謁見
建物の中に入ると、彼らは長い廊下を歩いた。奥行きがかなりのものだ。
廊下の左右にはいくつもの小部屋があり、それぞれの部屋の出入り口は閉じられている。採光があまりとられていないため、廊下は薄暗い。
廊下の突き当たりに着くと、渡辺が扉を引いた。そこは大広間だった。両端の窓から光が差し込んでいる。奥の一段高いところには御簾が降ろされており、御簾の向こうは薄暗くなっていてよく見えない。
宮内省大臣の松川は、御簾の方に向かって「陛下、お連れしました」と言って一礼した。それに倣って渡辺と8人の宮内警備隊員も一礼する。その後、関森由紀、関森リコ、青島、中原も続いて一礼し、中原が「この度は、拝謁賜り……」と挨拶を始めると、それを制すかのように、御簾の向こうから声が発せられた。
「堅苦しい挨拶は不要です。よく来られました」
御簾で隠され顔は見えないが、若々しい男性の声に聞こえた。
「お客様に椅子を用意してあげなさい。他の者も椅子を持ってきて掛けなさい」
そう言われると、宮内警備隊の中から7人が動き、大広間から一旦廊下に出て、どこかから椅子を14脚持ってきた。
全員が椅子に着席し、渡辺が主上に4人の客を紹介すると、主上は柔らかな口調で語りかけた。
「中原さん、貴方の能力は心を探り、操ることも可能。また、残留思念を探ることや、貴方自身の意識体を放つこと、更に特定の意識体を探すことも出来ますね」
中原は目を見張り、「おっしゃる通りです」と答えた。
「関森リコさん。貴方は時間を跳躍することが可能ですね。関森由紀さん。貴方は治癒能力をお持ちだ。そして、青島孝さん。貴方は……」
少しの沈黙の後、「**無**ですね」
「無とはどういった意味でしょうか」
青島が思わず尋ねた。
主上は少し間をおいて、答えられた。
「無というのは、言いかえれば白紙という意味合いと捉えて下さい。これからどのような色もつけることができる。つまり、どのような能力をも受け入れが可能です」
「説明して頂きありがとうございます」
「関森さん」と主上が言われた。
「はい」と関森リコと関森由紀が同時に返事をし、二人は顔を見合わせた。どちらの関森か分からなかったので返事をしてしまったが、自分で良かったのだろうかとお互い思っていた。
「関森さんお二人です。関森家は長い間、石を守ってこられた家系ですね」
関森リコと関森由紀が「はい」と言って頷いた。
「長きにわたり石を守って頂き、感謝します。本来ならば貴方がたの世界に行き、延々と石を守ってこられた故人の魂をお祭りしたいのですが、この世界を離れることはできません」
「私達がお連れすることができます」
関森リコが申し出たが、主上は静かに答えた。
「そうしたいのですが、残念ながら立場上、この世界を離れられません」
しばらく間をおいて、主上は続けられた。
「さて、中原さん」
「はい」
中原が応えた。
「私の心を覗き、石を渡すに値するかどうかの判断材料にしたいのですね」
「はい、そのとおりです」
中原は主上も心を読めるのではないかと、一瞬考えた。しかし、探られている感覚はない。
「始めてください」
いきなり始めて良いとの言葉に、中原は驚きながらも、「ありがとうございます。それでは始めさせていただきます」そう言うと精神を集中した。
同席している者たちは固唾をのんで見守った。




