領主館
1週間のご無沙汰です。
まだまだ続きます。
「あなた、何者なの!」
目の前の少女『シャルロッテお嬢様』はそう言った。
俺の発言を訝しんだようだ。
そうだ、俺以外の者には『脳筋のレオン』と見えているに違いない。
その俺が、魔女について、図書館の文献を当たるというのだから、流石に驚くに違いない。
以前の俺なら、さしづめ『魔女なんてこの槍でぶっ殺してやります。』
とでも言ったことだろう。
今の俺はというと、至極冷静だ。
一応どう対処するか、館へ来る道なりに考えている。
一つは、魔女の呪いが罹らなかった俺に対して、警戒して呪いの発動を躊躇うかも知れない。
...本当は呪い殺されたのだが、魔女はそのことを知らない。
二つ目は、魔女は呪いを発動するに少し時間が掛かったように思う。
その隙をを突き、魔女が現れたら、すかさず対処する。
今はそんなところだが、もっといい対処法が見つかるかもしれない。
図書室で文献を当たる価値はある、そう俺は踏んでいた。
が然し。疑いの目を向けられている目の前のお嬢様を今は、何とかしなければならない。
「お嬢様、私に何か疑いでも?」
俺はすかさずお嬢様に返答をした。
「何でしたら、4日前の嵐の日にお嬢様がなさった事を一からお話ししましょうか?」
その答えを聞くと、お嬢様は誰が見ても狼狽えていることがまる分かりの様子でこう言った。
「そのことは、言わないで良いわよ。一寸貴方が真面目な事を言うから、びっくりしただけよ。」
「まあ良いわ、それより褒美の件、何か考えておいた?」
4日前嵐の日の話題から話を逸らそうとするかの様に別の話題を振ってきた。
やるじゃないかこのお嬢様。
だがこの話題をジョーカーとして取っておきたいので、俺はお嬢様の振ってきた話に乗ることにする。
「では、20日分のパンを頂けますでしょうか。」
「暫くお城に詰めるとなりますと、市にも行くことができず難儀します。」
俺は先程のファティマの顔を思い出しながらそう言った。
暫く親父さんと酒場の後家のバカップルぶりにあてられやがれ。
心の中で悪い顔をしながら俺は食生活の改善を図った。
その声を聴くと。
「良いわ、3か月分のパンを手配するわ。」
「だ・か・ら、4日前のことは忘れなさい。」
そうか、ジョーカーを手放せってか?
ここは素直にその提案に乗っておくことにする。
「ありがとうございます、それで結構です。」
お嬢様のいかにも勝ち誇ったような顔が少し癪だが、思わぬ拾い物をしたのには違いない。
周りはと見渡すと、お嬢様とのやり取りに、何が起こっているのか訳が分からず、一様にキョトンとした表情を浮かべている。
ハッとした様に家宰が「お嬢様、手配いたします。」
お嬢様に向かってそう言うと、今度は向きを変えて俺にこう言った。
「この件が解決するまで館に詰めてもらう代わり、お前の畑の面倒は、こちらから農奴をやって見てやる。」
「さらに掛かった日数分の給金を専任の小姓と同じだけ支払おう。」
「勿論、館内で出る食事はタダだ。」
俺は家宰の申し出に「ハハツ!」と跪いて礼をする。
「今日はこれまでだ。明日は半休になるが毎日昼過ぎに会議をするので集まるように。」
「レオンは支度もあるだろうから、館に詰めるのは明日からで良い。」
「明日の朝一番、私の前に出頭する様に。」
そう言い残すと、家宰が立ち上がり、自然と解散となった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
家宰の執務室を出ると昼はとうに過ぎていた。
小姓番の時にいつも食べている1階の従者詰所に立ち入った。
館は2階建てで中は結構広く、従者詰所の隣に兵士詰所があり、それぞれの詰所に仮眠所が隣接している。
地下もあり使用人たちの住まいと倉庫にあてられている。
その辺の椅子に腰かけファティマが作ってくれた弁当を広げ、遅い昼食を摂ることにした。
