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勇者に殺される運命の村人に転生してしまった。  作者: 理〜ことわり
第1章 魔女
2/22

森の魔女

2話目、連投です。

伏線ばかり貼りすぎて回収が大変ですが、次話も頑張ります。

「あなた、何で生きているの!」

目の前の少女『シャルロッテお嬢様』はそう言った。


違和感の正体にたどり着くと、一気に2日前の『レオン』の記憶がフラッシュバックした。

『レオン』はあの時死んだ。そして、死んだ魂に成り代わり、今の俺がいる。

正確には、死んだというより前の『レオン』が生きるはずだった18000日分の寿命が、魔女の『呪い』によって17999日分削られた。

それが起こったのが2日前だ。


「良かった、あなたが無事で。」

安心したかのように、その少女は後ろの椅子にドサッと腰かけた。

高級そうなふわふわクッションの椅子だ。

「あなたも座りなさい。」

目の前の椅子に座るよう促される。


「あなたが居てくれなかったら、魔女の呪いを受けていたのは私よ。」

「でも、どうして魔女の呪いに罹らなかったの?」


ここで『レオン』の記憶の中から『俺』が何者だったのかを思い出す。

『俺』は農夫でありながら、この『シャルロッテお嬢様』のペイジ(小姓)として仕えていた。

小姓は従士より下の階級で従士の上には騎士がいる。

この屋敷の主『ウエザリング』男爵は領地持ちの貴族でシャルロッテお嬢様の父親だ。


なぜ、農民の『俺』が小姓を務めているかというと、死んだ親父が農奴では無く、自由農民で死ぬ前まで村の租税徴収官を務めていたからだ。

ただの普通の租税徴収官の息子が小姓に取り立てられることは滅多に無い。

その理由は、この『俺』が、12歳にして身長190センチ体重80キロの大男だったからだ。


その図体を見込まれて『シャルロッテお嬢様』のボディーガード兼小姓として3日に一度、お屋敷でお勤めをしている。

何故、3日に一度かというと、お嬢様が3日に一度、外出を許可されるからだ。

あとの2日、俺は農作業をしている。

小姓をしているが給金は出ない。

ただ、役得として、貴族の従者には租税が免除される。

なので、俺が畑で耕した作物は俺自身自由にしていい。

といっても、親父が死んでからは親父が耕していた畑の1/4しか相続できず、食っていくのがやっとの生活だ。


「椅子に座りますと、お嬢様を見下ろしてしまいます。」

「そちらのクッションをお借りして、跪かせていただいても宜しいでしょうか?」


「そう、自由になさい。」

後ろに控えていた執事がクッションを手に取って俺の前に置いてくれる。


クッションの上で跪くと、お嬢様の質問に答えることにする。

「呪いは受けましたが、効かなかったみたいです。」

実際『レオン』は死んでいる。『俺』がその体を引き継いだのが真相だ。

本当の事を話しても理解されないだろう、そう思い誤魔化してみた。


「なら良いわ、話はそれだけよ。」


あっけないその一言で、会見は終わった。

お嬢様に一礼をし、その場から立ち去ることにする。


部屋を退出しようとすると、後ろから声がかかった。

「あなたが、かばってくれたのは事実だわ。」

「何か褒美をするから、欲しいものがあれば考えておきなさい。」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


領主館を出て、畑まで歩いて行く。

約30分ほどの道程だ。

会見が30分程で終わったので、午前中に一仕事するだけの時間がある。

畑に着くまでの間、2日前の出来事を思い返してみた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「今日は森へピクニックに行くわよ。」

