次元転送 1、
渡辺は、もし神山明衣を捕縛し損なえば、もう取り返しのつかない事態となり、四神石を手に入れることが不可能になるのではないかと考えた。
「分かりました。元の部屋へ移動しましょう」
渡辺はそう言うと立ち上がり、先に部屋を出て廊下にいた林に指示を出し、神山明衣を宮本たちがいる元の部屋に案内させた。
部屋に入ってきた神山明衣を見ると、宮本は安堵した表情で迎えた。明衣は宮本から、特に何も変わったことは起きていないと報告を受ける。そして、明衣は青島、関森由紀、関森リコを近くに呼び、渡辺と話した内容を伝えた。
「四石が四神石である、というのが正しいことなのかは判断がつきません。ただ、最近見る変な夢とつながりがあるような気はします。もし、本当に四神石であるのなら、返す意思はあります」
青島はそう言って、関森由紀と関森リコに意見を求めるように交互に視線を送った。
由紀とリコはお互いの目を見つめ合った後、声を揃えて同じことを言った。四石のことは青島に任せてあるので、彼の判断に委ねると。
青島は答えを出せずに時間だけが過ぎていく。
「こうしたらどうかな」
神山明衣が沈黙を破り、提案した。
「一旦私たちの世界に戻って室長と相談し、中原さんをこの世界に連れてくる。そして、主上に謁見させてもらい、事の真偽を確かめるの」
青島はその提案を受け入れ、一旦戻ることに賛成した。他の者たちも異論はない。渡辺に話をしてから戻るべきか考えたが、引き止められても面倒なので、黙って戻ることにした。
神山明衣は背中のバックパックを下ろし、中から次元転送装置を取り出した。関森リコのタイムリープでも元の世界に戻ることはできるが、リコの場合、手間と時間がかかってしまう。その手間とは、過去に戻り、そこから歩いて移動し、安全に出現できるポイントに向かうことだ。リコは帰還できるよう、必要な地点に独自のマーキングをしていたが、それは彼女にしか分からないものだった。
次元転送装置ならば、移動したい場所の座標もセットできる。この世界の座標はすでにセット済みだ。帰還する元の世界の座標も出発時にセットしてある。したがって、より速く移動できる次元転送装置を使うのが得策なのだ。
次元転送装置が「ヒューン」と機械音を立てて作動し始めた。