プレコグニション 2、
新井は瞑想の中で、先ほどとは異なる予知を見た。水平線の彼方から、徐々に近づいてくる船団。その数はあまりにも多く、近づくにつれて威圧感が募る。100隻、いや、200隻だろうか? もしかしたらそれ以上いるかもしれない。甲板には大勢の人が乗っている。商船などではない。どう見ても軍船だ。
かなり近づいた時、船団は徐々にスピードを緩め、先頭集団が横向きになった。船腹には、一列に並んだ大砲。こちらに砲撃を始めるつもりだ。
「やばい、逃げないと!」
そう思った時、新井は瞑想から覚醒した。
新井が予知のために瞑想していたのは、現実世界ではほんの数分に過ぎなかった。しかし、新井自身はその何倍もの時間経過を経験している。新井の浅い呼吸が早まっている。今日は2回も恐ろしい予知を見てしまい、疲労感が全身を襲っていた。しばらく休みたいと、新井は切に願った。
横にいた神山明衣は、新井が憔悴しているように感じた。また、藤井にもサイコバリアを維持させたままにしている。このままでは二人とも動けなくなるだろう。
神山明衣は関森由紀の傍に寄り、尋ねた。
「由紀さんは疲労を回復させることはできる?」
「疲労なら短時間で回復可能です」
「それじゃあ、新井さんの疲労回復をお願いします。私は藤井君の疲労回復をします」
「分かりました」
関森由紀は新井に近づき、右掌を向けた。掌は新井の体から30cmほど離れている。たちまち関森由紀の全身が白い光に包まれた。その白い光は柔らかく、いつまでも眺めていたくなるような光だ。暖かみがあり、まどろんでしまいそうな、まさに癒しの光であった。白い光は次第に右肩に集まり、右腕、そして右手へと瞬時に移動すると、強く白い光となり、右掌から新井に照射され、そして右手を動かし新井の全身に白い光を照射していった。
新井は、今まで怠く重かった体が、あっという間に軽くなった。体は軽くなったが、予知で見た場面は心に突き刺さったままだ。心はそう簡単に軽くはならない。今までもそうだった。時間経過とともに軽くはなっていく。しかし、予知した悲劇を未然に防ぐことができれば、その分はすぐに軽くなるはずだ。先ほどの予知は、この世界、この国で起こるであろう未来だ。自分の生活している世界ではないが、気になって仕方がない。
関森由紀が新井の疲労回復を行うのとほぼ同時に、神山明衣も藤井の傍に立ち、疲労回復を始めた。