運命の転生
転生先はファンタジー世界。でも勇者に殺される運命の村人ってどうよ?
チートなスキルや能力も無しに、どうやったらこの運命を回避できる?
やってやろうじゃないか、幸い前世の記憶があるので、前世の知識を使って運命を逆転させてやる!
異世界転生もの、「勇者に殺される運命の村人」の開幕です。
一体ここはどこだ?
俺は死んだのでは無かったのか?
暗闇に眼が慣れると顔の向きを上げる。
そこには、青い月が煌々と輝いていた。
暫く夜空を見上げると、ふいに意識が遠くなった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ここは病院の一室、引きこもりニートだった俺の人生に残された僅かな時間をベットの中で過ごしている。
「ピコン、ピコン」
「血圧低下」
「心拍数減少」
遠くから微かに聞こえる声を聴きながら、ああ死ぬのだなと俺は思った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「○▽■×?」
何?
「理解できますか?」
頭の中に響いてくる声。
それを声と呼んでいいのか?中性的で優しい声だ。
???な世界。
例えて言えば何も書かれていない真っ白なキャンバスの様な心象風景がそこに広がっていた。
「××××さん」
え?俺の事か??
「そうです、あなたのことです。」
「あなたのこの世界での人生は、たった今終わりました。」
そうか、俺は死んだのだな。
ここは天国?ってやつか?
「私は、あなた方が言うところの『女神』にあたる存在です。」
「あなたはこれから別の世界へ転生することになります。」
いい加減ニートだった人生にも飽きていたところだ、これはこれで良しとしよう。
「転生するにあたり、本来は前世の記憶をリセットし、赤ん坊からのスタートなのですが、イレギュラーが発生しました。」
「転生先で、本来死ぬべきでない運命の人間の魂が死んでしまいました。」
「死んだ魂は原初の闇に飲まれ、原初の黒と一体化してしまい、もう復活することができません。」
「そして偶然にも死んだ魂とほとんど瓜二つのあなたの魂が前世の世界から解放されました。」
「あなたには、その魂の無い人間に成り代わり体と記憶を受け継いだ状態で転生していただきます。」
これは、よく言うところの転生てやつか。
「本来前世の記憶はリセットされるのですが、魂の無い体を受け継ぐので、前世の記憶をリセットすることができません。」
「なので、前世の記憶を持ったまま転生していただきます。」
「前世の記憶は転生先の脳神経に完全転写されます。もちろんあなたの魂と意識もです。」
記憶を残したまま転生って、これはラッキーじゃね?
「目を覚ますと死んだ魂が持っていた記憶と前世からの記憶が混ざり合い統合されます。」
「ただし、統合に1晩かかるので目覚めてもすぐにまた眠ってしまいます。」
「目覚めてからは、前の魂の持ち主が辿る予定だった運命を生きてください。」
よっしゃ!俄然やる気がでてきたぜ。
「それは、10年後勇者によって殺される運命です。」
なんだって!
「10年間をどう過ごすかはご自由です。」
おいおい。ちょっと待てよ。
「ただし、7年後に勇者と出会い、10年後にあなたは死にます。」
だから、待てって言ってんだろ!
「この運命のため、あなたは転生しました。」
「説明は以上です。それでは第2の人生を楽しんで...」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
目が覚めた。
意識ははっきりしている。
ここはベッドの上、俺のこの世界での名前は「@*>/」
もう一度記憶を探る「レオンだ」
そして、レオンの記憶が一気に押し寄せ、また意識を失った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ドン!ドン!
何やらドアを叩く音がする。
目覚めると朝になっていた。
「レオン、起きている?昨日は畑にも行かないでどうしてたの?」
「生きている?」
今ドアを叩いているのは???
