし、
「これも血じゃなくて、薬! さっきの針も、ツボ押しの一環!」
その言葉がようやく耳に入ったのか、ヴァスキーは目をぱちくりさせて、
「貴様が、治療をしているのか? 戦場であれほどの活躍をしていた貴様が……」
「うん。今は薬師をやっているからね! ちゃんと人も獣も治しているよ。それこそマツリカ師匠みたいにね」
「……なる、ほど……?」
しゅるしゅる、と体が縮んでいく。
そして人型に戻ると、真面目な顔で、
「……すま、ない。早とちりを、したようだ」
先ほどまでの迫力ある姿とは裏腹に。
身を縮こませながら、頭を下げてくるのだった。
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