問答無用
魔法陣の中で座り込んでいたリリスは、彼方より現れた姿を見て驚いた。
……パパ……!?
邪竜ヴァスキーそのものが、そこにいた。
普段は館から動かない筈の父が、だ。どうしてここに、という声が出るよりも早く、
「どけ!!」
怒りの表情をしたヴァスキーが腕を横なぎに払った。
それだけで、手先から鞭のような固体毒が伸び、
――バアン!!
と、カムイの身体を打ち払った。
出会うなり、いきなりの事だ。毒の鞭を食らったカムイは、そのまま横合いに吹っ飛ばされ、転がって倒れた。
「な、な、なにをしてるのよ!」
問答無用の一撃にリリスは叫ぶが、それに対してヴァスキーは顔を歪めた。
「血を吐かせた輩を庇っているだと……? なるほど、居なくなったのは召喚のせいで、契約でもして逆らえなくなったか?」
自分の周囲にある魔法陣を見て、更には額のあたりを見てそう言った。
「召喚獣の契約の中には、主の命令を聞かせるために、意にそぐわない行動を封じるものもあったはずだが。たとえ契約者が死んでも、解除されないのだったな」
そしてヴァスキーは吹き飛ばしたカムイの方に視線をやり、
「だが、気にするな。そこの人間に浴びせたのは、死なない程度の麻痺毒だ。息もまともに吸えぬ程度の苦しみを三日ほど、与える。弱らせたところで契約の解呪を望ませれば、それで終わりだ」
自分がこちらに来る前と何ら変わらない、一方的に、自分の目的だけを伝えるような喋り方だ。
これが嫌で、自分は逃げ出したのだと思いながら、しかし、そんなことはどうでも良かった。
自分のせいで、恩人が傷つけられた。それが最も、許せなかった。
「こっちの事情も聴かずに、何をしてるの! 直ぐ解毒して! あの人は悪い人じゃないの!」
「首元に針を刺されて、何を言うか! 殺されるかもしれなかったというのに!」
「そうじゃなくて……!」
そこまで言ったところでだ。
「うん、そうじゃないね! それに、解毒だなんて、勿体ない!」
そんな声が響いた。
〇
ヴァスキーは、いぶかしみながら娘から視線を外し、殴り倒した男の方を見た。
……先の毒は、帝国の英雄とやらに触れさせたら、即座に失神する毒だ。喋れるはずがない……。
だが、しゃべったのだ。
いや、それだけではない。
「毒の香りを感じて食らってみたけど、良い毒だ……。こんなにもビリビリ来るなんて。久しぶりの感覚だよ!」
そのまま、起き上がりこぼしのように、立ち上がったのだ。
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