王都へ《2》
「――さあ、ユウハ君の番よ? どうする?」
悪魔の笑みで、俺へとほほ笑むのは、アリア先輩。
その左右で、俺の知り合いの先輩二人、ハルシル先輩と、シェナ先輩が、楽しそうに同じく笑みを浮かべている。
今のままでは、俺の敗北は必至。
だが……ここでめくれるものによっては、逆転の目がある。
ならば、決まっている。
「……ここで逃げるなんてあり得ねぇ! 先輩ら、覚悟してくださいよ! 今から俺が全部まくってやらぁ!」
そうして俺は、山札から一枚を引き――。
「おう、どうだ、ユウハ。啖呵を切った分の結果は、引き寄せることが出来たか?」
「どう、ユウハ君。その手札、見せてみてよ」
「スゥー……えー、もう一戦どうでしょうか、先輩方」
「ユウハ君、弱いわねー」
「お前は意外と顔に出るな。単純に引きも弱いが」
「不憫なタイプなんだ、君」
ひどい言われようである。
「……こ、ここで負けて不幸になることで、相対的に他の時に幸運になる確率が上がる訳なんで、これでいいんですー」
「そうだといいわね。私の経験上、そういう子って大体どんな時でもババを引きがちな気もするけれど」
「その分も、どこかで大きな幸運を発揮するために、不幸を貯めているのだと思いたいものですね、アリアさん」
「君が強く生きられることを願うよ」
「死体蹴りは楽しいですか、先輩方」
唸る俺を見て、笑う三人だった。
――こういう旅に、ゲームは付き物である。
最初は船内の探索をしたりとか、窓から見える景色に感動し、眺めたりしていたのだが、俺達の目的地である王都エルシアに到着するのは、二時間後とかなので。
流石に飛行船にも慣れてきたところで、先輩方にゲームに誘われ、こうして共に遊んでいた。
今やっているのは、こちらの世界のトランプだ。
絵柄や数、枚数が違うだけで、物自体はほぼ一緒だと言えるだろう。
遊び方に関しては前世と同じく数多あり、今遊んでいるのはポーカーに近いゲームで、山札からカードを引いて、より高い役を揃えれば良い訳だが……今の勝負で俺は、見事ブタだった訳だ。
ちなみに四回程やり、全部俺が最下位である。
マジこの人ら、初心者に容赦ねぇ。
「……先輩達がそういう態度なら、俺にも考えがあります! ――俺と変われ、シイカ! ルールは覚えたな?」
「ん、大体」
「よし、さあ行け、最終兵器シイカよ! この傍若無人な先輩方を成敗するのだ!」
「ふーん、傍若無人?」
「……この、とても優しく思いやりのある先輩方を成敗するのだ!」
「お、シェナの圧力に負けたわね、ユウハ君」
と、一緒にいた華焔が、クイクイ、と俺の服の裾を引っ張る。
「こういう勝負ごとなら、儂ではないのか、お前様よ」
「お前は戦闘ごと以外だと、俺と似た臭いがするからダメだ」
「……何だか、物凄く不本意な評価をされておる気がするの? ん?」
ダメダメ、意外と高スペックで、本気になれば頭の回転も速いシイカと違って、お前は戦闘技能以外結構ポンコツなんだから。
……まあ、本体が刀である以上、戦闘技能だけが優れているのは当たり前というか、それ以外のことも出来る時点で、すごいのはすごいと言えるのかもしれんが。
そうして、俺の代わりにゲームに参加したシイカだったが――。
「……! なるほど、確かに強いわね。ユウハ君とは段違いに」
「えぇ、ようやくゲームになった感じですね」
「ふーん……いいね。楽しくなってきた」
「アンタらそんなに俺をいじめるのが好きなのか? なあ?」
良い勝負をするシイカに、そう口々に話す先輩ら。
わざと言ってるだろこの人達。
見てろよ、もっとこのカードに慣れたら、絶対アンタら泣かしてやるからな……。
――その後は、俺も華焔も参加し、多人数で出来るカードゲームで遊ぶ。
「そう言えばユウハ、お前は結局、杖は使わないんだな」
そう問いかけてくる、ハルシル先輩。
「あ、そうなんですよ。どうやら普通の術具だと、俺の魔力を認識してくれないっぽくて、専用で作らないといけなくなりそうで。んで、それをすると規約に引っ掛かるそうなので、結局無しにするしかなかったんですよ」
「認識しない? ふむ……デカいハンデだな。だが、ここまで来た以上は、もう持っている手札でやるしかないか」
「えぇ、やれるだけやりますよ。ハルシル先輩とも……戦いたいですから」
俺がそう言うと、彼はこちらを見て、その言葉の意味を理解し、楽しそうにニヤリと笑みを浮かべる。
「そうか。俺も、本戦でお前と会うのが楽しみだ。戦える時を、待っているぞ」
「……大言壮語にならないよう、頑張りますよ」
「あ、男の子達で盛り上がってるところ悪いけれど、ハルシル君の負けね」
「……アリアさん、本当に容赦がないですね」
「フフフ、男の子相手の勝負だったら、本気でやれるからね! 女の子達とやる時とは、ちょっと手加減してあげなきゃいけないし」
「今、どちらかと言えば、女の割合の方が高いけど」
「シェナとシイカちゃんとカエンちゃんは、仲の良い子だからいいの!」
彼女らの言葉に、俺と同じく後輩の立場であるハルシル先輩が苦笑を浮かべる。
どうやら彼も、先輩というものには頭が上がらないようである。
そんな感じで時間を潰していき――間もなくのことである。
先に、王都エルシアが見えてきたのは。
飛行船墜落イベントは……まあ、その内ね?




