勝負の行方
よっしゃあ、向こうの原稿終了!!
こっから再びバンバン書くぜー!!
「それにしても、良かったのか? さっきのコンボ、練習でも一度も見せなかったのを考えるに、お前にとって奥の手だろう」
「いや、先輩、さっきのでも俺のこと見えてたでしょ。だから、それでアンタを倒せるとは、思ってませんでしたよ」
多分、この人は俺のこともちゃんと警戒していたから、『花火』も『ライト』も、そこまで食らわなかったのだろう。
でなければ、あんな的確なタイミングで逃げることなど出来やしない。
「ハハ、そうか。まあ俺は、事前にお前がどの程度やれるのか、どの程度好戦的か、というのを知っているからな。お前は基本的に流される側だが、しかしこれ、と決めたことは、曲げん。この競技にどれだけ本気で打ち込んでいたかを知っている身としては、さっきは、大人し過ぎた」
「……本当に、よく見ていますね」
これだ。
この、観察眼。
この人の、脅威の一つ。
ただでさえ手札の少ない俺が、この人に勝つには……長期戦では、ダメだ。
超短期決戦のみに、勝機がある。
「……先輩と、勝負を長引かせるつもりはありません。時間が経てば経つ程、俺の不利が重なっていくでしょうから。だから――この攻撃に、俺の全てを乗せましょう」
俺は、その場で腰を低くし、構える。
「それは……見たことのない構えだな」
「はい。これは、俺が使うこの形状の武器でのみ、使われる技術です。はっきり言って、未完成なんですけどね」
模擬刀を、鞘に納めた状態での構え。
――抜刀術。
ただ、十メートル以上離れているここから、一息で飛び込んで斬撃を食らわせる、というのは無理筋だ。
その前に倒されて終わりである。
だから――もう一つ、切り札を使う。
それは、『魔刃』。
魔力を刃から飛ばし、斬らずに斬る、剣用の遠距離攻撃手段。
以前学院が魔物どもに襲われた際、華焔の奴は、俺を操ってもう当たり前のようにそれを放っていたが、どうやら実際には結構な高等技術――というか、『奥義』と言っても良いような攻撃であったらしく。
最近になって、ようやくアイツの補助無しでも使えるようになったくらいで、集中しないと発動もままならないくらいだ。
つっても、これでも覚えたのはかなり早いっぽいんだけどな。
華焔によって、直接感覚を身体に教え込まれていたおかげだろう。
これが、練習でも一度も見せていない、対ハルシル先輩用に開発した攻撃である。
脳筋魔族が相手では相性が悪いと判断したのは、奴が完全なるインファイターだからだ。
さらに、似たような技術、拳砲を持っており、攻撃の質を瞬時に見極められて対処される可能性があった。
だから、使わなかった訳である。
まあ、かと言ってこの人に、この攻撃がどれだけ通じるかは謎だがな。
俺が、体内の魔力を練り上げ、高めていくにつれて、対面する彼もまた構えを取り、戦意を高めていく。
ハルシル先輩は、受け、カウンターを行う構え。
後輩の攻撃を、甘んじて受けようという心意気か。
それとも、倒せるものなら倒してみろ、という挑発か。
――集中を。
模擬刀は、俺の腕の延長。
その刀身の先の先まで、完全に掌握し、俺の肉体の一部とする。
高めた魔力の全てを、そこに一点集中で流し込んでいくと、カタカタと刀身が微振動を起こし始める。
華焔と違って、刀身につっかえるような感覚が存在しており、魔力の流し込み辛さがあるが……今はコイツが、俺の相棒だ。
頼むぜ。
あと一撃、あと一撃だ。
それだけ、耐えてくれ。
空気が、張り詰める。
ドクン、ドクン、と跳ねる心臓の音が嫌に大きく聞こえ、ツー、と頬を伝う汗が鬱陶しい。
緊迫。
実際に重量があるのではないかと思わんばかりの、重い緊張感。
集中が進むにつれ、時間がどんどんと拡張されていき、一秒経ったのか、一分経ったのか、十分経ったのか、もうわからなくなる。
――合図は、外部からもたらされた。
残り時間がわずかになったため、各々の位置を示すべく、上空にあるマップがポーン、と音を発し――。
「シッ――!!」
振り抜く。
一閃。
同時、刀身から放たれる魔刃。
限界を超えて魔力を注ぎ込み、酷使した模擬刀が崩壊し、砕け散る。
目にも止まらぬ速さの、俺の全力で放った魔刃は、間にあった瓦礫を斬り裂き、道路を斬り裂き、ハルシル先輩へと迫る。
すると彼は、一瞬で三重の壁をその場に形成するが――それらを、魔刃が全て斬り裂いた。
――殺ったッ!!
