無の属性《1》
感想ありがとう、ありがとう!
翌日。
「おっ、ユウハ。おはよう、結構な怪我だったそうだけど、良くなったんだね」
「ユウハ、おはよう。元気になったようで何よりだ」
「おう、はよ、カル、ジオ」
教室に入ると同時、声を掛けてきた友人の二人に、そう挨拶を返す。
「いやぁ、聞いたよ。敵の親玉軍団って、君と君の友人が倒したんだって? 相変わらず、一つぶっ飛んでるね~」
「あぁ、なかなか出来ることじゃない。仮に実力があったとしてもだ」
「お前らだって、相当やったって聞いたぞ。三人で組んで、護衛の人らとそん色ない働きしてたって――な、ジャナル」
そう、口の悪い友人にも声を掛けると、彼はわかりやすく面倒そうな表情を浮かべる。
「……ケッ、くたばってなかったのか」
この三人、ジオが前衛でタンク役となり、カルが中衛で全体のバランスを整え、ジャナルが後衛で超火力魔法をぶっ放して敵を殲滅していき、あの襲撃で最後まで活躍し続けていたんだとか。
しかも俺と違って、怪我の一つもしなかったそうなので、俺との実力差が窺えるな。
「あれだけ色々ありそうだったのに、ジオとも仲良く協力してたみたいだしな。君らの友人としては、嬉しい限りですよ」
「誰が仲良くだ、誰が。そこの胡散臭ぇ金髪魔族が手伝えっつーから、仕方なくそうしたんだよ。四の五の言ってられる状況でもなかったしな」
胡散臭い金髪魔族。
なんか良いな。
響きが好きだ。
と、ジャナルの言葉に、カルがニコニコと楽しそうなまま言葉を返す。
「あ、酷いなぁ。僕、ジャナルには、そんな胡散臭がられるようなこと、してないはずだけど」
「いや、お前は実際に、胡散臭い金髪魔族だし」
「それに関しては、それなりに付き合いの長い僕も否定出来ないな」
「うーん、ここで多少グレても、許される気がするね」
ケロッとしてるクセによく言うぜ。
◇ ◇ ◇
そうして、俺は数日ぶりに授業に参加する。
クラスの人数が少し減っていたのだが、これは恐らく、一度実家に帰省しているんだろうな。
あれだけの騒ぎがあったのだ、当然と言えば当然だろう。
授業に関しては……まあ、元々俺は追い付けていなかったので、怪我休みで遅れた分も、大して影響がない。悲しいことに。
魔女先生の補習頼みである。
少しずつ追い付けてはいるみたいなんだけどな、流石にまだまだ、といった感じだ。ハァ……。
そんな感じで、久しぶりの日常を感じながら一日が過ぎ去り――昼過ぎの、夕方になる前くらいの時間帯。
俺は今、ミアラちゃんの研究室を訪れていた。
「失礼します」
「はーい、どうぞー」
部屋に入ると、中にいるのは、当然ミアラちゃん。
今、例の襲撃の件で色々と忙しいはずだが、俺が話がしたいと言うと、今日こうして時間を取ってくれたのだ。
ちなみにシイカと華焔はいない。
用事があるから、と言って外してもらった。
「うん、本当に良くなったようで何よりだ。あと、フィオちゃんから聞いたけど、カエン、本来の姿を取り戻したんだって? いやぁ、二年くらいは掛かるかな、と思ってたけど、あっという間だったねぇ」
からからと楽しそうに笑うミアラちゃんに、俺は恨みがましいような表情をする。
「先に言っといてくださいよ、あんな姿にもなれるんだって。アイツがしっかり喋れるようになったせいで、今、部屋での俺の肩身の狭さが半端ないんすから」
「あははは、シイカちゃんもカエンも、我が強いからねぇ。いやぁ、いいじゃないか、美少女二人と暮らす日々。君も男なら、嬉しいだろう?」
「心労の方が大きいんで、プラスマイナスで言うとマイナスです」
アンタ、わかって言ってるだろ。
そうしてひとしきり話したところで、本題に入る。
「さて、話があるってことだったけど、今日はどうしたのかな?」
「……はい、俺はあの戦いの中で、原初魔法が使えるようになりました。それに関して、わかったことがありまして」
「へぇ! それはおめでとう、君がここのところ練習を続けているのが、原初魔法だったね」
「えぇ、まあ。原初魔法が使えたのは良かったんですが……ミアラちゃん。ミアラちゃんは、俺のこと、多分俺より理解してますよね?」
そう言うと彼女は、少し面白げな顔をし、問い掛けてくる。
「何でそう思ったのかな?」
「最初会った時から、ミアラちゃんは俺に関して、何か理解している風でした。後に、二回部屋に来てくれて、魔力を見てくれましたが……多分あれは、その予想に確証を得るためのもの、だったんじゃないかなって」
「……うん、そうだね。君に関して私は、一つ予想しているものがある。ただ、先に君の方の話から聞こうか。君はいったい、何がわかったのかな?」
「はい、俺の得意属性に関してです。俺の適性は――『無属性』、なんですね?」
あの、宝物庫での戦いの時だ。
俺は、集中が進んだことで、色々と見えていた。
相手の動きに――魔力の動き。
そう、魔力だ。
あの時俺は、魔力が見えていた。
だから、わかった。
自身と、他が、ひどく似通っている、ということを。
俺を俺として構成する要素。
それに対する、空間を構成する要素と、物質を構成する要素。
そこに存在する差が、小さかったのだ。
特に、俺と近しく感じられたのが……空間を構成する要素だ。
もっと言うと、古の森というこの近辺の環境が、非常に俺と近しいものだと、改めて外を見た時に感じた。
そこまでを感じたことで、俺は理解したのである。
――多分、俺は一度、死んでいる。
死んで、この世界で蘇った。
俺は、異世界に転移したのではなく、転生したのである。