(仮称)異世界に転生したので、今度こそ幸せになりたいと思います。
短編じゃない異世界転生モノを書いてみたくて、いろいろ思い付きをメモメモしながら、少しだけ書いてみたお話。
短編に上手く纏まった(気がする)転生令嬢奮闘記と違い、やりたいこと詰め込みすぎてネタ帳代わりのメモが大変なことになってた……
私には、付き合って7年になる彼氏がいた。
女友達も多い人だから、不安になる事も時々あったけど……
それでも、最後にはちゃんと戻って来て、「大好きだ」って言ってくれたから、彼を信じて頑張ってきた。
一緒に住むようになって、家の事はほとんど丸投げな彼だったけど、その代わり家事なんかの腕前は軒並みスキルアップした。
アパートの家賃や、食費や光熱費なんかの生活費は彼が全部負担してくれていた上、個人の部屋も用意してくれてたから、給料のほとんどは、貯金と趣味のヲタ活に使わせてくれていた。
そうやって、毎日幸せに暮らしていたから――
きっと、このままこの人と結婚するんだ――
いつか、子供ができて、家族で幸せになるんだ――
――そう、思ってた。
そんな私の運命を変えたのは、きっと私が言った『いつ籍入れる?』って言葉だと思う。
20代も半ばを過ぎ焦りも出ていたのかもしれない。
結婚資金にとコツコツ貯めていた貯金が目標に到達して、浮かれていた私が不用意に口にした言葉。
それ以来、彼がどことなく冷たくなった気がしていた私は、久しぶりにデートしようって誘われた時に、何も考えずオーケーしてしまった。
そしてやって来た、紅葉の名所としても有名なダム湖。
大型台風が過ぎた直後なのもあり、風は強いけど、その分人も少なく、私はのんびりと景色を楽しみながら、彼との未来に想いを馳せていた。
――ハズだったのに。
大事な話があるから、と言った彼の提案で、他の観光客が滅多に来ない、ダムの側面に来た私達。
もしかして、改めて、プロポーズしてくれるのかな?
――なんて思っていた私は、彼の口から発せられた「悪いんだけど、ここから飛び降りてくれる?」と言う言葉に頭が真っ白になってしまった。
「しゅ、修君? 冗談、だよね?」
いつもと変わらない、優しい微笑みを浮かべつつ、ゆっくりと距離を詰めてくる彼。
「君が悪いんだよ、“都合の良い彼女”で居続けてれば、ずっと愛してあげたのに」
距離を保つために、後ずさりしていた私は、後ろに下げようとした脚が、ダム湖の上にせり出している崖の端にかかり、パラパラと小石が転がり落ちた事に気付いて、慌てて引き戻した。
もう、後がない所まで追い詰められている。
チラリと視線を向けた眼下には、台風で水位の上がったダム湖。
そして、与えられた役目をしっかり果たそうと、大輪の花を咲かせているようにも思える、緊急排水用のグローリーホールが見えた。
ダム湖に落ちただけならまだしも、アレに吸い込まれたら、人間なんてひとたまりもないだろう。
どうしてこんな事になったの?
私はどうしてたらよかったの?
そんな考えが頭の中をぐるぐるしている間にも、彼は一歩づつ近づいてきて――
ドンッ!
「あ――」
「さよなら。 君の事、好きだったよ、藍さん」
突き飛ばされ、ダムの上から投げ出された私に出来たのは、全身を襲う浮遊感と恐怖に、目をギュッと閉じる事と――
指に触れた布を咄嗟に握り締める事だけだった。
何も見えない、何処とも分からない場所を、ユラユラと漂っているような不思議な感覚がしばらく続き、『あぁ、きっとこれが“召される”って感覚なんだろうなぁ』等と、多分な諦めと共に、ある種の悟りを開きかけていた私だったが――
――ベシャッ!
「へぶぅっ!」
不意に感じた“引き寄せられる”ような感覚と、その直後に襲ってきた“何か”との衝突に、微睡んでいた意識が一気に覚醒する。
「痛ぁぁぁ――――!? って、あれ? 生きてる?」
強打した鼻の痛みにのたうちながら、周囲を見渡すと、何もない白い地面――と言うか、空間が延々と広がる場所にいるようだ。
――あ、うん……何て言うか、ホラ、アレよ。
これって、最近アニメとかでよく見るやつじゃない?
ってことはやっぱり、死ななかった、ってわけじゃないっぽいね。
そして、こういう展開なら、多分次は――
〖よかった……ギリギリ間に合ったようですね〗
ホラきたぁー!
不意に聞こえた声に振り返ると、ふよふよと浮かぶ光の玉のような物体が、淡く明滅を繰り返している。
いろんなラノベやアニメを嗜んできた中にちゃんとあったよ。
ヒトガタじゃないパターンも!
「えっと……神様?」
〖……厳密には、貴女方のイメージする“神”とは違いますが、人間にとっては、似たようなものでしょうか〗
そう語る光の玉――声が女性っぽいから、とりあえず“彼女”と呼ぼう――は、世界を創った所謂“神”ではなく、その“神”から世界の管理を委された、いわゆる“管理人”らしい。
基本的には見守るのが仕事なんだけど、問題が起こった時等には、今回のように介入することもあるのだとか。
やってることは、アパートの管理人とかと変わらないって感覚なのかもしれないけど、惑星規模とかでやってるんでしょ?