2日前『レオン』がお嬢様の部屋へ入ると、伸びやかな声がした。


この声の主、『シャルロッテ』は、この館の主の娘で、俺より1つ上の13歳だ。

髪はブロンド、ハシバミ色の目をした小柄で活発なお嬢様だ。

俺がこの歳で190センチもあるので、並ぶとどんな娘でも小柄に見える。

でも、お嬢様は本当に小柄だ。

大きくなって、これ以上背が伸びなかったら、合法ロリとして売り出したいくらい愛嬌がある。

ただ、上に兄が居るが、一人娘として育ったせいか、我儘だ。

今日もいきなりピクニックに行くと言い出し。執事や俺のことなどお構いなしだ。


執事もやれやれという顔をしながら、メイドたちを呼びお嬢様の支度をテキパキとこなしていく。

俺はと言うと、ボディーガード兼荷物持ちとして一行に加わるための準備をする。


森の入り口までは2頭立ての馬車を使う。

馬車でなら20分で行ける。

俺は御者の隣に腰かけ馬車に揺られていく。

馬車の中は後部座席に『お嬢様』。

後ろ向きになる前の席に執事と専属メイドが座る。

夏の陽射しは厳しいが、朝なのでそれほど熱くはない。

ただ、御者の隣は燦燦と陽射しが照り付け、じっとりと汗をかく。

馬車を進めるとあちこちの畑から挨拶の声がする。

お嬢様は領内でも人気者のようだ。

俺も仕事柄農夫と顔見知りが多く、挨拶を返していく。

そうこうするうち、森の入り口で馬車が停止した。


馬車から降りると、御者を残し、俺、お嬢様、専属メイド、執事の順で森に入っていく。

入り口から少し行ったところに小さな池がある。そこが目的地だ。

荷物持ち兼護衛の俺は、お嬢様が座る「組み立て椅子」と「組み立てテーブル」を背中に担ぎ、右手に獣除けの槍を持つ。

小姓の武器は短剣と相場が決まっているが、ガタイが大きいので特別に槍を持つことを許されている。

短剣だと、オオカミとやりあったら分が悪い。その点、槍だとアウトレンジで対処可能だ。

俺がお嬢様の小姓をしているのも槍が使えるからだ。

森に入ると、木陰が広がり、夏なのにひんやりして気持ちがいい。

少し歩くと、景色が開け目の前に池が見えた。

池の周りは空き地になっており草原が広がっている。

俺たちが森を抜けると、草原にはそよ風が吹いていた。

草花に陽光が当たり、気持ちがいい。

目を凝らすと、池の反対側に人影がいる。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


その人影は、池を回りこみ、こちらへやってくる。

どうも老婆のようだ。

その老婆は、こちらへ近寄ってきて、物乞いの声を上げた。


「お嬢様方、この哀れな婆に食べ物を恵んでくだされ。」


灰色の外套を被り、顔はフードに隠れていて表情は見えない。

外套から露出している手はしわがれて、いかにもみすぼらしい。


「邪魔よ、あっちへ行って頂戴。」

その場で一番権力のあるお嬢様が老婆に言い放った。


「お嬢様、この哀れな婆を邪険にせんでくだされ。お恵みを頂戴しましたら、すぐに立ち去りますじゃ。」

老婆は、尚も言いつのりお嬢様に近づこうとした。


俺は、急いで担いでいた荷物を降ろし、老婆とお嬢様の間に割って入った。


老婆はフードの奥からキラリと目を光らせ。

「ご家来衆でも、結構ですじゃ。何か恵んでくだされ。」と言った。


俺は何か言おうとしたが、それより先に後ろから何かが飛んできて、老婆の顔に当たり、ぐしゃっという音とともに汁が飛び散った。

後ろを振り返ると、それは、お嬢様が手に持った果物を老婆にぶつけた姿だった。


果物の汁で汚れたフードの下から老婆の目が怪しげに光った。

老婆の声色が変わった。

「ククク、小娘め、よくもこの儂の顔に果物をぶつけてくれたね。」


何か嫌な予感がした。

この森には魔女が住んでいるという言い伝えがあることを、その時思い出した。


「森の魔女を馬鹿にしてくれたお礼は何にしようかね。」


そう、こいつは森の魔女だ。

老婆の左手にはチャクラ(呪術具)が握られており、禍々しい殺気を放っている。


「そうさね、お前さんには。死んでもらうことにしたよ。」

「1日猶予をやるから、日が変わるまでの命を悔いながら過ごすがいいさ。」

そう言うと魔女は呪術具を持ち上げた。


俺は、咄嗟にお嬢様を庇うようにして、魔女に背を向けた。

お嬢様は魔女の方を向き凍り付いている。

何か光ったように感じた。

暫くして振り返ると、老婆は消えていた。。

何が起こったんだ。

呪いはどうなったんだ。

あの光は何だったんだ。

俺はというと、先程の光のせいか、少しダルイ気がする。


ピクニックは中止となり、俺はそのまま家に帰された。

そして、その夜、呪い殺された。

これが、2日前にあったことの顛末だ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


もう直ぐ畑に着く。

畑へ向かう小道の途中にちょっとした古木が立っていて、その枝葉で行きかう人にひと時の涼を与えてくれる。

古木を通り過ぎようとすると、影からフードを被った老婆が現れた。

どこかで会ったような…

そう思いながら通り過ぎようとすると


「ククク、お前さん未だ生きていたのかい。」

「おっと、心配しないでいいさ。今お前さんに手出しはしないよ。」

「お前さんには、お屋敷のお嬢様に言付けをしてもらいたいのさ。」

「こう言っておくれ『満月の夜に、森の魔女が会いに行くから、首をあらって待っといで。』とね。」


そう言い残すと、老婆は古木の影に隠れ、消えた。

感想と良いねをヨロシク。

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