中は輪切りにされたパン4切れとチーズ、食後のデザートの果物が丸1個、それに野菜のピクルス(酢漬け)だ。
このピクルスの存在こそ、手作り弁当の所以でもある。
各家庭にはそれぞれピクルスの作り方に流儀がある。
俺の家とファティマの家のひいばあちゃんが同じなせいか、お袋の作ってくれたピクルスと同じ味付けが施されている。
糠漬け女房とはよく言ったものだが、将来良いお嫁さんになるぜ。
質素に見えるが、これでもこの世界では良い方だ。
農奴には硬い雑穀パン1切れしか与えられない。ただ一切れの量は多い。
然し雑穀パンは硬く、水に暫く浸さないととても食べられない。
雑穀なので俺が生きた世界では栄養食と言っても良いが、『レオン』は好き好んで食べようとは思わない。
そんなことを考えていると。
ドアが開き、従士の「カーター」が入ってきた。
俺を見つけると、目の前の椅子にテーブルを挟んでドサッと腰かけた。
家宰の息子カーターは18歳の従士、俺より6つも上だ。
身長180センチでガッチリ体形の偉丈夫だ。
20歳になって一人前と認められれば、晴れて騎士に昇格する。
今回の件でも手柄を立てようと張り切っている。
勇み足にならなければ良いが、ま、取り越し苦労をしても仕方がない。
「さっきの話の事なんだが...」
「4日前、お嬢様に何があった?」
カーターはお嬢様の不自然な態度を訝しみ、俺にそう聞いてきた。
確かに、これから魔女の件が解決するまで、お嬢様付きとなるので、必要なことは知っておきたい、と。
まあ良く分かるが、ここはお嬢様の名誉のため、話さないでおこう。
「申し訳ありませんが、魔女の件とは一切関わりが無いお話しでして。」
「何分、お嬢様からは口外無用と釘を刺されております。」
「お察しください。」
カーターは暫くこちらを睨みつけたが、やがて諦めたのか。
「もう良い。」
と、一言だけ言い、詰所を後にした。
昼食を食べ終わるころには午後3時を過ぎていた。
取り合えず館を出て、明日からの泊まり込みの準備のため家に帰ることにする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
家に帰り、ベッドに腰かける。
未だ「レオン」として転生し目覚めてから10時間と経ってない。
その間の出来事を整理すると。
1 元の「レオン」が誰に殺されたのかが分かった。
2 「レオン」を殺した魔女は次の満月の夜にお嬢様に会いに来る。
3 明日から満月の夜まで、館に泊まり込みとなる。
ここまでは、なんとなく道筋が見えてきた。
ここからは、未だ何も分かっていない。
4 7年後に勇者と出会い、10年後に「レオン」は殺される。
色々と考え事をしていると、夕食の時間となった。
夕食前に厠で用を済ませることにする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
隣家のドアをノックする。
ノックするときの回数は決まっている。
誰が来たかが分かるためだ。
それも夜盗に襲われないための知恵だ。
ノックに答えファティマの明るい声がする。
「はーい、遅かったわね」
「いい匂いがするね。」
そう言って、夕食のテーブルに着くと、ファティマに今日館であったことを話した。
「やはり明日から暫くの間、館に泊まり込むことになった」
「それと、領主様から3か月分のパンを頂けることになった。」
ファティマは、ちょっと悔しそうな顔をした後。
「分かったはでも、泊り明けのお休みの日は1日付き合いなさいよ。」
「悪かった、休みの件はオーケーだ。」
それで、少し機嫌を直したのか、何事もなく夕食は終わった。
食事の後家へ帰り、明日からの準備をする。
「今日は疲れたな。」
ぼそっと独り言を呟き、ベッドに横になる。
そして、眠りについた。
乱筆ですが、ご容赦ください。