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予選《2》


 ボックス・ガーデン。


 一試合に参加する人数は、三十人。


 本戦に行くには、この中で上位五名に入る必要があり、そのためには一試合で多くのポイントを獲得しなければならない。


 ポイントの獲得方法は大きく分けて二種類存在し、他の選手を戦闘不能にさせるか、もしくはマップに隠されたアイテムを発見するかのどちらか。


 あとは、試合終了まで生き残ることで、生存ポイントを得ることも可能だ。

 これが結構大きいので、どの戦略を取るにしても、時間いっぱい生き残るというのは前提に組み込まれている。


 ただ、アイテム発見に関しては、試合終了まで保持し続けている必要があり、途中で戦闘になって負けた場合にはポイントにならず、勝った方はそのアイテムをゲットすることが出来る。


 逆に戦闘で他選手を倒し、その後別の機会に倒されたとしても、戦闘勝利ポイントはそのまま。


 つまり、結局は戦いが強い奴か、相当探索能力と隠密能力に優れた奴でないと、勝ち残れないということだ。

 しかも、試合後半で人数が少なくなってくると、試合がだれるのを防ぐため、空中に投影されたマップに一定間隔で各々の位置が表示されるからな。


 そして俺は、色々と経験が浅く、こういうのに選ばれる他の選手に比べれば色々と足りない部分が多い。


 故に――俺の戦闘アドバイザーである華焔と色々相談し合った結果、敵に(・・)見つけてもらう(・・・・・・・)、という戦法で挑むことにした。


 花火を打ち上げた俺は、市街地エリアの道路の真ん中で、目を閉じる。


 集中する。


 魔力。


 一番大きく感じられるのは、フィールド全体に張られている、選手を守る防御魔法の魔力。


 次に感じられるのが、空中を漂う魔力と、大地の魔力に、建材に含まれる微量の魔力。


 それらを『基』として設定し、球体を広げていくように索敵範囲を広げ、異物を探す。


 しばらくは何もなく、ただ俺はそのまま待ち――よし。


 引っ掛かった。


 来る。

 

 地面を伝わる魔力。


 恐らく地属性の魔法。

 発動地点は俺の足元。三秒後。


 タイミングを見計らって、跳ぶ。


 刹那遅れ、先程までいた場所に岩の剣山が生えるが、その時には俺は、魔法の繋がる先――術者の元へと斬り込んでいた。


「何ッ!?」 


 こうも早く反撃を受けることを想定していなかったのか、緊張して反応が遅れてしまったのか、ソイツはまともに胴に一刀を食らい、吹き飛ぶ。


 あ、コイツ、知ってるぞ。ウチの学院の奴だな。

 前に俺にいちゃもん付けてきた野郎だ。


 まあ、どうでもいいか。


 その一撃で許容ダメージ量を超えた、名前も知らない彼はすぐに転送が始まり、この場から消えて行った。


 と、その戦闘終わりのタイミングを見計らって、こっちに向かって放たれる火炎放射。


 近くにまだ隠れている奴がいたようで、だが先程索敵した際に、そっちの存在も感じ取っている――うわっ、あちぃっ!


 俺をこんがり肉に変えようとした、肌を炙るような熱を膝を曲げて回避し、そのままバネで跳ねるように、術者へと向かって跳ぶ。


「うわっ!?」


 ヤケクソの火球を(くぐ)って回避し、下段からかち上げるように、刃引きされた刀身で顎を殴り抜く。


 感触からして、クリティカルヒットだったのは間違いないので、俺は結果を見ずにそのまま駆ける。

 

