サイコバリア
両側に商店が軒を連ねる通りで、神山明衣たち7人はじっとその時を待っていた。道の先から、薄い緑色の衣装を身につけた24人と、茶色の衣装をまとった1人の男が、明らかにこちらを目指して歩いてくる。通行人は、彼ら25人の進路を避けるように道を譲っていた。
彼らが十分近づくと、緑の衣装の男の一人が進み出て、何かを話しかけてきた。
「藤井君。音声だけを通すようにして」
神山明衣が指示すると、藤井は即座に「はい」と応え、サイコバリアを調整した。話の途中からバリアを調整したため、冒頭の言葉は聞き取れなかったが、そのまま待っていると男はもう一度話し始めた。
「言葉は分からないのか?」
「すまない。言葉は分かる。サイコバリアをしていたので、聞こえなかった」
神山明衣が冷静に応えると、男は訝しげに尋ねる。
「サイコバリア?」
「サイコバリアを知らないか? どう説明する?」
明衣は藤井に視線を送った。
「損傷を受けない、あるいは損傷を少なくする能力です」
藤井が簡潔に答えると、男はさらに尋ねた。
「貴様らは日本人か?」
「そうだ」
明衣が答えると、男は懐疑的な顔つきで「ほう」と漏らした。
「逆に訊くが、あんたたちは何者だ?」
明衣の問いに、男は胸を張った。
「日本國国家安全保障省の者だ。ちなみに私は風軍第三大隊治安部隊所属の石田だ」
「じゃあ私の所属も伝えよう。私は、けいさ──」
そこまで言いかけた時、石田が突然、明衣の言葉を遮った。
「ちょっと待て、通信が入った」
そう言うと、石田はその場を離れていく。
「由紀さん、テレパスはできる?」
神山明衣は関森由紀に尋ねたが、由紀は残念そうに首を振った。
「残念ながらできません」
明衣はすぐに新井へと向き直る。
「プレコグニションはできる?」
「集中するのに少し時間が必要です」
新井が答えると、明衣は即座に指示を出した。
「すぐ取り掛かって。藤井君。サイコバリアは絶対に緩めないように。音波も遮断して」
明衣はそう言いながら周囲の状況を確認し、石田の動向を探った。
石田がいる方向には、風軍の兵士が何人かいて、直接彼の姿は見えない。神山明衣はわずかに目を細め、透視した。透かした兵士たちの先に、石田が立っている。誰かと話しているようだが、相手の姿が見えない。
(誰と何を話しているのだろう? 相手が見えない。通信が入ったと言っていたが、何も機器を手にしていない。ここからでは音波を通しても聞こえないな)
程なくして石田が戻ってきた。
その間、新井は地面に座り込んで瞑想に集中していた。
石田は何か話しかけてきたが、サイコバリアは音波も完全に遮断しており、何も聞こえなかった。