(仮称)Element Children
昔友人とリレー小説として途中まで書いていたお話。
友人との相談の結果、ソロ用(?)として修正&ブラッシュアップして続き書いてよ、と言われたものの、思いのほか改修が難しく停滞している作品。
一応別サイトにて、リレーで書いていた原作(?)が40話くらいまで公開されてたりする(笑)
夜になり、ポツポツと設置された街灯に照らされるだけの、薄暗い十字路の真ん中で、一人の少女が立ち尽くしている。
その表情は、どこか困ったようでありつつも、視線は鋭く周囲に向けられている。
「囲まれてる、よなぁ……」
しくじった……そう小さく呟き、舌打ちを1つ。
やはり、迂闊に夜歩き回るものではないな、等とぼんやり考えながら、彼女――榎氏 想は周囲に感じる気配へと意識を向けた。
そこには幾つかの気配がある。
中型犬、とするには少し大きそうな気配が、何匹か。
とりあえず、両手で数えるにも時間がかかりそうだと、彼女は小さくため息をついた。
囲まれている以上、闇雲に動き回る事も出来ず、とは言え、このままジッと突っ立っているわけにもいかない。
一瞬も気が抜けないような状況に想は、次があったらしっかり気をつけようと心に決めた。
数時間前。
『今日は職員同士のお付き合いで、遅くなりそう。 夕飯は家で取れないと思うから、適当に食べてて。 ごめんね』
そんなメッセージが想の携帯に届いたのは、授業が終わってしばらくして、放課後の事だった。
送り主は、彼女の通う高校の教師であり、訳あって別の姓を名乗っている実兄梓 博道。
内容を確認した想は、どうせ夜まで一人なら、すぐに帰宅せずとも良いだろうと考え、久しぶりにのんびり読書に耽ろうかと、街の図書館に向かった。
途中、友人であり、“仲間”でもある桐島家に行くことも考えたが、如何せん急すぎて、迷惑をかけるわけにもいかないからと、図書館行きを決めたわけだが――
どうやらそれが、いけなかったらしい。
「……やっぱり本は買うに限るか……旦那に頼んでおけば良かったな」
完全に独り言である。
ちなみに旦那とは、想がアルバイトをしている古本屋の店主だ。
そういえば明後日はバイトだったなぁ等と、今はどうでも良い事を考えつつ、想は周囲に視線を走らせた。
戦う手段を作り出すには、コンクリート塀か地面に手を付く必要がある。
それを今すると、確実に攻撃されるだろう事は、じわじわと狭まる包囲からも感じられる。
おそらく、僅かな隙でも、相手は見逃さないだろう。
すぐに襲ってこないのは、彼女がただの一般人ではない事を感じ取っているためだろうか。
「仕方ない……か」
諦めにも似たため息を1つついた想が、息を大きく吸った。
そして胸の高さに両手をかかげ、半眼になる。
そのまま数瞬、意識を集中させた後、わざと靴の裏を地面に擦らせ、音を立てた。
その音を聞いて、それまでは完全に闇と同化していた“敵”が、一斉に動く気配がする。
「悪いな、少し縛らせて貰う」
想が言葉とともに、両手をばっと左右に広げた瞬間、周囲が淡く光輝きだした。
効果の確認もせず、広範囲に効果を及ぼす術の反作用である、軽いめまいと疲労感を振り切るように走り出す。
「三十六計……にも、手段は必要だろうし、な!」
そう言いながら、途中でコンクリートの塀に軽く手を触れると、手の平が光り、直後、少し大きめの銃が現れた。
これらが、彼女の能力。
人と、魔物。
異種族が共生し、生存圏を争う時代。
大昔から続いている、終わりの見えない戦い。
そんな中、魔物に対抗すべく、不思議な能力を持つ人間を作り出す研究が行われていた。
しかし、その研究成果は、十二年前に“爆発事故”で、跡形もなく破壊されてしまう。
わずか4人の、“成功例”を残して。
彼女もその一人だった。
人間にはない不思議な力。
敵対する魔物が扱うような力を、彼女達は使う事が出来た。
ゲームや物語で言うところの魔法のような物だ。
成功体である彼女達には、一つずつ属性が付いていて、想が持つのは『土』の力。
さっき使ったのは、大地の力で地に足をつけた敵を縛り、足止めをする術だ。
「さて……」
包囲網を突破する際、魔物達は二足歩行のイタチみたいな姿をしているのを確認し、恐らく敵が足の早いタイプだろうと当たりを付けていた想は、自然と町外れの雑木林へと足を向けていた。
それでなくてもこれだけの数だ。
下手に街中を逃げ回ったら、大惨事になりかねない。
「……こりゃあ、ますます援軍は期待できないだろうな」
一人でどこまでできるか分からないが、ただ黙ってやられてやるつもりも無かった。
図書館を出た時間から考えると、そろそろ夕飯時も終わる頃だ。
ふと空を見上げた想は、『そろそろ、足止めの魔法の効力も切れるだろう。 今日は晩飯抜きかなぁ』等とぼんやり考えながら、町外れの雑木林へと急ぐのだった。