先輩達《2》
……良いね、色んなケモミミ。
その気になったので、多分その内、もっと出てきます。
「あと、一応聞いておくけど、ユウハ君の人種は『人間』でいいんだよね?」
「あ、はい、人間……の、はずです」
「何で歯切れが悪いのさ」
「いや、つい最近、自分の存在に疑念を抱くことがありまして」
俺……人間でいいのだろうか。
自分では自分のこと、人間だと思っているが、ミアラちゃんの説明を聞く限りだと俺、精霊種っぽいんだよな……。
魔力が高じて、生み出された存在が俺な訳なので、彼女が言っていた精霊種まんまである。
「……とりあえず、人間で通すことにします。はい、人間です」
「その言葉を聞いてる限りだと、全然そうじゃなく聞こえるけど」
「いやいや、もうすごい人間です。超人間です」
「そう。超人間なの」
「ちなみに私はただの人間よ?」
「いや、知ってるけど。何でわざわざアピールしたのよ」
「対比になるかなと思って」
「……つまり、人間には、超人間と、普通の人間の二種族がある、と」
「そうみたいね。多分、超人間はユウハ君だけだと思うけど」
「これからはオンリーワンの超人間としてやっていきます」
「あ、否定しないんだ」
そんな冗談をひとしきり言い合った後、俺は彼女らへと問い掛ける。
「と、そうそう、一つ教えてほしいんですけど……再来月、この国の王都で、なんか魔法の祭典なるものが行われるそうですけど……先輩方、詳しいこと知ってます?」
「あら、ユウハ君は知らない? 毎年一度行われる、有名な競技会よ。この学院以外にも、魔法を教える学校は各国に存在するんだけど、それがエルランシアの王都――『エルシア』に集って魔法を競い合うの」
「ん、魔法技術は国力の要で、国の威信も掛かってるから、他の学校も気合入ってるんだよ。ミアラ様のいるこの学院が、やっぱり総合優勝することが多いんだけど、競技によってはちらほら負けることがあるの。総合優勝取れなかった年もあるそうだしね」
「ま、でもお祭りみたいなものね。色んな人が来るし、出店とかも多く出るし。その時はこの学院も長期休みに入ってるから、ユウハ君も見に行ってみると面白いわよ」
「……そ、そうっすか。相当大規模なものなんすね」
そう言った俺の顔が、余程引き攣っていたのだろう。
二人が不思議そうな様子で、こちらを見てくる。
「どうしたの、ユウハ君?」
「苦虫を嚙み潰したよう、っていう表現がピッタリの顔ね」
「……実はちょっと前に、それの選手になれって、学院長に言われまして」
「えっ……」
「へぇ、ユウハ君、そんなに魔法使えるんだ。私、スタッフやることになってるから、近くで応援するよ」
同じ授業を一つ受けているため、俺の魔法技能がどれ程のものかを知っているアリア先輩が言葉を失ったような表情になり、逆に全然知らないシェナ先輩は、素直に感心したような表情を浮かべる。
「……シェナ先輩、俺の使える魔法、教えましょうか? 今のところ、生活魔法だけです」
原初魔法も覚えたし、今はそれの練習を行っているが……満足に使えるのは、やはりまだ生活魔法のみなのである。
結構難しいのだ、原初魔法。
必要なものを思う、という行為に雑念が入ると、形が崩れたり、発動しなかったりするのだ、これが。
慣れが必要なようで、構造をよく理解している魔法でないと、普通に術式を使って発動した方が簡単で早かったりするのである。
あの戦いの時、俺が生活魔法の『ライト』を閃光手榴弾代わりに発動したのは、正解だった訳だ。
「……えっ、と……まず聞きたいんだけど。ユウハ君、どうやってこの学院に入ったの?」
「学院長のコネです」
「ん。正直でよろしい」
すると、アリア先輩が苦笑を浮かべる。
「ま、まあ、ユウハ君には、それでも入学が許されるだけの、特異なものが多分あるのよ。ね? そうよね?」
「……一応は」
無属性という、本来ならばあり得ないところに、適性がある訳だからな。
ミアラちゃんは、初めて会った時から、そのことを見抜いていたのだろう。
「ただ、魔法を学び始めてから、まだ短いみたいだから、それで選手となると……相当苦労しそうよね」
「ユウハ君、魔法覚えてどんくらいなの?」
「二か月くらいですね」
「……無茶ぶりも良いところね」
「俺もそう言いました」
残念ながら押し切られました。
そもそも、何の選手になるのかもわからない。
競技会がどのようなものかもわかっていない。
これを無茶ぶりと言わずして、いったい何が無茶ぶりになるのか。
「……あの方はちょっと、そういう突拍子もないことをする時があるからねぇ。ただ、意味のないことはしないし、何かしらの考えは確実にあるんでしょうけど。私達だと思考がそこまで追い付かないから、突拍子もなく見えるだけで」
「……そうっすね、学院長はそういう人だと思います。それを言い渡された方は困ったもんっすけど」
アリア先輩の言う通り、これに意味はあるのだ。
彼女は何かを考えていて、俺に「選手として出場してね」なんて言い放ったのだ。
……まあ、あの人に愉快犯気質があるのは間違いないので、悪ふざけが入っていることも確かなのだろうが。
「……わかった。もう知らない仲でもなくなった訳だし、私に出来ることがあったら協力する。流石にちょっと、可哀想だし」
俺を気遣っての言葉に、何故か俺ではなくアリア先輩がニヤリと笑みを浮かべる。
「あら、それなら、シェナにしか出来ない良いご褒美があるわよ。ユウハ君が頑張ったら、あなたの耳か尻尾、触らせてあげたら良いと思うわ」
「は? ちょ、ちょっと、何言ってるの」
「え、それがマジなら死ぬ気で頑張りますけど」
「だそうよ?」
「……もう、何で人間は、そんなすぐ耳とか尻尾とか、触りたがるのよ」
「可愛いんで」
「真理ね、ユウハ君」
するとシェナ先輩は、ちょっと頬を赤くしながら、ため息を吐く。
「……ハァ。いいよ。私も女。後輩がそれだけ頑張るって言うんだったら、協力したげる。ただし、何の選手になるにしても、良いとこまで行ったら、よ? 具体的には、表彰されるくらいのとこまで行ったら、観念して耳でも尻尾でも、好きなだけ触らせたげる」
「マジすか! うおおお、やったぜ。超頑張ります」
「フフ、やったわね、ユウハ君。シェナの耳と尻尾が触れるように、私もいっぱい協力するわよ!」
「ありがとうございます!」
「……もう、バカなんだから」
呆れたようにそう言ったシェナ先輩は、だが笑みを浮かべていた。