緊急会議
渡辺が出席した緊急会議は、情報局内で開かれたものだった。会議の内容を要約すると、次の通りである。
欧米諸国を巡る謀略の中で、独逸を仏蘭西侵攻へと仕向ける案件と、露西亜が太平洋進出を目論み亜米利加に不利益をもたらすよう吹き込むことについては、まずまず順調に進んでいた。しかし、それ以外はすべて失敗に終わった。
失敗どころか、驚くべき事態が発生しているとの報告が入っていたのだ。それは、なんと英吉利と露西亜が手を組んだという信じがたい情報だった。犬猿の仲である両国が手を組むなど、ありえないことだ。
どのような利害が一致して両国が手を組んだのか。日本にとって、これ以上ない最悪の利害一致だった。
露西亜は太平洋進出の足がかりとして、まず北海道を前線基地にしたいと考えていた。そのため、北海道から日本を攻める計画だ。一方、英吉利は沖縄、九州と南から北上し攻め進める。それぞれが攻め落とした地域を植民地としていく――そんな約束を交わしたという情報がもたらされ、この緊急会議が招集されたのだ。
では、なぜ英吉利が日本を攻めようとしているのか。英吉利は欧米諸国の中でも魔法の発達が顕著な国だ。スパイ活動も活発で、優秀な人材とスパイ教育も充実している。もちろん、日本国内においても反政府活動家を取り込み、見事な諜報員として育成していた。そんな諜報員が最近捕らえられた。最初はなかなか口を割らなかったが、家族に危害が及ぶことを仄めかし、重要な情報を得たのだという。
その情報とは、日本には**「七神石」と呼ばれる七つの石があり、日本では神の力が宿る尊いものであるが、イギリスではこれを希少な魔石**と見ていて、これを手に入れることが目的の一つになっている。もちろん、日本産の良質な絹製品や陶器、漆器など、金儲けも目論んでいるのは言うまでもない。
情報局の会議内容に戻るが、情報局としては、正確な最新情報がどうしても欲しい。英吉利も露西亜も、その情報源は日本から遠く離れており、現在使用している風通信では何日もかかってしまい、最新の情報とは言えないのだ。そこで、移住してきた強化人間に注目が集まった。彼らの科学技術の高さは、一宮大佐と渡辺中佐から情報局上層部に伝えられていた。彼ら強化人間の科学技術で、風通信を上回る速さの通信手段がないかを探り、もしあれば提供してもらえるよう働きかける。これが、渡辺中佐に与えられた新たな命令であった。