晩餐会《1》
――競技が終わってからは、かなり忙しかった。
シェナ先輩による治療が完了し次第、他の案内スタッフに呼ばれ、すぐに開始されたのは、表彰式。
ボックス・ガーデンのみならず、全競技の表彰式だ。
俺らの競技が最終だった訳なので、その試合経過に合わせて締めの日程が組まれていたようだ。
全選手が集められていたので、戦った先輩らと話したいところではあったのだが……大分忙しなかったせいで、そんな余裕もなく。
ボックス・ガーデン本戦三位ということで、俺もまた表彰され、多大な拍手を受けながら、何か翼の生えた、紋章のようなものを貰った。
これが、こちらの世界のメダルのようなものらしく、魔法が掛けられているようで、俺の胸辺りで独りでにふよふよと浮かんでいる。
手が込んでるな。
また、全競技のポイントを加算した結果、今年の総合優勝は、ウチの学院。
いつの間にか俺も、『エルランシア王立魔法学院』に帰属している、という意識をしっかり持っていたようで、普通にその結果が嬉しかったのが、自分でも驚きである。
そんな感じで進んでいった表彰式なのだが……どうも思っていた以上に、俺は体力及び魔力を使い果たしていたようで、割と本当にダルかったのだが、まあ本気で挑んだ競技の締めなので、我慢して参加し続け。
そのまま閉会式まで行われ、大分ガクッと来たものである。
そういう選手達の思いを察してかはわからないが、開会式に比べて閉会式は大分短めで――俺は開会式、例の邪教どものせいで出ていないので、伝聞だが――ミアラちゃんや、よく知らんお偉いさんのおっさんらが今回の魔法杯を総括した訓示を述べ、最後に盛大な音楽と演出があり、ようやく終了した。
ハァ……なんか、全部が終わったことで張り詰めていたものが解けたのか、本当にドッと疲れた。
ミアラちゃんには悪いのだが、閉会式の時は、もう半分以上寝てたわ。他のおっさんは知らん。
立ちながら、寝てた。
流石に、限界だったのだ。
ちなみに、俺達が帰るのは、明日である。
今日はこの後、最後のイベントとして、確か晩餐会なるものが開催される予定で、最後だしそれには出たいので、一度仮眠したい気持ちでいっぱいである。
準備等で、少々時間があるはずだから……その間、ちょっと寝よう。
けど、これ、多分一時間も眠ってしまったら、そのまま朝までぐっすりコースだな。
三十分くらいで、どうにか起きないと。
閉会式が終わった後、そんなことを考えながら、もう疲れでフワフワとした気分というか、若干ふら付きながらホテルへと向かい――というところで、横から現れる、三人組。
「ユウハ! お疲れ、頑張ったわね」
「ゆーはにぃ、かっこよかった」
「うむ、全力を尽くして、頑張っておったの。ま、戦いを覚えて数か月の身であることを考慮すれば、相当に良き結果ではないか?」
シイカ、華焔、そしてルーである。
「おう、ありがとな。出来る限りで、ふわぁ……頑張ったよ」
途中、大あくびをかましてしまうと、まず華焔がちょっと呆れたような表情になる。
「何じゃ、相当疲れておるのう」
「もう、ちょっと、取り繕えんくらいに疲れた。寝たい。後で合流するから……こっち気にせんで、晩餐会、先に楽しんできてくれ」
そう言うと、シイカと華焔は顔を見合わせ。
「じゃあ、私も部屋に戻るわ」
「……ふむ。では儂は、ルーを連れて、次元の魔女のところへ、お茶を飲みにでも行っておこう」
「おちゃ?」
「うむ――いや、彼奴、今は忙しいか。では、アリアのところへ行こう。菓子が残っていると言うておったから、それでも集るか」
「おー、おかし」
何か企んでいるような顔の華焔だったが、しかし極限まで疲れていた俺は、何も疑問に思わず。
そうして華焔とルーとは再び別れ、俺とシイカは、ホテルの部屋へと戻る。
「フー……疲れた。シイカ、悪いんだが、三十分したら起こしてくれ」
「三十分ね。わかったわ」
そう返事したシイカは――何故か、いそいそと俺のベッドに上り。
枕の辺りで、正座する。
「……あの、シイカさん?」
「ん」
ポンポンと、自身の膝を叩くシイカ。
……それは、もしかしなくとも、自分の膝の上に横たわれ、という意思表示だろうか。
「……どうしたんです、急に?」
「男の人って、膝枕をすると疲れが取れるって、聞いたわ。だから、疲れてるなら、ちょうどいいと思って」
「……その知識はいったい、誰から聞いたので?」
「アリア」
何教えてんだ、あの人……!
「さあ、ほら。遠慮しないで」
「あのですね、シイカさん。そういうことは、仲の良い男女でもなかなかしないことなんですよ」
「そう? でも私、ユウハと一緒の部屋で過ごしてるから、そういうのは今更だと思うわ」
……ま、まあ、そうなのかもしれないが。
というかお前、そういう感覚、あったのな。
俺がいても、平気で風呂から裸で出て来る奴なのだが、男女、という意識もちゃんと持っていたらしい。
いや、口うるさく言い続けたおかげで、今はもう、暑くとも、少なくとも下着は付けて出るようにはなっているのだが。
「だから、ほら。疲れてるなら、寝て。ちゃんと、三十分で起こすから」
「……えっと」
「ほら」
「…………」
有無を言わせぬシイカの強い視線に抗えず、俺は、若干怯みながら体を横たえ、彼女の膝の上に頭を乗せる。
柔らかい太もも。
甘い香り。
少女の、体温。
何故かシイカの尻尾はご機嫌そうに左右に揺れており、俺が彼女を見上げると、こちらを見下ろし、薄くニコリと笑う。
こんなんで寝られるか、と思った俺だったが、疲れていた俺の身体は俺以上に正直で、心地の良い太ももと心地の良い体温に、すぐに瞼が重くなっていき――。