意識体
渡辺が出ていくと、神山明衣は透視で部屋の外の状況を確認してから、中原の近くへ行き尋ねた。
「どうだった?」
「渡辺中佐の記憶をたどり、主上のおられる場所は分かりました。ここから近い所にあります。今から意識体を飛ばします」
中原はそう言うと、部屋の壁に背を預け座り込み、瞑想に入った。
神山明衣は関森由紀に、中原は意識体を飛ばすと体力の消耗が激しいので、後で疲労回復をするように頼んだ。
中原の意識体は部屋を出て、長い廊下を飛んでいった。突き当たりを右に曲がり、さらに長い廊下を中程まで進むと、左手に出入り口があった。その出入り口を通り抜けると、隣の敷地につながる小道が見えた。小道は林の間を通っている。
小道をそのまま進んでいくと、その先に鳥居が見えてきた。その先には石段がある。
鳥居の下を通ろうとしたが、見えない壁に阻まれ先に進めない。鳥居の脇からも、離れた場所からも石段にたどり着けない。中原は渡辺とリンクしている記憶を探った。
(なるほど、結界を張っているのか。戻るか)
中原は目を開け、立ち上がった。多少疲れはあったが、大したことはない。
「早かったね。主上には会えた?」
神山明衣は立ち上がった中原に尋ねた。
「残念ながらダメでした。結界が張ってあり近づけません。記憶領域の確認不足でした。確認していれば、意識体を飛ばしても無駄だと分かっていたのですが」
「結界か……」
神山明衣はがっかりし、沈んだ声音でさらに「どうするか」と呟いた。
「渡辺中佐の意識を支配して案内させましょうか?」
中原が提案すると、明衣は首を振った。
「結界に意識体がぶつかったことで、主上はこちらの動きを掴んでいるに違いないね。だとしたら、下手に動くと危険。どんな能力を持っているか分からない。向こうから何らかの動きがあるんじゃないかな」
「渡辺中佐の記憶の中には主上の能力が全て入っているわけではありませんしね。下手に動くとリスクは高そうです。しばらく出方を待ちましょう」
神山明衣と中原の会話を聞いていた他の者たちも、出方を待つことに賛成した。
1時間ほどして、渡辺中佐は7人の部下と、初めて見る8人の人物を連れて現れた。
「主上が謁見を許されるそうです。こちらの8人は宮内警備隊の方たちです。共に参ります。どなたが謁見されますか」
渡辺は少し声が大きい。主上からの言葉を伝えるだけだが、本人は納得していないのだろう。主上からの指示なので、仕方なく従っている様子だった。




