学外授業《2》
二丁拳銃、いいよね……んー、いつか出したいものだ。
なかなかに、嫌な予感がしたものだが……あくまで予感は予感だ。
特に何かも起こっていない以上、なんか怖いから帰りたい、なんて言えるはずもなく、俺達は普通に授業に参加していた。
今日の学外授業はほとんど個人の練習となるので、各々が事前に選んできたものをこの環境で練習し、それを魔女先生が見て回る、という形になっている。
俺が練習用に選んだものは、原初魔法だ。
シイカに教わってから、夜な夜な練習し続けているのだが……形になりそうな気配はあるのだ。
だが、何か一つ、足りていない。
そんな感覚なのである。
歯車が一個足りていないかのような、もしくは物は揃っているのに、ボタンを一つ掛け違えているせいで、上手く働かないかのような。
とにかく、なんか上手くいかない、という感じなのだ、ずっと。
そして、最初に感じていた違和感もまた、やはりずっと残り続けている。
この違和感の正体を突き止めることが出来れば、足りていないものもわかるような気がするのだが……この学外授業で、何かしらを掴めればいいんだがな。
「……それにしても、本当に魔法の発動が簡単な環境だな」
多少ではあるものの、いつもより魔力が練りやすい感じがある。
試しに俺が使える簡単な生活魔法を発動してみるが、劇的ではないものの、俺にしてはスムーズに魔法が顕現した。
俺でもわかるくらいだ、ここは確かに良い環境なのだろう。
と、他の生徒達に混じって俺もまた練習を続けていると、腰に佩いていた華焔から「ねー、魔物斬りに行こう、魔物。ここ、いっぱいいそうだし」といった感じの意思が送られてくる。
「それは良い案。私、美味しい魔物を知ってるから、それを狩りたいわ。ユウハがいれば、向こうから寄ってくるだろうし」
シイカの言葉に、「じゃあこっちは、美味しい血をしてる魔物を教えてあげるー」とウキウキした感じの意思を溢す華焔。
「お前ら、今日の授業の趣旨がわかってるか? 魔法の練習だ」
「でも私、課題ももう終わったから」
「ぐっ……」
原初魔法ではなく、逆に普通の術式を使用する魔法を学び始めたシイカであるが……コイツの魔法に関する能力は、一級品なのだ。
肉体だけ高性能で、全然使いこなせていない俺とは違い、シイカはあっという間に術式の魔法が使えるようになり、高度な魔法も「ふーん、こんな感じ?」とか言って、もう普通に発動させられるのだ。
そもそも原初魔法が使える時点で、魔法技能はクラスでも突出して高い訳だしな。
だから、本人としては特に練習したい魔法なんかもなく、故に魔女先生に課題を貰っていたはずなのだが、本人の言葉通りそれももう終わらせられたようだ。
さ、最強種族め……。
「だから、暇なの。外だと、ユウハもつれないし。部屋だと、あんなにいっぱい、好きにさせてくれるのに」
「あらぬ誤解を受けそうな言い方、やめてくれますかね、シイカさん」
「――――」
シイカの言葉に同意するように、「そうだそうだ、外だとつれないぞー」といった感じの華焔が言葉を続ける。
「あなたはもっと黙ってなさい。一々言うことが物騒なんだからよ。大体、最近俺を好きなだけ振り回して、満足してるでしょうが」
お前にせがまれて、ここのところ毎日運動場行ってるだろうが。
いや、勿論ためにはなってるんだけどさ。
「むっ、ずるい。私もユウハを振り回したい」
「どういう願望だそれは。そもそも現在進行形で俺のことを振り回してるだろうが」
「そう? ならいいわ」
いいんだ。
そんな感じでシイカと華焔とやっていると、俺達のところに魔女先生がやってくる。
「ほら、あなた達、真面目にやりなさい。――ユウハ君、君が練習してるのは……原初魔法?」
「あ、はい。シイカに教えてもらっている内に、使えそうな気配はあるんですが……まだ形になってません」
