もう一つの世界へ
関森由紀の治療院に、総勢7人の面々が集結していた。
顔ぶれは、青島孝と関森由紀。そして、特殊捜査室から派遣された5人の精鋭たちだ。副室長の神山明衣、身体強化と規格外のパワーを誇る宮本綱紀、プレコグニションができ更に植物を自在に操る新井澪、若く経験は浅いがサイコバリアやサイコアタックの使い手である藤井真宙、そして、タイムリーパーである関森リコ。彼らは今から、未知の**「別の世界」**へと旅立とうとしていた。出発を前に、最後の綿密な打ち合わせが行われる。
本来であれば、由紀がこの危険な任務に同行する必要はなかった。しかし、彼女の意思は固い。それは、青島への心配から、というよりも、彼と離れたくないという切実な思いが本音だった。
青島の右手には、ずっしりと重い袋が四つ提げられている。それぞれの袋には、握りこぶしほどの大きさの石が一つずつ。それは、他ならぬ**「四石の抜け殻」**だ。
青島とリコを除けば、この世界への移動は全員にとって初めての経験だ。室内には、張り詰めた緊張感が漂っていた。
やがて打ち合わせが終わり、一行は関森リコを中心に集まった。リコは自身の両肩と両腕を差し出し、全員が彼女の体に触れられるようにした。青島が由紀の手を握り、他のメンバーも次々とリコの腕や肩に触れ、互いの連結を確認する。
リコが意識を集中すると、視界が歪み、世界が過去へと一気に遡り始めた。瞬く間に過去への遡りが終わり、そこから無数の可能性を秘めた時間が枝分かれする。その中の一本を辿り、彼らは現代へと向かっていく。
次の瞬間、7人が出現したのは、薄暗い路地裏だった。青島はいつも決まってこの場所に来るという。
「ドン!」
到着と同時に、青島の手から重い袋が地面に落とされた。四石のパワーを失った今、石を四つも持ち運ぶことは重くて長くはできない。青島は「フゥ~」と息を吐いた。
7人は一塊となって路地裏を抜け、表通りへと移動した。常に固まって行動する――それが打ち合わせで決定した最優先事項だった。それは、藤井の**「サイコバリア」**で全員を囲み、防御するためである。
表通りには、いくつもの商店が軒を連ねていた。神山明衣は、自分たちのいた世界とは全く異なる光景に目を見張る。まるで時代を遡ったかのような錯覚に陥る。鉄筋コンクリート製の建物はどこにも見当たらず、木造の家々が連なり、ほとんどが平屋か2階建てだ。3階建ての建物は時折目にする程度で、4階建て以上は存在しない。
「いつもだったら、もう引き戻されている頃合いなんですが……」
青島が呟く。しかし、一向に引き戻される気配はない。やはり、四石の抜け殻を持ってきたことが関係しているのだろうか。現在、四石の抜け殻は青島が1個、宮本が2個、藤井が1個、それぞれが分担して持ち運んでいる。特に宮本は、その規格外のパワーで石など持っていないように軽々と運んでいた。
さて、これからどうするか。彼らが持ち込んだ石に、今のところ変化は見られない。
しかし、変化は**「向こう」**からやってきた。彼らがまだ気づかぬうちに、この世界の何かが、彼らの存在に気づいたのだ。