 さらに、遠くからこっちを見ていた奴が、一人いたのだ。


 俺にバレたことに気付いたのか、ソイツは慌てて後ろに逃げながら、俺に向かって魔法を放ってくるが、そんなテキトーな攻撃など当たりはしない。


 こちとら、毎日華焔に、直接身体に動きを叩き込まれ続けてきたのだ。

 しかもそんな、見える攻撃ならば、むしろ食らおうものなら後で確実に怒られる。


 右に左に避け、追い付いた俺は、模擬刀を振るう。


 一刀目は避けられたものの、そこから数度放った斬撃は回避が間に合わなかったようで、全部食らってフィールド外に転送されていった。


 ――つまりは、釣り戦法だ。


 この競技は戦闘が避けられない、というのは皆がよく知っており、だから、俺はここにいるぞ、というアピールのための花火だ。


 警戒はされるだろうが、ここ市街地エリアならば、遮蔽物が多く存在し、一方的な奇襲を行いやすい環境となっている。


 ここなら、罠を警戒したとしても、攻撃してくるだろうと思ったのだ。


 そこまで行かずとも、様子を確認するために近くまで寄って来てくれたのならば、俺としては十分だしな。

 こっちから仕掛けて行って、ポイントを分捕る訳だ。


 最近わかったのだが、意外と俺は、接近戦がやれる方らしい。


 相手がよく見えるこの目と、よく動くこの身体のおかげだ。


 華焔の評価は変わらず「もっと頑張って」レベルだし、未だに俺の友人であるカルには勝てた(ため)しがないのだが、あれは奴の方が突出して強いのだということがわかっている。


 本選になれば、カルレベルの奴が出て来る可能性は高い――というか、それこそハルシル先輩とかは確実にカルと同等かそれ以上の能力はあるだろうし、そういう強いのばっかが揃ってるんだろうがな。


 ま、今は、予選だ。

 予選として、やれるだけやろう。


 とりあえず三人狩れたが、近くにいる奴はこれだけか?


「うし、移動してもっかい花火だな」



   ◇   ◇   ◇



 再度上がる花火に、観客席の観衆は盛り上がり――その中に、シイカ、華焔、アリア、シェナの姿もあった。


「うわぁ、ユウハ君、派手にやってるわねぇ」


「おー、ユウハ、綺麗」


「相手がこれじゃと、彼奴が強く見えるのー。調子に乗らんよう、後で釘を刺さないと」


「あー……カエンちゃん、ボックス・ガーデンに出る選手は、結構みんな強いはずなんだけど……」


「あのようなひよっ子ども、百人相手にしても勝って当たり前じゃ。その程度で満足されちゃ困る」


 フン、と鼻を鳴らす華焔に、シェナが苦笑を溢す。


 ああして、派手に花火を上げ、そしてそこかしこで派手に戦闘を行っているため、空中に浮かぶ水球モニターでは今、ユウハの戦闘シーンが長く映されていた。


 接敵し次第、即戦闘開始。

 奇襲を受けようが、簡単に回避して反撃。


 相手に考える暇など一切与えず、駆け引きなどなく、強制的に戦いに引き込む。


 モニターに表示されているポイント表でも、すでにユウハの獲得ポイントがダントツとなっており、この辺りで生存点重視の立ち回りに切り替えても良いくらいだが……その様子も、見られない。


 このまま戦い続けるつもりなのかしら、と考えながら、アリアは華焔に問い掛ける。


「この作戦は、カエンちゃんが考えたの?」


「儂と主様の二人でな。何はともあれ、主様は経験が浅い。それを誤魔化す術は幾つか教えておるが、本戦でどれだけ通用するかは謎じゃからな。ならば、相手が弱い内に経験を積ませないと。ああして接近戦に引き込めれば、我が主様でもそれなりにやれるし。それなりじゃが」


「ん、ユウハは、頑張ってるけど弱いから。色々考えてたわ」


「うむ、幸い主様は頭が柔軟な方でな。自身に足りんものを冷静に見て、考えることが出来るからの。そこは評価出来る点じゃろう」


 二人の言葉に、アリアとシェナは顔を見合わせ、互いに何とも言えない笑みを浮かべる。

 

 ユウハがメキメキ強くなっている、という話は、実は上級生の彼女らも聞いていたのだが、この二人に鍛えられていたら、そうもなるのかもしれないと、同時に思っていた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ユウハが思ったより強くて良き。 [気になる点] この流れ……次回とかでボコボコにされるんじゃ……。 そして花火戦法、こんだけ目立っちゃうと、もう本選では使えないですな……。 本選ではどう立…
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