過去は薬を作るときにも活きる
ジルニアの言葉に、リリスが首を傾げた。
「協力って、何をすればいいの?」
「ちょっとだけ、体に負担が掛かる方法をさせてほしいんだ」
「どのくらいの負担、ですか?」
「全力で走った時くらいの疲労が出るね。あと、ちょっと美味しくない薬品を口にする必要がある。それはカムイに作ることになるが。そういった意味での協力だね」
ジルニアは、テーブルの方に視線をやった。そこには俺の目から見ても、薬効ある植物などが置かれている。
「そのくらいならいいわよ、別に。薬もカムイが用意するものなら、安心できるし」
「はい。私も、特に異論はございません」
二人は俺の方を見ながらそう言った。
それに対して、ジルニアは微笑みを浮かべる。
「おやおや、薬師として信用されているじゃないか、カムイ」
「ああ、嬉しいことだね。それで、俺は、そこにある材料で何を作ればいいんだい?」
「マンドラゴラの内臓と、バロメッツの胆嚢を使った『血の解呪薬』ってやつさ。レシピは知ってるだろう? 作る難易度は高いけどさ」
「うん。大丈夫。作れるよ」
「流石。モカのところで、働けてるだけあるね……っと」
ジルニアは、テーブルの上から、瓶に入ったそれぞれの材料を取り出し、俺の前に並べた。
見た目は、両方とも、内臓、という感じのものだ。
それを見て、リリスがやや眉をひそめた。
「う……近づくと、結構、血みたいな匂いがするのね」
「うん。薬の味的には、動物のレバーを食べるような感じに近いかな。お世辞にも美味しいものじゃないし、リリスは、確か苦手だったね」
何日も食卓を共にしているから、二人の好き嫌いは結構分かっていた。リリスは魚が好きで、内臓系の肉が苦手なのだ。
「そうね。でも、必要なことなんでしょ?」
「解呪の儀式魔法の効果を増強するものだからね。飲んだ方が確実ではあるね」
「じゃあ、やるわ」
リリスは力強く頷いた。
「スノウは、内臓系のお肉は結構好きな方だけど、大丈夫?」
「飲んでみないと分かりませんが。匂いの感じでは、問題ないと思います」
スノウに関してもやる気は問題ないようだ。
それを見て、ジルニアも頷いた。
「んじゃ、あたしは、外に儀式用の魔法陣を作ってくるから。それまでに作っておいてくれ」
「了解ー」
そう言ってジルニアは家の外に出て行った。
それを見届けてから、俺は薬の作成に取り掛かる。
「ジルニアさんは、高難易度って言ってたけど、そんなにすぐ作れるものなの?」
「ああ。うん。工程としては単純なものだからね」
と言っても、『血の解呪薬』の作り方は簡単で、二つの血なまぐさい材料を、浄化された水と共に混ぜるだけなのだ。
ただ、混ぜ方に指定があり、
「一定の速度、一定の温度を保ったまま、水と混ぜなきゃいけないから。そこで、失敗する人が多いんだ。成功すれば赤く輝く薬品になって、失敗すれば内臓のジュースになるんだけど、見てれば分かるかな」
「聞いた感じ、精密作業のようですが、設備などがいるのでは?」
「魔法機械を使うと、魔力に反応して薬が変性するから人力でやるしかないんだよね。でも、人体の動かし方を一定にすればいいだけなんだから、大丈夫。ここのすり鉢で充分だよ」
ジルニアの前で作ったことも何度かあるし。今回も同じだ。
そう思いながら、俺は材料を水を混ぜ始める。
やる事は本当に単純なのだ。自分の肉体を、一定間隔で、淡々とブレなく動かすだけ。
幼少期に拾われてから、実践に出るまでの間、自らの師と共に、部隊の訓練場でひたすら行った戦闘調練。
標的をいかに効率的に倒すか、という部分を覚えるために、機械的な反復練習をこなした成果が体にはしみ込んでいる。自分の肉体をコントロールする作業では特に顕著に表れる。
昔の仕事でも、巨大な魔獣を相手にした時など、手の届く範囲から肉体を壊していくのは作業的に行っていた。
そうして身についた機械的な動きは、こういう時にも役立つ。
……師匠は、そこまで体に染みついてしまうと、もはや後遺症と言った方が良い動かし方だけどね、と笑っていたけど。
役立つのであれば、構わない。今回もそれを行うだけではある。
「……凄い。ただの血みたいなものが、だんだんと赤く輝いていく」
すり鉢の中でドロリとした液体が、混ぜていくごとに輝きを増していく。
そして出来上がるのは、
「これで、完成っと」
赤く輝く、液体だ。
粘度はややあり。
試しに一滴とって味見をしてみると、予想した通りの血の味がした。味的にも間違いなく完成だが、
「……念のため、リリスたちも一回舐めてみる?」
「ええ。ちょっとだけ」
隣で見ているリリスとスノウに一滴ずつ配ると、物凄い渋い顔と、平然とした顔といった感じで、対照的な表情になった。
「無理は、しないようにね?」
「が、頑張るわ……」
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