隣家のファティマだ
「今起きたところだ。」
「着替えたらそちらに行くから。」
「分かったわ、教会の鐘が鳴るまでに朝食を済ませなさいよ。」
ファティマが立ち去ると、俺はベッドを出て作業着に着替えることにする。
さて、記憶を探る。
俺の名前は「レオン」だ。年齢は12歳。1年前に流行り病で無くなった両親の家に住んでいる。
1歳下の妹がいたが、今は叔母の家で養女として暮らしている。なので独り暮らしだ。
1年前から、死んだ親父が耕していた畑を受け継ぎ農作業で暮らしている。
8時に農作業の開始を知らせる教会の鐘が鳴るまでに、食事と支度を済ませなければいけない。
食事の方は、両親が死んでからは隣家のファティマの家で一緒に採っている。
おっと、考えている暇が余りない。身支度を済ませ、家を出てファティマの家へ向かう
隣は勝手知ったるファティマの家だ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「昨日は、どうしてたの?」
「領主様のところの執事が心配して、レオンの様子を見てきてくれって言われたので見に行ったけど。」
「何度ノックしても返事しないし。ご飯だって食べに来ないじゃない。」
「病気でも罹ったんじゃないかと本気で心配したんだからね。」
「それは悪かったな。ちょっと考え事をしていて、食事に来るのも忘れてたぐらいだ。」
「1日食べて無いせいか、猛烈に腹が減っている。話は食べてからでいいか。」
そう言うと、目の前の食事を搔っ込んだ。
農家の一般的な献立である。
オートミール(麦のおかゆ)に野菜のスープ、飲み物は山羊の乳だ。
前世の朝食から比べると質素で素朴な味だ。
食事を用意してくれたファティマが俺の食いっぷりに眼を丸くしている。
その横でファティマの親父さんが黙々と朝食を食べている。
「市の前だからパンが残り少ないの。昼食にはパンを届けるから、朝はそれで我慢しなさい。」
毎月、1の日に市が立つ。今日は28日なので、市が立つまであと3日だ。
この世界の暦は1年が12か月、1月が30日。曜日の概念が無い。
仕事は1のつく日から始まり9のつく日が最終日で、9のつく日と市の立つ1日は午後から休みだ。
10のつく日は神様に祈りを捧げるため、仕事はしない。
「そうそう、市の立つ1日は買い物に付き合いなさいよ。」
「あなたの食べる分も入ってるんだからね。」
「わかった。1日の午後は開けておく。」
「それと、領主様のところの執事があなたに領主館に来るようにって。」
「そうか、それじゃあ畑に行く前に領主館に顔を出すことにするよ。」
「なら、今日は先に畑に行ってるからな。」
ファティマの親父さんが俺に一声かけ、畑に向かって行った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
食事を済ませると高台にある領主館を目指し上っていく。
何か違和感があった。まだこの「レオン」て奴の記憶を整理しきれて無い。
仕事から帰ったら、レオンの中に眠っている記憶を一つ一つ確かめるとしよう。
館の前は大きな広場があり、1のつく日は市が立つ。
今日は、28日なのでがらんとしている。
振り返ると、一面畑が広がっている。
高台の裾野には農夫たちの家々が点在している。
我が家の方を見ると、ファティマが洗濯物を干しているのが見える。
実に長閑な風景だ。
館は高いレンガ造りの塀で囲まれており、外敵を寄せ付けない構えをしている。
お城では無いので堀も塔も立っていないが、なかなか立派なものだ。
門番の兵士に、執事に呼ばれたことを告げる。
兵士は顔見知りの俺の顔を見ると、「入れ」と短く言った。
前庭を進んで行くと館の玄関ではなく、裏へ回る。
使用人が利用する勝手口に向かい、2度ノックをすると下働きのハウスメイドが中に入れてくれた。
用向きを伝え執事の部屋まで通される。
立派な髭を蓄えた執事の前に立つ。
この館に3人執事がいるが、皆一様に髭を蓄えている。背格好もほぼ一緒だ。
理由は、何かあったとき、領主様の影武者となり盾となるためだ。
そのための戦闘訓練も積んでいる。
執事服に身を包むと、そんなに強そうには見えないが、身ごなしは熟練の兵士以上だ。
そして、この男は領主の娘(シャルロッテお嬢様)専属の執事だ。
「お嬢様がお待ちです」
執事はそれだけを言うと、お嬢様の部屋がある西の部屋へ俺を誘った。
コンコンとノックをすると、部屋の中からお嬢様の「入りなさい」の声がした。
中に入ると豪華な調度品に囲まれてお嬢様が立っていた。
目を見開き
「あなた、何で生きているの!」
違和感の正体が、そこにあった。
週1の更新を目標に連載していきます。
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