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ちょっと短いですが、今日もう一本投稿しますので。
――エルランシア王国。
その王都、『エルシア』。
人間国家において、最大の大きさと人口を誇る大都市であり、一日中活動が終わることのない、不夜の街である。
大陸を横断する何本もの魔導列車と、空を往来する魔導飛行船が円滑な流通網を形成し、仕事のみならず、観光地としても有名であるため、そこらの小都市と同規模の人々が日々出入りしている。
経済的に見ても、文化的に見ても、全ての面でエルランシア王国における心臓部であり、他に類を見ない程の発展を遂げた一大都市である。
他の都市では、ここまでの規模があるのはアーギア魔帝国の首都しかなく、長らく大陸の覇権国家の一つとして君臨し続けているその力を、都市の規模と経済の大きさに見せていた。
そして今、エルシアの郊外に存在する、魔法杯が行われる競技場一帯では、数多のヒト種が出入りし、忙しく動き回っている。
例年の行事であるため、当然ながら会場はすでに存在しており、設備も全て揃っているが、ステージのコースや障害、地形等は毎年変更しなければならないため、いつも大工事が必要となるのである。
宿泊関係の調整も煩雑であり、各国から無数のヒト種が訪れ、その種ごとに快適な環境が違っていたりするため、まず選手団の分をそれぞれの種に合わせて確保するだけでも大変なのである。
このようなところで他国の者に不便さを感じさせるのは、どれだけ小さかろうが、国の威信を傷付けることに他ならないのだから。
そんな訳で、現在競技場一帯は人の出入りが激しくなっており、皆が忙しそうに仕事をしており――だから、誰も気付いていなかった。
作業員の男の一人が、奇妙な紋様を、至るところに設置していることに。
不正等がないよう、何か細工がされていないか、ステージの検査は事前に幾度も行われる。
魔法杯が始まる直前にも一度行われるし、警備員もまた常に監視を行っているのだが……その男は、そのことを知らないのか、それとも発見されない手立てがあるのか。
人目を忍びながら、作業を装い、仕掛けを施していく。
競技場全体の、特に各競技が行われるステージを中心に。
と、そこに、同じく作業員の恰好をした男が通りがかり、一切相手を見ないまま、何でもない様子で口を開く。
「進捗は」
「六割」
「伝えよう」
「『棺』と『杯』は?」
「杯はまだだが、棺は完成した。……急げ、猶予はそう無いぞ」
「了解」
仮に聞かれても何もわからないであろう、その短い会話だけを交わし、二人の男はまた離れて行った。