そう、思った、瞬間。
真横から感じられる、魔力反応。
えっ、という声が漏れると同時、視界を赤い光が飲み込み――。
◇ ◇ ◇
「――おわっ!?」
ガバッと起き上がる。
すぐに周囲を見渡し……ここは、医務室、か?
見ると、いつの間にか俺は、ベッドの上で横たわっていた。
確か……落とされた選手が、まず送られる場所が、この医務室だったな。
つまり――俺は、許容ダメージ域を超え、フィールド外に転送されたということ。
「あー……負けた、のか」
再び、ボフッとベッドに寝転がる。
どうやら……ハルシル先輩の方が、一枚上手だったようだ。
あの、最後の真横からの攻撃。
あれは、恐らくルーヴァ先輩が仕掛けていたトラップ魔法である。
多分……俺が気付かない内に、自分のものとして作り変えていたのだろう。
ルーヴァ先輩の魔力の残滓自体は周囲から感じられていたのだが、もう関係ないから踏まなきゃいいだけと、頭から完全に除外していた。
いったいどうやって、俺に気付かせないで、作り変えていたのか。
そして、こちらの攻撃に合わせ、避けられないタイミングで起爆、と。
やられた。
まるでコマ送りのように、爆風が迫って来るのが見えていたのだが、全力の攻撃を放ったせいで、回避に身体が全く動かなかった。
油断した訳じゃない。
だが……倒した、とあの一瞬に思ってしまったことも事実。
どうやら、そこを狙われてしまったようだ。
「ハハ……やっぱとんでもないな、あの人」
と、ハルシル先輩の超人具合に、思わず笑ってしまっていると。
「――お疲れ様、ユウハ。まず先に、ケガや変調はある?」
横から声を掛けてきたのは、学院スタッフである、シェナ先輩。
「先輩。身体は……はい、大丈夫です。魔力の使い過ぎでダルいっすけど、それだけですね」
「そ。一応見るね。……ん、確かに魔力がほぼ枯渇してるね。ただ、流れに異変は無し……しばらくは魔力を使わないように。じゃ、軽い傷の手当するから」
そう言って彼女は、回復魔法を発動し、俺の身体の至るところに出来た擦り傷を治療していく。
ダルい身体に流れてくる、温かい魔力。
ん……心地良いな。
「モニターで、だけど、全部見てたよ。惜しかったね」
「ハハ、やっぱ、先輩は強かったっす。カウンター食らって、しっかり負けちまいましたよ」
「ん? いや……そっか、君からすると、そういう感じか」
「はい?」
「ほら、それ。見てみな」
治療を続けながら、シェナ先輩は顎でクイ、と壁のボードを示す。
そこには、どうやら先程の試合のスコアが乗っているようで――あれ?
ハルシル先輩も、落ちている。
あの後、落とされたのか?
いや、まだ数秒しか経っていないが……。
「ユウハは、ハルシル君と相打ち。二人が最後に残っていた選手で、そこで試合終了。結果も……そこの通りね」
「相打ち……」
スコアボードを詳しく見る。
どうやら彼女の言う通り、俺達が最後の選手だったようで、スコアはすでに確定されているようだ。
その中で俺は――総合で、三位。
一位は、ハルシル先輩。
二位は、脳筋魔族。
俺を挟んで、四位がルーヴァ先輩。
……そうか、俺達以外の戦闘音が全然しないとは思っていたが……あの怪獣大決戦が、最後の戦いだったのか。
多分……ポイントから見て、俺達と合流する前に、ハルシル先輩が他の選手を全部落としたんだな。
俺が落としたはずの脳筋魔族にも、順位で負けているが、まあ、途中まで他の選手を散々落としていたし、この結果にも納得だろう。
ヤツとは、勝負に勝って、試合に負けた、といったところか。
ただ――俺が生存ポイントを得ることが出来ていれば、上の二人も、捲れているようなポイント差だった。
最後の勝負で勝っていれば、俺が一位だったのだ。
惜しかった。
しかし、結果は俺の負け。
これが……実力差か。
感じるのは、悔しさと、だが、今やれること全てを出し切って負けたという、清々しさ。
三位。
三位か。
惜しむらくは……ハルシル先輩は三年故、来年もまた戦えるが、脳筋魔族は四年らしいので、もうここでは戦えない、ということか。
ここまで散々戦い、だが、すぐにこうやって次の勝負のことを考えている自分自身に、思わず苦笑を溢す。
どうやら俺は……自分の想像以上に、この競技にのめり込んでいたらしい。
「三位、おめでとう。頑張ったね、ユウハ。どうだった、初めての魔法杯は?」
「はい。月並みな感想ですが……すげー、楽しかったです」
多分今の俺は、満面の笑みを浮かべているのだろう。
シェナ先輩は、そんなこちらを見て、微笑むように笑った。
――こうして、俺の魔法杯は、終了したのだった。
今章は、あと二話くらい!




