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勇者に殺される運命の村人に転生してしまった。  作者: 理〜ことわり
第1章 魔女
7/22

森の魔女との対決が迫ってくる中、市が開かれる。

そこで出会った者とは?

蝋燭の灯りが顔を照らす。

その眩しさではっきり目覚めた。

目の前には執事が立っていて手許の蝋燭の火種を、俺の燭台に移してくれる。

2本の蝋燭の灯りがゆらゆらと暗い室内を照らす。

執事に礼を言い、身支度をする。


もうすぐ月が替わり7月になる。

転生してからまもなく4日目を迎える。

部屋を出ると、蝋燭の心細い灯りから伸びた影が廊下に広がる。

蝋燭の届かない先は漆黒の闇だ。

階段を降り、お嬢様の部屋の隣、臨時の詰所の扉を開ける。

中に居るカーターと目くばせをし、交代任務につく。


詰所の中はしんと静まり返っている。

隣のお嬢様の部屋からは物音ひとつ聞こえない。

館全体が眠りについている。

朝6時起床、夜10時就寝が基本の生活パターンだ。

蝋燭の光が、暗闇の中で異物となって自己主張をする。

俺は、何もすることが無いので、転生してからの事を振り返ってみる。


前世の記憶を持ったまま転生した。

技術や知識もこの頭の中にある。

ただ、それを活かせる場所がない。材料も無い。

例えば、武器にしたってそうだ。

俺は日本刀の作り方を知っている。

その知識を活かそうにも、俺は唯の村人で、鍛冶屋ではない。

材料もそうだ、鉄は手に入るとして、軟鉄と玉鋼はどうやって手に入れる。

火入れをするための道具はどうやって揃える。

知識はあっても出来ないものは出来ない。

この世界で生きてゆくには努力しか無い様だ。

幸運なことに、恵まれた体がある。燃費は悪いが体力は他人より頭一つ抜けている。

今は『レオン』の体力が頼みだ。


夜が静々と進んで行く。

部屋の外から少しずつ騒めきの音が聞こえてくる。

もう、間もなく朝だ。

新たな1日が始まろうとしている、7月1日、市の立つ日の朝だ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


カーターと交代し表番の警護は終了した。

館の従業員食堂に顔を出し、朝食を摂る。

昼の交代までどう過ごすか考える。

昨日、野獣が出た場所に何か残っていないか探してみるか。

俺はそう考え、家宰に野獣の痕跡の調査を申し出、あっさり許可された。


館から出て広場の方へ向かって歩く。

丁度、広場の周りは市の日で賑わっている。

結構な人だかりだ。

その中で、野獣が出た場所だけがぽっかり空いている。

一面下草が生えているが、その場所だけ枯れていた。

探してみたが、異変はその程度で野獣の体毛1本落ちていなかった。

「うーん、手がかりは無しか…」

俺は、その場に立ち尽くし、これからどうするか考える。


広場の向こうの方から、俺の方へ手を振っている奴がいた。

よく見るとファティマだ。

こちらの方へ速足で近づいてくる。

「レオン!」

嬉しそうに俺の名を呼ぶ。

「まさかこんな場所に居るとは思わなかったわ。」

明かるげな口調で話しかけてくる。

「仕事は良いの?」

「今って時間ある?」


矢継ぎ早な質問に戸惑いながら答える。

「丁度、調査が終わった。12時に交代なので館に戻ろうと思っていたところだ。」


「あら、でも未だ十分時間あるじゃない。」


確かに、調査は1時間ほどで終わったので、昼までまだ3時間ほどある。


「良いから付き合いなさいよ。」

そう宣言すると、俺の腕をとって密着してきた。


ファティマさん、胸が当たってますけど??

