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9/10

クリームソーダがいいな

 赤とピンクの可愛らしい外観。店内は優しい木目と白い天井。なによりも感動したのは。


「これが全部食べ放題……!」


 バーナードは大きな体を感動で震わせた。

 ショートケーキ、シフォンケーキ、ムース、シュークリーム、プリン、アイス、ゼリー、クレープ。それらがずらりと並んでいる。見ているだけで華やかで幸せなのだが。これを時間内ならいくらでも食べていいのだ。


「ビアンカさん、すごいです。天国です。キラキラしてます。眩しいです」

「ふふっ。バーナードさんの目の方がキラキラしてます」

「うぇっ」


 思わず皿を取り落としそうになって、バランスを取る。いつもビアンカはさらっとこういうことを言うので心臓に悪い。たまにはバーナードの方が彼女を褒めて驚かせたいと思うのだが、上手い言葉が思いつかなくて、あまりうまくいった試しがなかった。


「バーナードさん、それ美味しいですか。一口ください」

「はい」


 ビアンカが指さしたチョコレートケーキをすくい、差し出す。可愛らしい口が開き、ぱくんとチョコレートケーキを食べると。


「えへへ。間接キスですね」


 頬を染めて微笑まれ、ぶわっと体が熱くなった。完敗だ。




 にまにまにま。ルースしかいない団長の執務室で、バーナードは頬をゆるめていた。

 ビアンカと付き合うようになって三か月が過ぎた。可愛い彼女とスイーツ三昧の日々。幸せすぎてとろけている。


「クマ。そんだけにやけるほど幸せなら、普段もうちょっと愛想よくしろよー。ずーっとクマがしかめっ面だから心配してたぞー」

「幸せすぎて、笑うとこんな顔になるんだよ。部下にこんな顔を見せられないだろ」


 二人きりなので我慢をやめて笑顔になる。我ながら力の抜けきった笑顔だと思う。これでは示しがつかないと、普段は必死に真顔を保っているのだが、どうやらそれが不機嫌に見えるらしい。


「ぶわはははは! いいんじゃねーの? なんつーか癒し系ってやつだと思うぜー?」

「どこがだよ。気持ち悪がられるのがオチだろ」

「分かってねーなー、クマは」


 分かっていないのはルースの方だ。いかつい男がデレデレしていたら気持ち悪いに決まっている。

 脱いだ上着をかけたバーナードは、動いた影響でズボンから出ていたシャツを戻す。


「ん?」


 戻しにくい。ベルトがきつかったのだろうか。ベルトをゆるめて、シャツをズボンの中に突っ込む。ベルトの金具を穴に入れようとして違和感を覚えた。穴を数えてみる。

 いつもより一個分、外側の穴でないと入らない。つまり。

 さああーっと目の前が暗くなってバーナードは動きを止めた。


「どしたよ? 何とまってんだ」

「どうしよう。ルース」


 ぎぎぎ、と錆びた扉のように振り向いたバーナードは、絶望した。


「……太った」


 しばしの沈黙の後。


「ぶわはははははは! 乙女かよ。ウケる」


 ルースの大笑いが執務室に響いた。



 笑い事じゃない。切実な問題なのだ。切実な。

 待ち合わせの広場のベンチに腰掛け、バーナードは腹をさすった。


 今まで体型のことなど気にしなかったから、太ることなど失念していた。外見のいかつさは変えようがないのだから、せめて体型くらいは維持したい。格好いいと思ってほしい。


 ビアンカとの思う存分スイーツ三昧は、楽しくて美味しくて幸せだ。断りたくない。

 しかしスイーツを食べすぎると太ってしまう。


 ああ、ビアンカとのスイーツデートだけでなく、前と同じようにルースにスイーツを買ってきてもらって食べていた、過去の自分を殴ってやりたい。


「バーナードさん。すみません。お待たせしました」


 本日のビアンカは、ふわふわの白い髪に赤い髪留め。目にも鮮やかな緑色に白い水玉模様のワンピース。一目見てクリームソーダみたいだと思った。それも真っ赤なさくらんぼが乗ったやつだ。

