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(仮称)新米魔王の冒険譚

勇者と魔王の物語は沢山あるけど、どうしても魔王は悪役のイメージが強いよね。

ってことで、某パンの頭を持つヒーローのアニメでも、菌な彼等が結構好きで、彼らのやりとりをちょっと微笑ましく見てしまう変わり者な私が、平和を祈るいい人な魔王の話を書いてみたくて書き始めたお話。

実は3話くらいまではあったりする(笑)

 

 ──魔界──


 多くの魔物達が住み、空は常に暗く、海は煮えたぎり、山は絶えず火を噴く……


 町や村と言えるような物はなく、森などの中で小さなコミュニティーを築いた群れが、縄張りを争っている。




 などと言う事は決してない。




 さっきので正しいのは“多くの魔物が住み”くらいの物だ。


 もっとも、人間は“魔物”って一括りにしてるけど、一定以上の知能があって、村や街で暮らしてる種族の事を、私達はまとめて“魔族”って呼んでるんだけど。


 とにかく、一部地域を除けば、未だに人間を見る方が稀だ……


 小さく溜め息をつきながら空へと視線を流すと、木々の間から見える青空には鳥――いやあれはハーピー族の人かな?――が気持ちよさそうに飛んで行った。



 魔界は今日も平和そのもの。


 なのに、どいつもこいつも人間と言うのは、魔界と言うだけで、薄ら暗いイメージを持つらしいが――


「だいたい海が煮えたぎっていたら、海辺に皆が住めないじゃない!」

「……突然何ですか? うるさいですよ」


 人間達の理不尽な魔界観に右手を振り上げて叫ぶと、すぐそばから、それはもう不機嫌そうな声が聞こえて来る。


「いや、人間達ってどうして、あんなにも魔界対して、悪いイメージを持ってるんだろうなぁ、と思って」


 言いながら、さっきの不機嫌さんの方へ視線を向けた。


「まぁ自分達とは違う姿形をした、言わば“異形の怪物”が住んでいる世界に対するイメージなんて、そんなものでしょう」


 漆黒の軽鎧に身を包んだ男が、ため息混じりにつぶやく。

 切れ長の目に尖った耳を持つその男は、人間族ではない。


 ダークエルフと呼ばれる種族で、まぁ人間から見た所の魔物、魔族の一種だ。


 かく言う私も、魔物の一種……と言うか、一応今は魔族達を纏める立場にいるわけで、所謂“魔王”ってやつになる。


「姿が違うだけで、同じ様に暮らしてると思うんだけどなぁ……。 仲良くすればいいのに」

「そう思ってる者達はいますし、実際、人間と共に生活している集落もありますが……。 元はと言えば、定期的に“勇者”なんてものを送り込んで来る人間達に問題があると思いますがね。 そもそも――」


 あ~あ……始まった、コレ、長いんだよね……


 しかたない、今の内にこっそり城に戻っちゃうか。


 目を瞑り、空を仰ぐようにしながら、なおも語り続ける男に気づかれない様に、足音を殺しながらその場を離れ、自分の家でもある城を目指して歩きだした。


「魔物と人間、か……」


 何十代も前の魔王から、ずっとつきまとう問題。


 元はと言えば、大昔の魔王が人間界を無闇に侵略した結果、勇者とやらに討たれたのがそもそもの始まりらしい。


 それ以来、長い間魔界と人間界は対立を続けていた。


 でも、その対立も、私の曾お爺ちゃんの代で緩和し、多少の交流が始まって、今では一緒に暮らす人達まで出てきている。


 それでも、やはり、魔界にも人間界にも、それらの交流――つまり、魔物と人間が仲良くする事が、絶対にあり得ない! とか言う考えを持ったままの人達も少なくないわけで――


「ただいま~」

「お帰りなさいませ、姫さ……じゃなかった……魔王様。 あ、先ほど、大臣が探しておられましたよ? なにやら火急の報告があるのだとか」


 城に辿り着いた私が、門の前に立った兵士に声をかけると、兵士からそんな話を聞かされる。


 火急の報告。

 おそらく、長年に渡って問題になっている、“アレ”についてだろう。


 私も、前の魔王である父さんが話しているのを、隣で聞いたことがあった。



 その問題とは――



「魔王様! ここにおられましたか!」


 広く長い廊下を歩きながら、途中まで考えた所で、後ろから声をかけられ思考を中断する。


「あ、うん、ちょっと出かけてて、んで? 報告があるんだって?」

「はい、実は――」


 声をかけて来たのは、さっき兵士から私を探していた、と言われた大臣だ。


 その顔は少し――いや、かなりやつれているように見える。


 そんな大臣の口から出た言葉は、やっぱり私が予想した通りのもので――


「人間界が、また、勇者を選出したようです」



 ――速攻で魔王を辞めたくなった。



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