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三者三様に近づく者 1

 アイヴィー帝国、首都、とある執務室。


 髭を生やした中年の男は、己の席で吐息をついていた。


「邪竜閣下は、まだ見つからんのか?」


「はい局長。ヴァスキー閣下は変身魔法を使われているのか、目撃情報もありません」


 局長と呼ばれた男は、部下からの報告に頭を抱える。


「く……不味いな。早く発見しなければ、どこで戦闘が起きるか分からん」


「戦闘、ですか?」


「ああ、人に味方する竜の中で、魔王に閣下は狙われていたからな」


 局長は窓の外を見て言う。


「魔王が倒れた今も、志を継ぐもの、あるいは、魔王の命令が残ったままの改造体はいるだろう」


「ですが、閣下はお強いのでは……」


「無論だ。閣下自身に心配はいらぬ。だが、戦闘になった際に、閣下の毒が周辺にばらまかれるのが問題だ」


 かの邪竜が、どこまでの毒を使うかこちらはコントロールが出来ない。そして、


「閣下の毒を解毒できる人類は、現状いない。かつては一人だけ、可能性を持つものがいたが、かの戦乱でこの世から消えた」


「同盟国にいた毒の知者でしたな。噂だけは存じております。とてつもない損失だったとも」


「そうだ。つまり現在、解毒出来るのは、閣下当人、そしておいそれと会えぬ王国の聖竜、遥か遠方から動かぬ聖獣だけだ」


 つまり、実質、邪竜閣下自身にどうにかしてもらうしかない。


「昔話で聞いたことがあります。国土の農地に閣下の毒が混ざった時、近づくだけで人は痺れ、空気を吸うだけで野生の獣は倒れ、どれほど優れた浄化魔法の持ち主でもどうにもできず閣下により解毒されるまで草一本生えなかったと」


「閣下曰く、普通の毒にすぎんとのことだがな」


 局長は苦笑する。人を領分を超えた毒を、普通と言い放つあの竜の恐ろしさと偉大さに。


「それ以外にも強力な毒を、自在に生み出す。そんなものが使われる前に護衛が発見し、下手人がいるのであれば片付ける必要がある。昔話が、今また起きるかもしれない。その重要性は、分かるな?」


 部下は強く頷いた。


「はい局長……! 調査、探知、続行いたします!」


「ああ、頼んだぞ」



小高い山の上で。


 その壮年の男は巨躯の鬼たちに囲まれていた。 

 

「魔王の改造体……種別としてはハイオーガか」


 体長2mを超える、大型の鬼。鋭い角、筋骨隆々のその姿からは、威圧的な雰囲気が漂う。

 本来はある程度の理性のある生物であるが、今その瞳は狂暴な色に染まっていた。

 

「竜ノニオイ……!」


「邪竜、ヴァスキー、コロス……!」


 そこいらの木をそのままもぎ取ったであろうものをこん棒代わりに、それぞれが息を荒げている。


「我ら竜を狙いに来るようにしおったが。戦後も懲りず来るか。我は急いでおるというのに」


 ヴァスキーと呼ばれた壮年の男は眉をひそめながら、鬼たちに視線を合わせた。


「ウオオオオ!!」


 それが開戦の合図とばかりに、鬼の一人がこん棒を振り上げ、ヴァスキ―に殴り掛かった。だが、


「邪魔だ……!」


 ヴァスキーが軽く振り上げた拳。それがこん棒を砕き、更には、鬼の肉体すらはじけ飛ばした。一体は、そのまま動かなくなった。


「人の身は竜の体躯よりも小さいが、巨体と魔力をこの小さな体に圧縮しているのだ。そんな棒きれ程度で、どうにかなるとでも思ったか」


 だが、それでも、ハイオーガたちは向かってくる。


 その行動に対し、ヴァスキーの額に青筋が浮いた。


「急いでいるといっただろう。……一人ひとり、砕くのも面倒だ」


 そういって、ヴァスキーは拳を握る。すると、その拳が黒く染まった。


「ガアアアアアア!」


 鬼たちはそれを気にせず突っ込んでいこうとした。が、

 

 ――ドサアッ!

 

 と、走る勢いのまま、膝をつき、滑り込むように倒れた。

 顎や体と地面が擦れ、その摩擦で前進は止まる。


「ッ?!…………!!」


 まるで、急に足が動かなくなったと、そういうような表情で。

 鬼たちは声すら発せられず、うごめくことすらできず、喉を鳴らすだけだ。


「貴様らなぞ、毒の一滴どころか、空中に散布したものに吸うだけで動けなくなる」


 ヴァスキーは、拳を握りしめたまま、倒れた鬼たちの前へ歩き、


「このまま人間どもに引き渡して、改造体の調査をさせても良い。が、我は今、急いでいて、ストレスもたまっている……!」


 拳をそのまま振りかぶり、

 

「弾けろ」


 思い切り打ちおろした。それだけで、

 

 ――ドパッ!!

 

 と、大地と木々が砕け、吹き飛んだ。

 それは、平行方向に土砂崩れが起きたように。

 

 地面も、草木も、そして鬼たちの肉体も巻き込むように砕け散った。

 

「運よく肉体のかけらでも残っていれば、勝手に人間どもが調べるだろう」


 ヴァスキーは握っていた拳を振って、解く。すると、黒く染まっていた拳が元通りの色に戻った。 

 

「いかんな。時間を食ってしまった」


 そして向くのは、はるか遠くに見える人里。


「あの町の方向に行くと、召喚士どもが集まる街まで街道があるのだったな。娘の魔力の反応がわずかに近づいてきている。どこの街にいるか分からんが、進み続けて、娘に、会わねば……!」


【お読み頂いた御礼とお願い】


 本作品をここまでお読み頂き、有り難うございます。

「面白かった」

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「竜の子達可愛い! 続きが読みたい!」


 少しでもそう思って頂けましたら、広告の下にある☆☆☆☆☆のポイント評価、そしてブックマークの登録をして頂けますと、作者のモチベーションになります!


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