怪獣大決戦《2》
すまーん、遅くなった! もう一方の原稿ががが。
次回更新も多分遅くなります。
ちょっと、今月はマジで修羅場なので、作家人生で最も修羅場なので、多めに見てくれ!
来月は、少なくとも隔日更新には戻しますので……。
戦況が、目まぐるしく変わり続ける。
凄まじい攻防。
……ヤバいな、あの二人。
そんなに戦闘というものに詳しくない俺でも、脳筋魔族とハルシル先輩の二人のレベルが突出しているのは、よくわかる。
強い強いとは思っていたが、アレ、絶対学生のレベルじゃないよな。
そして、そこに付いて行っているルーヴァ先輩もヤバい。
あの人の戦い方は搦め手が基本であるようで、直接的な攻撃能力はそこまでではないようなのだが、恐らくサポート役として考えれば満点の動きなのではないだろうか。
怪獣二人は、単体でもバカみたいな戦果を出せるタイプだが、ルーヴァ先輩は誰かと組んで初めて真価を発揮するタイプだと思われる。
この競技は単体戦闘能力の高い者が有利というだけで、あの人も結構怪獣側だろうな。
予選はあんな形で戦闘が中断したが、普通にあのまま続けていたら、勝てていたかどうか怪しいものだろう。
――焦るな。
タイミングを見計え。
一瞬を逃してはならない。
勝機は、そこにある。
そうして、ハルシル先輩が放ってくる牽制用の魔法を受け流しながら、様子を見るだけに留めていると、チラッと彼がこちらを見てくる。
……これ、俺が企んでるの、バレてるな。
あの人とは何度か手合わせしたことがあるし、俺が牽制用の魔法から逃れるだけで特に攻撃してこないのを、不審に思っているのだろう。
そして、ハルシル先輩が不審に思ったということは、程度は違えど、脳筋魔族も同じものを感じているはずだ。
だが、意識には『隙間』というものが存在する。
人が意識するものに割ける割合は、決まっている。
そして奴は今、俺への警戒の割合を低くしている。
ならば、隙は必ずある。
その時、じれたのか、脳筋魔族が被弾覚悟で距離を詰め切る。
奴の間合いの圏内に、ハルシル先輩が入った。
刹那、拳砲。
ハルシル先輩は、腰に差していた模擬剣でキン、とそれを弾き、次の瞬間脳筋魔族の足元から剣山が生えるが、彼はその発動が見えていたのか、横に跳んで回避。
そして、そこで俺より先に、ルーヴァ先輩が仕掛ける。
搦め手の多い先輩の、本気の攻撃であるようで、二人の動きを縛るような攻撃と共に、一定の距離を保っていた本人も突撃を開始。
勝負を決めに動いたか。
ルーヴァ先輩の本気さを感じ取ったのか、二人のヘイトが一瞬そちらへ向き――今!
ここで俺が動くことを、彼らも頭の片隅で予期していることだろう。
だから、それを覆すには、予想外の一手が必要だ。
まず、俺が打ち込んだのは――『花火』。
予選で空に打ち上げた、アレである。
彼らの中心で弾ける、花火。
色とりどりの火花が、辺り一面に飛び交う。
全ての音を飲み込むかのような、特大の爆音。
「うわぁっ!?」
驚きの声を漏らしたのはルーヴァ先輩のみだったが、ハルシル先輩も、脳筋魔族もまた、一瞬驚いたように動きが鈍る。
続いて俺が放ったのは、いつも閃光手榴弾代わりに使用している、『ライト』。
元々生活魔法であり、構造が簡単なこれは、今では俺が最も得意とする原初魔法になっている。
大爆音に、大光量。
そして、花火がジャミング効果を生んで、魔力による他者の感知もし辛い。
彼らの五感を潰したのと同時、俺は一気に飛び出した。
目標は、当初の予定通り脳筋魔族。
相手の防御の固さを考え、最初に狩るのは、足。
大腿骨を圧し折ってやる勢いで放った一撃は、ヒット。
「ぬっ――!!」
が、軽い。
ぶっ殺してやるつもりの一撃だったのだが、直前で足を引かれたのか、模擬刀に返ってくる感触が弱い。
この状況が不利だと判断したらしく、脳筋魔族は一旦距離を取ろうとするが――逃がすかよ!
刹那の間に、連撃を叩き込む。
やはり足にダメージが残っているのか、動きが鈍い。
今までならば回避されていたであろう攻撃が、次々と入っていく。
鋭い突きの反撃が放たれることもあるが、見えている。
このまま押し切るつもりで、俺は攻撃を続け――恐らく、機動力を削がれた時点で、ジリ貧だと判断したのだろう。
脳筋魔族は、攻撃を行う。
それは俺ではなく、仕掛けに動いたため、近くに来ていたルーヴァ先輩。
「ぐえっ」
まともに『ライト』を食らっていたようで、未だ視力が回復していなかったらしく、脳筋魔族のラリアットが首に決まってしまい、一撃でルーヴァ先輩は転送され――そこにさらに放った俺の一撃が、脳筋魔族にクリティカルヒット。
模擬刀に返ってくる、鈍く重い感触。
「……フン、やるな」
それだけを言い残し、彼の姿もまた、この場から消えて行った。
……大したもんだ。
負ける、と判断して、ポイントを取る方向に最後は動いたか。
そうして残るは――俺と、ハルシル先輩のみ。
この間彼は、完全に逃げの一手で、視界が潰されたと判断した瞬間に俺達から距離を取っていた。
そのせいで、彼の方にはちょっかいを掛けることが出来なかった。
上級生っていうのは、こういう判断が出来るから、強いんだろうな。
「ハハ、やるじゃないか。残ったのは俺とお前か。お前が伸びるのはわかっていたが……まさか本当に、こうして本戦でやり合うことになるとはな」
「……ま、俺自身、運が良かったと思いますよ。あの脳筋魔族が、散々場を荒らしてくれたおかげで、どうにかなったようなものです」
今回、奴をこうして落とせたのは、ハルシル先輩とルーヴァ先輩が、その気を引き続けていたからだ。
一対一でやっていようものなら、『花火』を打ち込む暇などなかっただろうし、『ライト』も防がれていた可能性がある。
実際、一対一でやっていた時は、手も足も出なかった訳だし。
ここまでは、少なからず運が良かった。
それは、間違いない。
「クックッ、グアンさんのことか。あの人は戦うの大好きな人だからなぁ。ただ、彼と戦っていながら生き残ったのは、お前の才能だ。誇って良い」
彼の、裏表のない称賛の言葉に、俺は微妙に照れ臭い思いを抱きながら、戦意を切らさないために模擬刀を構える。
「……ここまで来たら、アンタも倒して、有終の美を飾りますよ」
「よく言った。なら俺は、先達として世の中そう甘くないということを、お前に教えてやろう」
ニヤリと、不敵な笑みを浮かべるハルシル先輩。
――さぁ、ラスボス戦の開始だ。




