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魔法杯へ《5》

ジャナル、ヒロインレース参戦!(参戦しません)


 魔法杯に関する話が、アリア先輩から話されていく。


 本番の日程を中心に、そこから逆算しての、練習が可能な日数と、学院の設備が使える日と時間帯。


 競技によっては――特に俺の出ることになるボックス・ガーデンと、マジック・ラビリンスは場所を取るそうで、故にかなり広い敷地を誇るこの学院でもフィールドを確保するのは難しいらしい。


 だから、日を決めて、それ用にグラウンドとかを作り変えるのだそうだ。


 その、作り変えるって部分がまあ、この学院のすごさのような気もするが。


「そういやジャナル、まだ聞いてなかったけど、お前の方は何の競技に出るんだ? ここにいるってことは、何かしらの選手なんだよな?」


「俺は、ブルームだ。ユウハは?」


「こっちはボックス・ガーデンだ。……ブルームか。魔法の芸術性を問う競技って聞いたが……」


「おう、そうだな。魔法の規模、精緻さ。形。そういうのを問う競技だ」


「へぇ……お前、そんな魔法が上手いのか」


 そういうのが出来るのは、魔法の構造を、術式を深く理解していないと、難しいはずだ。


 普通の魔法は術式を利用する訳で、そこに差を生み出すのならば、自ら術式に手を加え、改変する、ということをしなければならないのだから。


 ジャナルは結構、インテリなのだろう。


「ま、それなりにゃあ得意にはしてるぜ。テメェの方は……あの襲撃の時の様子を見る限りじゃあ、確かにボックス・ガーデンは正しい選択かもな。そこらの奴ぁ、簡単にぶっ殺せるだろうな」


 ぶっ殺しはしませんけど。


「……そんだけ、上手く行きゃあいいんだけどな。今のところは不安しかないわ」


「おう、相変わらず自信の薄い奴だな。そういうのは、とりあえず強気で行っとかねぇと、どうにもならねぇぞ。弱気で、不安に思いながらやったところで、上手く行きっこねぇんだからよ」


「……とりあえず強気、か」


「そうだ。結果が成功しようが失敗しようが、最初に『自分は出来る』って自信が無きゃあ、何にも上手く行くはずがねぇ。テメェ一人ん時に頼れるのは、結局テメェしかいねぇんだからよ」


 ジャナルの人生観が窺える言葉だな。


 だが、確かにそうなのかもしれない。


 失敗する、失敗する、と思い続けて物事に当たったところで、結局上手く行くはずがないし、それなら成功する、と自分に言い聞かせ、自信を持って物事に当たる方が、実際に成功する確率も高くなる訳だ。


 そして、最後の最後に自分を信じてやれるのも、自分だけなのだ。


 なるほど、真理の一つかもしれない。


「……そうだな。お前の言うことも、(もっと)もかもしんねぇ。もっと自分はやれるって、思い込むことにするよ」


「おう、そうしな。自分は天才。自分は最強。他は雑魚。もしくはカス。そう思ってりゃあ、ここぞって時に、負けねぇっつー思いが湧き上がってくんだよ。負けたら負けたで、死ぬ程悔しがることが出来るしな」


「そ、それはそれで、余計なプレッシャーが掛かりそうだが」


「? いや、別にそんなこたぁねぇが」


 別に惚けている訳ではなく、素の様子で答えるジャナル。


 め、メンタル強者め……。


 流石、生い立ちから苦労が窺えるだけあるな。


「へへぇ、ジャナルメンタルコーチのお言葉、胸に刻ませてもらいやす」


「おう、本にして売り出すからよ。お前百冊買えよ」


「……じゅ、十冊くらいで勘弁しといてくれ。無一文なもんで」


「しゃーねぇな。んじゃあ、知り合い五人に『今、買って布教すれば、元手以上の金が入ってくる!』って紹介すんだったら、十冊で勘弁してやる」


「知ってるか。それ、詐欺って言うんだぜ」


 ねずみ講、って名前なんだが。


「お、賢い奴だ。なら、テメェにゃあ、五割引きで売ってやろう」


「そうかい。ありがたい限りで」


 愉快な奴め。



   ◇   ◇   ◇



 ――そんな感じで、ジャナルと話している内に会議は終了する。


 今日のは結構、軽めというか、今度の日程決めや、段取りに関する最初の説明会、といった感じだったな。


 前から進められてはいたようだが、本格的始動が今日から、ということなのだろう。


 会議が終わると同時、ジャナルは早々に「じゃあな、ユウハ」と言って去って行き――というところで、壇上にいるアリア先輩がこちらを見ながら、ちょいちょい、と手招きしていることに気が付く。


 俺が、「俺ですか?」と問うため自身を指差すと、先輩はニコッと笑って頷いたので、誘われるままに彼女の下まで行く。


「お疲れ様です、アリア先輩」


「ん、ありがと。ユウハ君も……なんかちょっと、大変そうだったわね」


 少し気遣うような表情。


「いや、まあ、俺みたいなのが急にしゃしゃり出て、気に食わないのもわかるんですけどね。多分あの彼は、俺の魔法技能に関しても知ってたんだと思いますし」


「ん、そうかもね。でもあれは、そういうのとは関係のない、ただ否定したいから否定していただけのものよ。『貴族』という自分の縄張りに、『平民』のあなたが入ってきたのが、嫌だったのでしょうね」


 ……そうだろうな。


 あれは確かに、何か理由があっての否定ではなく、否定したいから、否定した。


 そういう感じだった。


「人生生き辛そうですよね、それ。何でも気に食わなそうで」


「フフ、そうね。もう全部が敵になっちゃって、大変そうよね。……ん、ユウハ君が気にしてないなら、良かった。ああいう子は本当に一部だけだから、気にしないでって言いたかったの」


「心配してくれてありがとうございます。大丈夫です、鬱陶しいとは思いましたけど、気にはなっていないので」


「そっか。……それじゃあ、ユウハ君! 何かわからないところとか、気になるところとか、あった? ユウハ君突然の話で、設備の使用ルールとか、そういうのもあんまりよくわからないだろうから、何かあったら今聞くわよ?」


「あ、超助かります。確かに、聞きたいものは幾つかあったので」


 そうして俺は、わからないことを端からアリア先輩に聞いていく。


 彼女は嫌な顔一つせず、それに根気良く付き合ってくれたのだった。


 こういう先輩が一人いると、本当にありがたいな……。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 頼れる先輩が一人いると本当にありがたいのは分かる……。 [気になる点] 突っかかってきた貴族さん、逆恨みで邪魔してきそうですね。 まあそんな展開にはならないでしょうが。 [一言] 今回も…
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