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勇者に殺される運命の村人に転生してしまった。  作者: 理〜ことわり
第1章 魔女
5/22

身辺警護

転生2日目を迎えた主人公、これから逆転の秘策を練り上げていく。



転生2日目の朝。

身支度を済ませると、隣家のファティマの家で朝食の席に着く。

今日は6月29日、昼から半休となる日だ。

然し、暫く休むどころか家へも戻れなくなる。

少し憂鬱な気分のまま朝食を済ませると、ファティマに「行ってきます。」の挨拶をし手荷物を持ち領主館へと向かう。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


外は雨が降っていた。

そういえば、昨日は雲が掛かっていて月が見えなかった。

そろそろ新月だし、晴れていてもあまり見えないだろう。

魔女は、満月の夜と言ったが、月が何か関係あるのだろうか?

そんなことを考えながら、一人雨合羽を被り領主館への上り路を急ぐ。


館に着くといつも通り門番に挨拶をし、使用人通用口から中に入る。

今日から暫く泊まり込みだ。

執事に挨拶すると、屋根裏の使用人部屋の一室に案内される。

使用人部屋は、地下と屋根裏にあり、夏は地下が涼しく。冬は屋根裏の方が暖かい。

今は夏なので夜でも熱気が残り寝苦しい。

当然、ファンタジー世界にエアコンも扇風機も無い。


部屋の中は、外壁際にベッド、隣室の壁の前に小机と椅子、質素な作りだ。

あとで、メイド長に言って、布団の上下と枕を支給してもらうことにする。

屋根裏部屋は場所によって高さが違う。

外壁側では90センチほどしかなく中央の高い場所でも180センチくらいだ。

なので、俺は屈まないと歩くことすら出来ない。

外壁に採光を兼ねた格子のついた空気取り口があるだけで、窓は無い。

雨で陽は射していないが、外光が入り明るい。

格子であって網戸では無いので虫は入り放題だ。

木の板で塞げるようになっているが、今は明り取りのため開けてある。

当然、夜は真っ暗なので蝋燭が無いと何も見えない。

蝋燭は月に1本支給され、2本目から給金から引かれる。

家から担いできたチェスト(衣装箱)を床に置き、2階の家宰の執務室に出頭することにした。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