 今日も可愛い。そして、美味そうだ。


 ぐううううううぅ。


 しまった。

 ついスイーツを連想するからだ。


「……」


 聞こえていませんようにと祈りながら、恐る恐るビアンカの様子をうかがう。ビアンカの赤い瞳が、バーナードの腹に向いていた。これはばっちり聞かれている。


「うぇっ! 違うんです。これはその、決して太ったからご飯を我慢していた訳ではなくてですね」


 ぶんぶんと頭と両手を横に振ると、ビアンカの目が丸くなった。


「太ったからご飯を我慢? バーナードさんが?」

「うぇっ? どうしてバレて……あああああ。僕の馬鹿。全部言っちゃってるぅ」


 また口が滑った。

 がっつり白状してしまうなんて。自分のあまりの馬鹿さに、バーナードは頭を抱えた。


「あの、バーナードさん」

「はい」


 頭を抱えていた腕をどけると、頬を膨らませて両拳を握ったビアンカがいた。


「バーナードさんのどこが太ってるんですか。私、ぷにぷにのぽにぽにのお腹なんですけど! それで太ってるとか嫌味ですか。戦争ですか。贅肉具合じゃ負けませんよ」

「うぇっ、ちょっ」


 小さな手が伸びてきて、バーナードの腹を掴もうとして失敗した。


「なんですかこれ。硬い。ちっともお肉ないじゃないですか。こんなの太ったうちに入らないですよ。このこのこの~っ」

「ひゃああっ! やめて、ビアンカさん」


 掴めなかった代わりにもみもみと指を動かされ、驚きとくすぐったさにバーナードは悲鳴を上げた。涙目になって距離を取ると、怒った顔のビアンカに睨まれた。その顔も可愛いけど、怖い。


「バーナードさん!」

「ひゃい!」

「もー。なんでそんなに可愛いんですか。私よりずっと可愛いなんて反則です」

「どこが!?」


 小さな手でぽかぽかと腹を叩かれた。むくれた顔とその仕草が小動物みたいで可愛い。

 少なくとも、見た目だけの情けない男よりもずっと可愛い。


「ビアンカさんの方が何倍も可愛いですけど」


 思ったことを正直に口にすると、ビアンカの頬が染まった。真っ赤なさくらんぼみたいで、つい手が伸びる。柔らかな頬に触れると、もっと赤い潤んだ瞳が揺れて、ゆっくりと閉じる。もっとぷっくりと柔らかそうな唇に吸い寄せられて。


 ぐううう~。


 触れるよりも前に、バーナードのお腹が鳴った。台無しだ。


「すみません……」

「ぷっ」


 口元に手を当てたビアンカが吹き出した。


「バーナードさんはスイーツの前にご飯食べましょうね」

「余計に太りそうだなあ」


 ビアンカが白い手を差し出した。少し温度の低いその手を取り、軽く握って歩きだした。どれくらい力を入れたらいいのか、毎度悩みながらそっと手をつないでいる。


「お腹のお肉の敵は、バランスのいいご飯なんですよ。ご飯抜いたら余計に太るんですから」

「そうなんだ」

「そうなんですよ。経験者の言うことですからね。信用して下さい」


 得意気にビアンカが胸を反らした。ふふっという笑いと吐息が、白く空気を染め、赤くなった鼻の頭をかすめて消える。

 バーナードはつないだ手を、ずぼっとポケットに入れた。


「ご飯の後のスイーツはクリームソーダがいいな」

「この寒い日にですか」

「うん」


 さっき食べ損ねたから。次はいけると思う。いけるといいなと思う。いけるかな、と思う。

 そんなことをぐるぐる考えながら、バーナードは小さな歩幅に合わせて、ゆっくりと足を進めた。

たくさんのブクマ、☆をありがとうございます!

みなさまのおかげで、長くランキングに載ることができました。


嬉しくて、ふと思いついたSS投下しました。

楽しんで頂けましたら幸いです。


誤字報告も助かります。全て有りがたく拝見し、取捨選択させて頂いてます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] とても面白かったです。相思相愛って素敵です(ΦωΦ) [一言] 読ませて頂きありがとうございました
[一言] かわいいクマさん、かわいい彼女。 かわいい×かわいいで、死ぬほどかわいいカップルの完成ですね!!! あまりの可愛さに悶絶していたら、SSも追加されていて嬉しい限りです。 これはカップル推し…
[良い点] ああっ こ、これはビアンカさんもバーナードさんも可愛いですね。 相変わらずスイーツが美味しそう。 そして、ビアンカさんをクリームソーダに例えて、食べたいなんて! 少々太っても、これは幸せ太…
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