夏の暑さに対抗するように、麦わら帽子を被り、ゆったりとした薄手のワンピースを着ている。

胸元の空いたワンピースから二つのふくらみが見えている。

こいつ、わざと見せびらかしてるな。

そう思っていても男の性か、どうしてもふくらみに目が行ってしまう。


俺の視線をとらえ、ニャっと笑みを浮かべるファティマ。

貴方は私の虜よと言わんばかりな態度だ。

ファティマは俺が逃げられないよう、腕をガッチリ極め、市の中心へと引っ張っていく。


市には普段お目にかかれないものが並んでいた。

その中でも、食べ物の屋台の方へファティマは誘う。


俺も燃費が悪いが、負けず劣らずファイティマも食欲旺盛だ。

育ち盛りのせいか、つい2時間ほど前に朝飯を食ったとは思えないほどだ。

「あそこに焼き串があるわ。」

そう言うと焼き串屋の前まで連れてこられた。


俺も、食べることに異存は無い。

「おっちゃん、焼き串2本呉れ。」

注文すると、ジュージュー音を立てて焼きあがった焼き串に甘辛いたれをかけて渡してくれる。

良い匂いだ。


「毎度あり、焼き串2本は銅貨40枚でさぁ。」

農村の生活では、あまり金は使わない、が市の日は別だ。

ちなみに、銅貨1枚が前世では20円ほどの価値となる。

前世のお祭り屋台はどれも1つワンコイン500円くらいだった記憶があるので、相場としてはそんなもんか。

ちらっと前世の記憶を呼び起こしながら、ファティマと焼き串にかぶりつく。

味はドネルケバブに似通っていた。


「美味しいね。」

とびっきりの笑顔を見せて焼き串を平らげていく。


俺も食べる分には負けてはいない。


食べ終わると、ファティマは次の獲物に狙いを定めたようだ。

「次はクレープが良いかな。」


おいおい、この底なしの胃袋め!

俺は心の中でため息をつきつつ、引っ張られるままクレープ屋まで付いていく。


「私はイチゴ、レオンは?」


「じゃあ、チョコレートを呉れ。」


注文を聞いたお姉さんが、一枚づつクレープを焼いていく。


体は大きいが俺も未だ12歳だ。

甘いものが嫌いなはずがない。


こんがりきつね色に焼きあがったクレープにかぶりつく。


「そっちのクレープも味あわせて。」

そう言うと横から俺のクレープに噛り付く。

間接ナントカというやつだ。


俺もお返しに、ファティマのクレープを齧ってやった。

傍から見ているとバカップルに見えたに違いない。

だが、後悔はしていない。


食べ終わると、細工屋台の前に連れてこられた。

店先には、装飾品が所狭しと並んでいる。

そのうちの緑色の石が付いたペンダントに目が留まったのか、俺の方を伺ってくる。

じーっと俺の方を見てくる。


こいつは、相当気にいったんだろうな。

そう思ったが、口にはしない。


俺が逡巡していると、更に胸を俺の腕に押し付けてくる。

ハイハイ分かりましたよ。このままこうしてても解放してくれないだろうなぁ。

人質に取られた俺の腕の解放条件として、細工屋とペンダントについて交渉する。

まあ、朝晩のメシと昼の弁当のお礼だと考えよう。


何々、銀貨1枚?

銀貨1枚は銅貨400枚と等価交換となる。

前世の価値にして8,000円といったところか。


「お兄さん、じゃあ、そのペンダントを呉れ。」

俺は、財布の中身を空け、代わりにペンダントを受け取った。

すっからかんだ。お嬢様の件が片付いたらお給金が入るんで、それまでの辛抱だ。


受け取ったペンダントをファティマに渡そうとすると。


「首にかけて。」


「お前にいつもメシ作ってもらっているお礼だ。」

俺は、仕方なく買ったばかりのペンダントをファティマの首に掛けるのだった。


「ねえ、似合ってる?」


「そこに鏡があるから見てみろよ。」


「そうじゃないの、レオンから見て似合ってるかどうかなの。」


「まあ、似合ってると思う。」

俺は柄にもなくファティマを奇麗だと思った。


「ありがとう、大切にするわね。」

そう言ってファティマは嬉しそうに鏡に向かってポーズを取る。


そろそろ12時が来る。

「仕事があるから、もう行かなきゃならない。」


「うん、わかった。お仕事頑張ってね。」


俺はファティマに別れを告げ、カーターと交代するため、広場を後にし、館へと戻るのだった。

連投です。

レオンくんは上手くやれたでしょうか?

元は脳筋馬鹿ですからね。

上手くやれたのならこれからの展開に期待です。

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