家宰の執務室の前に立つとノックをする

「入れ。」と声が掛かり、入室する。


「ご苦労、準備は済ませたかね?」


俺が「はい。」と答えると。


「それでは、これからの事を言い渡す。」

「お嬢様の身辺警護を、カーターとお前で交代で行ってもらう。」

「お嬢様が起きて支度を済ませるとすぐ護衛に着くこと。」

「傍には執事と、お嬢様付女中も同行する。」

「お嬢様の部屋の隣にあるクローゼット部屋を臨時の詰所とするので、夜は不審者を監視すること。」

「夜の監視と食事は交代で摂ってもらう。」

「以上、質問は?」


「ありません。」


「ではカーターと相談して、役割分担を決めたまえ。」

「以上だ。」


「承知しました、では、失礼します。」

家宰の執務室を退室すると、次に従士詰所へ向かう。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


従士詰所のドアを開けると、カーターが待っていた。

「座りたまえ。これからの事を話し合おう」

金髪にガッチリ体形の細マッチョ、見た目はこの世界でもハンサムと言って良いだろう。


テーブルを挟みカーターの前に腰かけると、次の言葉を待った。


「今日から僕と君とでお嬢様の身辺護衛を行う。」

「1日交代で、今日は僕が表番で君が裏番、明日が君が表番で僕が裏番。」

「昼間の護衛と夜間監視は表番が行う。」

「昼の食事休憩と夕方6時から夜12時までは裏番が代行する。」

「裏番で空いた時間は館から離れない限り自由にして良い。」

「何か、質問でも。」


「ありません。」


「では、今から開始だ。まず今日は僕が表番をするから、交代時間になったら来てくれ。」


「了解しました。」


こうして、お嬢様の身辺警護が始まった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


俺は裏番なので、早速館の図書室の文献探索を始める。

執事に会いに行き図書室の鍵を貰う。

図書室は1階の礼拝室の隣にあった。

中に入ると、薄暗かった。

窓の鎧戸を開け、外光を招き入れる。

室内には燭台の他は光源は無く、陽光が最大の明かりだ。

今日は雨なので、その陽光さえ乏しい状態だ。

魔女に関する本が無いか探す。

と言っても、本の数は100冊程しかない。

本はとても貴重品で、1冊1冊革装丁ですべて手書きだ。

村には本屋なんて無いし、村人が本を読むことも無い。

唯一文字に接するのは、教会の預言書を読むときくらいだ。

自由民の村人は、8歳になると教会に併設される寺子屋で、文字を習う。

教科書は神の啓示が書かれた預言書だ。

村人は、そこで必要最低限の文字を習うが、農奴にはその機会さえ与えられない。

農奴に許されるのは教会のミサで祈ることだけだ。


俺は魔女と関係ありそうな本を2,3冊棚から抜き出し、書見台に置いた。

図書室には机も椅子も無く。あるのは本棚と書見台だ。

書見台は窓を背にし、外の光で本が読みやすくなっている。

『レオン』の脳が文字を読みたくないと悲鳴を上げているが、それを無視し、少しづつ読み進めていく。

少し読むと気になる箇所があった。


「…魔女は満月の夜に魔力が最大になると言われている…」

魔女の伝承に関する本にはそう書かれていた。


「ふむ、つまり魔女が予告した満月の夜は、相当ヤバイと言う事か。」


他に何か手がかりが無いか丹念に調べていく。

が、そうそろそろカーターの昼休憩の時間が近づいており、『レオン』の頭脳も相当疲れているようだ。

『レオン』の体はハイスペックでも頭脳の方は極端なロースペックだ。

俺が転生したおかげで何とかロースペックの頭脳を活性化させようとする。

こいつの頭脳が前世の俺並みになるまでもう少し時間が掛かりそうだ。

本を棚に戻し、鍵を掛けると、図書室を後にする。

更に、交代前に昼食を済ませておく。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「交代に参りました。」

カーターにそう声を掛け昼食の任務につく。

当然、お嬢様も食事の時間なので、基本的にすることが無い。立っているだけだ。


食事が終わると、お嬢様は俺に声を掛けてきた。

「5日前の事、誰かに話しました?」


「いいえ、5日前に何があったか忘れました、覚えていないので誰に話すこともできません。」


そう返すと、お嬢様はニコッと笑い。

「そう、それで良いのよ。」

と言って食後のお茶に手を伸ばした。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


昼が過ぎると、皆で家宰の部屋に集まる。


「何か、変わったことがあったかね。」

家宰の一言で午後のミーティングが始まった。


「魔女の伝承に関する本で『…魔女は満月の夜に魔力が最大になると言われている…』と言う箇所を見つけました。」

「なので、満月になる前に魔女を見つけ出し,退治した方が良いと考えます。」

俺は、午前中に調べた内容からそう提案した。


「ほう、そうかね。それでは明日から森へ兵士をやって、見つけ次第魔女を殺すとしよう。」

「ご苦労だった、他に意見は?」


沈黙が意見無しと判断され、本日のミーティングは終了した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


午後も図書室で調べものをする。

調べるのは魔女ではなく、呪いに関する本だ。

何冊かそれらしい書物を抜粋し、書見台にて目を通していく。

雨が上がったので、書見台に射す陽光は明るく、文字が読み易い。

読み進めると、気になる箇所が見つかった。

『...呪いは、術者と呪術具と対象者、3つ揃わないと発動しない...』

あのとき、魔女はチャクラ(呪術具)を手に持っていた。

今回また現れるとして、呪いを発動させないため、呪術具を魔女から取り上げればいいのではないか?

呪術具を取り上げる方法について考えてみることとして、他に何かヒントらしき物が無いか別の文献も当たってみる。


そうこうしているうちに夕方の交代時間が近づいてきた。

窓から射す光もやや赤みを帯び、影も長くなっている。

部屋の中も薄暗くなり、そろそろ蝋燭を灯さないと文字が読みづらくなってきた。

「今日は、これくらいにしておくか。」そう独り言ちて散らかした文献を片付けていく。

鍵を閉め、館のコック(料理人)に会いに行く。

先に夕食を済ませるためだ。

この機会を逃すと、夜12時まで食事が摂れない。

燃費の悪い『レオン』にとっては一大事だ。

コックから使用人用の夕食を配給してもらうと、従者詰所にて平らげる。

食事が終わると、丁度交代時間となった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


カーターと交代する。カーターはこれから夕食を済ませ、夜12時の交代時間まで仮眠を取る。

明日はそのまま俺のルーティーンとなる。


夕食の勤務も基本昼食と同じで、立っているだけだ。

今回は、お嬢様からお声はかからず、夕食が終わると臨時の詰所へ移動する。

お嬢様から声が掛からない限り詰所にてひたすら不審者の番をする。


その日は、何事も無く、夜12時の交代時間を以て本日の身辺警護任務は終了となった。

5話目。やっと転生2日目となりました。

話が少し地味ですが、この後には怒涛の展開を予定?しております。

もう暫く、お付き合いください。


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