表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/10

可愛くて美味しそう……

「ぶははは! それで今日は朝早くから出勤というわけか。ひーっ、腹痛い」


 住民からの通報記録、街の巡回報告書。手配犯のリスト。備品の発注書、納品書の数々の承認。上層部からの連絡事項。部下からの要望、提案。黙々と書類を片付けているバーナードの前で腹を抱えたルースが、目尻の涙を拭った。


「女の子に声かけられただけだろー。テンパって逃げ出すとかクマらしいわー。ウケる」

「し、しようがないだろ。女の子に悲鳴を上げられるのならまだしも、声をかけられるなんて」


 幼馴染兼友人のルースから目を逸らし、バーナードはぼそぼそと言い訳をした。

 クマというのは、子供の頃からのバーナードのあだ名だ。同級生より一回りも二回りも大きな体格から、クマと呼ばれてきた。故郷でのあだ名は親しみのこもったものであったが、騎士団長となった現在では、バーナードの人柄を知らない者から『人食い熊』などという畏怖と悪意のこもったものとなっている。

 

「クマに声かける女って気の強そうなのばっかだもんなー」


 強面で偉丈夫の『人食い熊』などと呼ばれる騎士団長に近寄る女の子はいない。少し危ない男が好きな百戦錬磨の女には人気があるのだが、バーナードはそういった女性が苦手だった。ぐいぐい来られて正直、怖い。


「んで。可愛かったのか、その子」

「へあっ?」


 今朝の少女の姿が浮かんだ。小さな顔に大きな瞳。ふわふわの白い髪。黄色のワンピースが似合っていた、パンケーキのような女の子。この上なく可愛くて美味しそうだった。

 ……美味しそう? なんだその変態思考。

 他人にそんなことを思ったのははじめてだ。


「ぶはははははははは! わっかりやす!」

「何が!?」

「それだけ顔に出てて自覚なしかよ。ひーーっ、ウケる。ほれ、これ食ってこれ飲んで落ち着け。冷やせ」

「冷てっ! あ、サトウ商店のねじねじパンと苺牛乳!」


 頬に当てられた牛乳瓶に首をすくめてから、目の前にぶら下げられたパン屋の紙袋を見て、バーナードの目が輝いた。


「いつもありがとうルース」

「おうよ」


 いそいそと袋を開けると、砂糖たっぷりの揚げドーナツが三つ並んでいる。

 慎重に取り出してパクリと口に入れる。カリッとした歯ごたえと砂糖のじゃりじゃりが舌を刺激した後、ふっくらと柔らかい生地から、じゅわりと甘さが口いっぱいに広がった。


「ふわぁ。美味い」


 至福。脳が溶ける。


「ぶはははは! マジで幸せそうに食べんな、クマは。普段からその顔見せれば取っつきやすいのに。今日のしごきで新人ども、恐怖に震えてたぞ」


 苺牛乳瓶のふたを開けながら、バーナードは真顔で答えた。


「駄目だ。これでも騎士団長だからな。舐められるわけにはいかない」


 ぐいっと瓶をあおる。甘い香りと、まったりと濃厚なのど越しがたまらない。


「真面目だなー」


 ルースが紙袋と一緒に持ってきた、今朝の分の書類を差し出す。その際に一枚目の書類がめくれ、下から別の書類が覗いた。


「あ」


 書類に視線を落としたルースが動きを止める。


「どうした」


 瞬く間に三つを平らげ、指についた砂糖を舐めとったバーナードは、ルースの手元を覗いた。


『不審者情報。早朝のパンケーキ屋に怪しい男』


 ゴン! めり込む勢いで机に突っ伏すと。バーナードの肩に、ぽんとルースの手が置かれた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小鳩さんブッ刺せ企画 素敵な異世界恋愛の短編が集まっています。 よろしければ下記からお好きな作品をお探し下さい。 ↓検索
小鳩さんブッ刺せ企画

肉フェス2022 バナー提供/遥彼方さま
― 新着の感想 ―
[良い点] にゃはははは、これは可哀そう(*´艸`) イチゴ牛乳を飲むバーナードに萌え死にそうです(/ω\)
[良い点] 不審者情報www ルース系の人も好きなんですよね( *´艸`) さて、ヒロインはどんな人か、そっちも楽しみです!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