充分神様だわ。
――ところで。
「さっきの『間に合った』って言うのは……」
〖はい。 もう少しで魂ごと消滅するところでしたので……〗
あぁ……魂ごと消滅、それは危なか――
「――って、えぇ!? どんな状況だったの、私!?」
〖貴女が落ちた穴は、我々が不要なものを処分する――貴女達にわかりやすく言うなら、ゴミ処理場のような場所に繋がってしまっていたのです〗
彼女から聞かされた話によると、私が吸い込まれたグローリーホールを含め、穴やトンネルのようなものは、特定の条件が重なった時に、“別の場所”に繋がってしまう事がままあるらしい。
繋がる先は、場所毎にほぼ一定らしく、同じ惑星内での“転移”なら、余程危険な場所でない限り、彼女も放置する事がほとんどで、それが所謂“神隠し”と呼ばれたりするのだとか。
今回は、繋がってしまった時空の歪みを修復する途中で、私が落ちてきたのだそうだ。
それはさておき。
「つまり、神様的ゴミと一緒に廃棄されそうだった……と?」
〖本来生物の魂は、死後肉体から離れ、輪廻の輪へと戻っていくのですが、貴女は魂が肉体から離れる前に落ちてきてしまいましたので、その……魂もろともに……グシャッと……〗
それを聞いて、頭をよぎったのは、ゴミ収集車に放り込まれて、バリバリとプレスされていくゴミ達の様子だった。
「――そ、それは、助けていただいて、本当にありがとうございました」
〖いえ、元はと言えば、こちらの管理不足でもありますので。 それに、あのように功績を立てられた方を、そのまま消滅させるのは忍びないですから〗
とりあえず、深々と頭を下げると、どことなく苦笑を浮かべているような雰囲気でそう言ってくれた――のだが。
「功績って、何の事ですか?」
“管理不足“ってのは、多分そんな場所と繋がっちゃってた事だとして、“功績”って?
神様に褒められるような事は何も――
〖――それは、知らなくてもよい事です。 さておき、貴女には3つの選択肢を差し上げましょう〗
そう言って、彼女はゆっくりと説明をしてくれる。
所々、難しい表現もあったけど、概ね以下の3つが、私に与えられた選択肢らしい。
1つ。
全て忘れて、元の世界の輪廻の輪に戻る。
2つ。
ある程度の記憶を引き継ぎ、元の世界に帰る。
3つ。
記憶をそのままに、別の世界の輪廻の輪に入る。
「えっと、つまり……普通に死んで新しく生まれるか、死ななかった事にして元の世界に戻るか、異世界転生するかって事ですか……」
〖だいたいその認識で合ってます〗
普通に考えたら、せっかくの機会なのに、1はもったいないよね。
その点、どれくらいの記憶が引き継がれるかは分からないとは言え、知り合いや家族もいるから、2が安牌なんだろうけど……
ほら、私って、ヲタクでしょ?
そうなると、やっぱり――
〖ここにいる間、時の流れは無いようなものですから、ゆっくり考えていただいても構いま――〗
「――3にします」
〖………………〗
「3にします」
何となくだけど『マジかよ大丈夫?』みたいな微妙な空気を感じる。
〖――念のため説明しておきますが、そこは私が管理する別の銀河にある惑星です。 同じ管理者が管理しているため、類似点も多くありますが、決定的に違う部分があります〗
「地球に比べて文明の発展が遅れていて、動植物の他に“魔物”等の危険も身近にある、剣と魔法の世界、だったり?」
〖――どうしてそれを……〗
いや、こういう話のテンプレパターンなので。
それより、やっぱりありそうですよ“魔法”!
「決まりです、やっぱり3でお願いします。 ……どうせ、元の世界に戻っても、元通りにはなれませんし。 それなら、新しい世界で、1から幸せを目指したい」
〖……分かりました。 ではそのように。 貴女の魂は“惑星ミストレア”にて、輪廻の輪に入ります。 どんな家庭に生まれるかは貴女の運次第ですが、幸せを掴めるよう、少しだけサービスしますね〗
そう言うと、彼女が強い光を発する。
思わず腕を掲げ目を覆ったが、それも一瞬。
何となく、身体の中がポカポカしているように感じた。
「……なんか、暖かい……」
〖まだ転生前ですが、本来は生まれてから発現する、魂に刻まれた固有能力をあらかじめ活性化させました。 ――貴女の固有能力は……ふむ、想像具現化ですか。 珍しい能力ですが、きっと貴女は、イメージを形にするのが得意なのでしょうね。 ――それなら、これをオマケして差し上げましょう。 産まれる際に、魔力に関わる器官が強化されるようにしておきます。 これで貴女は、他の人より早く、効果的に魔力を高めていけるはず。 では、そろそろ――〗
その言葉を最後に、私の意識が急に遠ざかって行く。
「あの! 色々とありがとうございました!」
遠のく意識の中、何とかお礼の言葉を告げた私は、そのままここに来る前に感じたような、何処ともなく漂う感覚に身を委ねた。
頭の中に響いてきた〖あとは、貴女次第ですよ〗と言う言葉を、反芻しながら……。