タイムリープ 2、
関森リコは、雑居ビルの入り口を見上げていた。彼女が目指すのは、このビルの一室で関森由紀が開いている治療院だ。由紀は、自身の特殊能力を活かし、難病や奇病に苦しむ人々を癒やしている。その由紀を支えるのが、雑事一切を引き受け、彼女が治療に専念できる環境を整える青島孝だった。
青島が「四石」の能力を得て以来、由紀のそばにいるだけで、由紀の能力も飛躍的に高まっていた。以前なら治療に難渋することも時々あったが、今ではそんなことはない。それどころか、患者に接しただけで、どこが悪くて来院したのかすらも分かってしまう――相手の心が読めるのだ。
リコがドアのインターホンを押すと、「はい」という穏やかな声が返ってきた。間もなくしてドアが開き、そこに立っていたのは青島孝だった。
「どうぞ中へ」
青島は先導するようにリコを室内へと招き入れた。玄関を入ってすぐ左手には受付カウンターがあり、右手にはトイレ。カウンターを過ぎると左に応接室、右には洗面所や浴室、洗濯乾燥機までが完備されている。応接室のさらに奥には、治療に使う部屋があった。
応接室に通されると、そこにはすでに由紀が腰掛けていた。彼女はリコを見て立ち上がり、にこやかな笑顔で「どうぞ、腰かけて」と促した。
青島が3人分のコーヒーを淹れてテーブルに置くと、由紀の隣に腰を下ろした。リコは二人の向かい側に座る。この後も患者の予約が入っているため、世間話をする暇はない。リコはすぐに本題に入った。
「確認したいのだけど、青島さんが別の世界に行ってしまう件は、向こうの世界に原因があるかもしれないと?」
リコが問いかけると、青島は深く頷いた。
「向こうの世界から呼ばれて引き寄せられている感じがしている。ただ、向こうの世界に行ってしまうと、今度はこちらの世界から引き戻されている。最近、ほとんど毎日見る夢――つまり、『石を返せ』という夢も関係しているかと」
「四石が関わっていると思っている?」
リコの問いに、青島は迷いなく答える。
「それ以外に考えられない。生まれてからこれまでに、こんなことは一度も無かった」
「これからどうするつもり?」
「四石の抜け殻を集め、何らかの変化がないか確認しようと思っている」
リコは、以前少し話した件を切り出した。
「前に少し話したけど、特殊捜査室の皆さんと一緒に向こうの世界に行き、調査したいんだけど」
青島は眉根を寄せた。
「危険を伴うかもしれないな。向こうの世界については、まだ何も分かってない」
「特殊捜査室の皆さんにガードしてもらうから、危険は回避できると思うわ。それに、万が一の時は、私が皆を連れて跳ぶ(タイムリープする)」
その言葉に、由紀も横から口を挟んだ。
「私もリコさんに賛成だわ。このままでは、あなたは倒れてしまう」
由紀の真剣な表情に、青島はしばし考え込んだ。そして、意を決したように頷いた。
「……分かった。リコさんの意見に従う事にする」
向こうの世界に行く前に打ち合わせがしたいという青島の提案で、その段取りは関森リコが行うこととなった。彼らは未知の危険に満ちた別世界へと足を踏み入れる覚悟を決めた。