「ん~……原初魔法に関して、となると、私も大したことは言えなくなっちゃうんだけど……使えそうな気配というと、具体的にはどんな感じなのかしら?」
「原初魔法における、術式の代わりになるもの、ですかね? 確かにそれが、形成されているような感覚はあるんです。ただ、発動しません。何か一つ足りない感じなんですが、それがずっとわかんないんですよ」
「……なるほど。実は私も、シイカちゃんから原初魔法のことを聞いてから、ちょっと練習してるのよね」
「先生も? どうでした?」
彼女は、首を横に振る。
「全然ダメ。全く訳がわからないって感じ。行けそうって感覚すらなかったから、私には無理ね。この感覚だと、数十年掛かって覚えられるかどうか、ってレベルだわ。そもそも、原初魔法は学院長も使えないし、恐らく属人的な魔法なのよ。あの方、相当な特異体質を必要とする魔法でなければ、全て使えるから」
「す、全て、ですか?」
「勿論、得意不得意はあの方にも存在しているわよ? 本当にただ発動出来るだけ、というものも多いけれど、まあ間違いなく、この世界で最も多彩に魔法を扱えるのは学院長ね」
そう言って肩を竦める魔女先生。
「少し話が逸れたわね。まあ恐らく、私の感覚からすると原初魔法は、単一属性に似た性質の――あ、単一属性はわかるかしら?」
「ミアラちゃんに教えてもらいました」
「そう。なら話は早いわ。原初魔法は、難易度とかそういう問題じゃなくて、単一属性と同じように使える者は使えるし、使えない者は使えないって魔法なのよ。元々そうだろうとは思われていたんだけど、これで推測がある程度強化されたかしら」
時折見せる研究者の顔で、楽しそうにそう語る魔女先生。
一瞬授業のことが頭から抜けていそうな彼女に苦笑を溢し、俺は聞きたかったことを問い掛ける。
「……それはそうと先生、あの……もしかして何かあったんですか?」
彼女は、ピク、と反応する。
「……どうしてそう思ったのかしら?」
「いえ、さっきカル――カルヴァンと話してたんですけど、なんか、兵士の人らが緊張してるっぽかったんで。何かあったのかなって」
魔女先生は、何と言うべきか悩むような顔を一瞬してから、答える。
「……あの子か。ま、ちょっとね。あまり詳しく話すことは出来ないのだけれど、もしかしたら何かあるかもしれないって情報があってね。けど、そんな心配しなくていいわ。別に確証がある訳じゃなくて、念のため警戒しているってくらいだから」
「……そうですか。それならまあ、とりあえず俺は原初魔法頑張ることにしますよ。シイカにも差をつけられてますし……」
「フフ、えぇ、頑張りなさい」
――そんな話をしてから、間もなくだった。
何もない森の奥に向かって、ス、とシイカの尻尾が向いたのは。
* * *
「――時間だ。動くぞ」
その男の言葉に、周囲にいた者達は、一斉に立ち上がる。
彼ら全員が着ているのは、頭まですっぽりと覆う黒一色のローブ。
素顔は仮面で隠され、手には一人残らず無地の手袋を嵌めている。
人種、種族、性別、老若。
特徴の一切合切を隠すために、徹底的に身体パーツを見せない格好を、彼らはしていた。
唯一差があるのは、各々の得物のみ。
だが、そこから痕跡を辿られぬよう、全てが現地付近の街にて調達されたもので、剣や魔導銃の銘、番号等は残らず削り取られている。
もはやお互いすら、識別が困難な有り様。
故に彼らは。
ただ、己が為すべきを、為すのだ。
「先に言っておく。この中の半分は、死ぬ。相手はミアラ=ニュクスの治める学院。である以上、今作戦は、それだけの難易度となる」
男は、話す。
「だが、立ち止まることは許されない。友の屍を踏み越え、前に進まねばならない。我らが望まんと欲するものを、得るために。全ての死した者達のために。――覚悟はいいな」
その言葉に、返答はない。
ただ、静かなる戦意と闘気が、立ち昇るのみ。
――そして、黒尽くめの集団は、行動を開始した。
明日はリアルで予定があるので、多分更新しません! すまんな!