次元転送 2、
林田未結は、渡辺中佐のもとへ戻ってきていた。彼女は今、神山明衣たちがいる部屋のドアの前に立っている。
林田はその鋭敏な聴覚で、部屋の中から聞こえてくる機械音――次元転送装置の音を聞き取った。すぐさま渡辺中佐にそのことを伝え、部屋の中に飛び込んだ。
神山明衣たち7人は、林田や渡辺たちの眼前から、まさに今、消えかけていた。次元転送装置が作動中は、その枠内に触れてはならない。触れれば体が分裂する可能性がある。この世界に留まる部分と、別の世界に行く部分に引きちぎられる危険があるのだ。それを知っていた林田は、神山明衣たちを追いかけようと前に出ようとする渡辺たちを引き止めた。
林田は渡辺に一言伝え、許可をもらうと、手に提げていたバッグから機械を取り出した。それは、ハンディタイプの集塵機のような物体だ。林田たち強化人間の科学者が開発した装置である。次元転送装置の作動後に残る粒子を集めるものだ。粒子を解析することによって、次元転送先を探り出すことができる。充電式でコンパクトであるため、持ち運びも簡単だ。解析には別の装置が必要なので、一旦持ち帰らなければならないが、その解析装置もすでに林田は宿舎の自室に持ち込んでいた。電力は自家発電だ。林田の驚異的な脚力によるペダル式自家発電で充電する。そんな機械をバッグに入れて持ってきていたのである。
林田は粒子を集めると、解析のため急いで帰宅した。解析装置は宿舎にある。もう日が暮れており、三日月がわずかな月明かりを落としている。しかし、強化人間である林田にとって、それは昼間に近いような明るさだった。宿舎までは約4km。道は舗装されておらず、砂利と砂で整備されている。ここ数日雨は降っていないので、足元はあまり気にせずに行ける。時速60kmほど出しているが、林田にとっては「歩く感覚」のスピードだ。4~5分もあれば着くだろう。
一方、そのころ渡辺は緊急会議の呼び出しを受けていた。
(これから会議か。深夜までかかるかもしれない)
そう思いながら、渡辺は会議室に向かった。風軍大尉の庄山には、林田が戻ってきたら待機しておくように伝えよ、と命じた。