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エルシア


「うおぉ……すごいな」


 展望デッキの窓から覗く、大都市の姿。


 ――王都エルシア。


 この、エルランシア王国という国の、首都である。

 空から見ている分、その広さがよくわかり、発展具合が窺える。


 俺は、東京という大都市を知っているが……それと似たくらいの規模はあるんじゃないだろうか。


 少なくとも、それを思い浮かべる程の規模はある。


 まず目につくのは、円状に広がった防壁だろうか。


 背の高い、分厚い防壁が外周にあり、それに沿って都市が形成されているようだ。

 中心点には巨大な城が存在しており、あれが恐らくこの国の王城であり、中枢なのだろう。


 こういうところを見ても、やはりこの世界が、ただ魔法というものを中心に発展しただけで、決して文明力は低くないのだということがわかる。


 そして――この飛行船の進む先に見える、ひと際大きな敷地。


 あれが、魔法杯の会場か。


 空のここからでもわかる、人、人、人。

 本番は明日だが、他学校の選手団や、観光客などがもう集まってきているのだろう。


 まず大きなホールが一つ存在しており、その周りに、テーマパークが如き面白い形状の建造物が、幾つも並んでいる。


 その中でも、特に広い面積を取っているフィールドがあり……。


「ユウハ、見ろ。あそこだ。あそこが、今年のボックス・ガーデンのフィールドだ。上から見られる機会は今以外ない、全体像をよく把握しておけ」


 そう言うのは、俺と同じものを見ていたハルシル先輩。


「……思っていた以上に、デカいですね」


 どういうものかは聞いていたが、想像よりも遥かにデカい。


 砂漠の隣に森林があり、小高い岩山の隣に市街地があり。

 三次元空間にも広がりが見え、複雑な地形になっているのが上からだとよくわかる。


 これは確かに、奇襲が多くなりそうだな。

 練習では、警戒や索敵に重きを置いていたが、その理由もわかろうものだ。


 ……ボックス・ガーデンには、隠されたアイテムを見つける、というポイントの獲得方法もあるが、あんな規模のフィールドから見つけるとなると、確かにそういう魔法に特化していなければ難しそうだ。


 つまり、俺じゃ無理だ。

 変に欲を出す前に、そのことが実感出来て良かったかもしれない。


「あぁ。学院にあるものの、大体二倍はあるな。流石にどの学校でも、この規模のフィールドを用意するのは難しいため、経験のない一年はほぼぶっつけ本番になる。お前は、一日目は暇があるため、しっかり他の試合を見ておくことだ」


「わかりました、そうします。華焔、アドバイス頼むな」


「うむ、任せよ!」


 俺の隣で、腕を組み、フフンと得意げな様子で頷く華焔。


 コイツは、頼られるとこうやって、わかりやすく嬉しそうな顔をする。


 俺より圧倒的年上の災厄をもたらすモノさんだが、最近はコイツが、妹っぽく思えてならない。


 ホントコイツ、何で今まで、そんな物騒な名前で呼ばれてたんだ?


「と……ボックス・ガーデンの隣、変な建物ありますね」


「あぁ、あれは――」


「私が出る奴ね。マジック・ラビリンスのフィールドよ」


 ハルシル先輩の言葉を継いでそう言ったのは、アリア先輩。


「ユウハ君は……まあ、魔法杯を見たことないのなら、マジック・ラビリンスも見たことないか」


「ないですね。どういう競技なんです?」


 すごく今更だが、スタッフとして同行しているシェナ先輩と違って、アリア先輩は普通に選手であり、今言っていた通りマジック・ラビリンスに出場するらしい。


 確か一日目から、つまり明日から試合があるとのことなので、見逃さないようにしないとな。


 ……そう言えば、ジャナルの奴も一日目だったか。

 アイツは嫌がりそうだが、あとで時間も確認して、そっちも見よう。


「えっとねぇ、おっきな迷路があって、それを抜ける速さを競うの。幾つも魔法的な罠や仕掛けが設置されてて、それらを解いたり回避したりしながら進むのよ」


 アリア先輩の言葉の次に、シェナ先輩が補足するように口を開く。


「さっきのカードでわかったと思うけど、アリアはすっごい頭良くて、それでマジック・ラビリンスはそういう方面が得意な人のための競技なんだよ。なかなか面白いから、一度も見たことないんなら、見てみるといいかも」


「はい、アリア先輩の試合を見ることにします。なんで、応援してますね、先輩。頑張ってください」


「フフ、君もね。シェナの尻尾と耳、触りたいものね」


「そのつもりっすよ。もう、すごい触らせてもらいますから」


「……ねぇ、アリア。もしかしてだけど、アンタも触る気でいる?」


「え? ダメかしら? ほら、私もシェナのそれが触れるなら、やる気出るんだけどなー」


「ダメ」


「えー? ユウハ君は良いのに?」


「……それを言うのはズルでしょ」


「いやいや、私は公平さを問うてるだけよ? ほら、私、生徒会長だし。そういうのは大事かなって!」


「アンタホント、良い性格してるわ」


「ありがとう」


「褒めてないし、そういうとこよ」


 うむ、いつも通りの先輩らである。



   ◇   ◇   ◇



 飛行船が発着場に着いた後は、忙しかった。


 やって来た案内に従い、まずホテルに向かった後、割り当てられた部屋で各々が荷解きを行う。


 部屋割りは、なんと全員が完全個室で、俺は超久しぶりに一人部屋となる――はずだったのだが、華焔が当然のような顔で「儂は主様の剣じゃし、同じ部屋で良いな。別にべっどもいらんし」と言い、シイカが「カエンが一緒なのに、私だけ違うのはずるいわ!」と言い。


 無駄に、本当に無駄に気を利かせてくれたミアラちゃんによって、いつもの如く全員同じ部屋となった。


 うん……まあ、いいんだけどさ。慣れてるし。

 別に、そこまで一人部屋が欲しかった訳でもないし。


 荷解きを終えた後は、全員ホールのようなところに集まり、魔女先生から今後のスケジュールを話され、それが終わったら競技ごとに分かれての最後の打ち合わせだった。


 ボックス・ガーデンでは、この競技の代表であるハルシル先輩が中心となり、飛行船に乗っていた時に見えたフィールドの特徴から、去年との差異、注意しなければならない点などが話されていく。


「注意すべきは、今年は市街地エリアが広いことだな。入り組んでいて、上下にも広い。隠されたアイテムも、恐らく今回は見つけるのはそう簡単ではないだろう。――警戒を怠ったらすぐにやられるぞ。最後まで油断するな!」


 彼の言葉に、俺達は気合の入った野太い返事をする。


 ボックス・ガーデンはガチのやり合いをする、ケガしまくりの競技なので、選手は野郎ばっかりなのである。


 最後の作戦会議が終わった頃には、もう夕方となっており、ホテルの食事の時間となる。


 なかなか美味しく、食べるの大好きっ子であるシイカも満足した様子だったが、「ふむ、七十点ね! ゴードの料理の方が美味しいけど、でもまあまあ」と、些か失礼な感想を溢していた。


 ……ゴード料理長の飯の方が美味いというのは、正直同感だったが。


 そうして、前日は忙しく過ぎて行き――エルランシア魔法杯が始まる。


 さあ、ようやくだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ユウハに一人部屋など存在しない……。 [気になる点] 魔法杯、なにが待ち受けているのか。 [一言] 今回も楽しく拝読しました。 次回からの魔法杯、楽しみにしています。
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