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上級剣術授業

 幾つか同じ設定は使ってるけど、同じ世界線ではないよ~。


 ――上級剣術授業、その初回授業の日。


 俺は、頭を抱えていた。


「くっ、この授業が一番心配だ……」


「そうなの?」


「そうなんだよ。勝手がわからないのは同じだが、これならまだ魔法の授業の方がマシだ。あっちは多少慣れてきたからな」


 まだまだ素人だが、魔法の方は、魔女先生のおかげでスタートラインには立てたかな、という実感がある。

 

 剣術には、その感覚もないのに上級の授業だ。

 もはや不安要素しかない。個人的には初級でやりたかった。


 魔法学院に来て、悩みが剣術とは。

 いったいどうなってやがるんだ。


 するとシイカは、励ますようにポンと俺の肩に尻尾を置く。


「大丈夫よ。棒を振り回してたら、何とかなるわ」


「それはお前だけだ」


 クッ、最強種族め……。


「アハハ、気持ちはわかるけどね。僕も同じ思いだし」


 と、今後が心配で嘆いていると、カルこと、カルヴァン=エーンゴールが俺達の会話に参加する。


 コイツも上級剣術に参加するので、共にここまで来たのだ。


「嘘つけ、ゲルギア先生とのあの様子じゃあ、相当剣が使えるはずだろ」


「うーん、そこは、考え方の違いかな。確かに僕自身、自分に一定の実力があるとは思うよ。けど、突出したものがあるとは言えないし、とても天才には及ばない。それくらいの才能しかないのは自分自身がよくわかってるんだ」


「……この前の先生との模擬戦を見てたら、お前も十分凄いんじゃないかと思うが」


「ハハ、素人でありながら、そのことを見て取れるユウハの方がよっぽど才能あると思うよ。まあ、そもそも剣術やりたくてこの学院に来た訳じゃないしね。だから、そっちを評価されても、っていうのが正直な思いなのさ」


 肩を竦め、そう答えるカル。


 ……なるほど、俺とは立ち位置が違うから、見えているものも違うのか。


 そう言えばコイツは、最初の授業の時もしれっと初心者のフリして俺達の方に混ざっていたし、もしかするとそんなに剣術が好きではないのかもしれない。


 にもかかわらず、こうやって評価され、上級に放り込まれたとあっては、微妙に複雑な心境にもなるのかもしれない。


「ま、今更どうこう言ってもしょうがないんだけどね。ゲルギア先生に教われるっていうのもあるし、良い機会だと思うことにするよ」


「あのゴツい先生、やっぱりそんなにすごい人なのか?」


「うん、『英雄ゲルギア』って言われてて、剣の世界においては知らない者はいないであろう程の、すごい人間だよ。『アドニール国の戦い』って、知らない? 結構有名なんだけど」


「知らんなぁ、どんな話なんだ?」


 カルの話を聞くところによると、ゲルギア先生はとある国との戦争において、剣一本で敵国の侵略を防ぎ、戦い抜けた豪傑であるらしい。


 兵力には倍以上の差があったそうだが、何百何千もの敵を屠り続け、味方と祖国を守り続け、果ては「ゲルギアがいる限り、この戦争には勝てない」と判断され、終戦に至ったのだという。


 ……シイカとやり合っていた時の様子からして、あながち嘘じゃなさそうなのが恐ろしいところだな。

 真に、英雄と呼ばれる存在ってことか。


 ある時から一切表舞台に出て来なくなったそうなのだが、そんな彼がこの学院で働いているとあって、相当驚いたそうだ。


「へぇ……そんな人が、何でこの学院で教師をしてるんだろうな」


「さあねぇ。でもまあ……それだけの英雄が国を離れて、ということになると、あんまり愉快な理由じゃあないだろうさ。ユウハも、そこは聞かない方がいいよ」


「……そうだな」


 いつものちょっと胡散臭い笑みではなく、真摯な顔でそう言う彼に、俺はただそれだけを答える。


 俺がわからない何かしらの事情を、コイツは察しているのかもな。


 ――と、そう話している内に、俺達は指定の運動場に辿り着く。


 中にはすでに十数人がおり、手慣れた様子で準備をし、軽く動いて身体を温めている。


 恐らく上級生だろう。

 逆に慣れていない様子の生徒もいるが、それは俺達と同じ一年生だろうか。


 この授業は、自然と人数が絞られるため、学年関係なく行われるようなのだ。

 ちょうど、ミアラちゃんの授業と同じようなものだ。


 それでも、あっちよりは人数が多いがな。

 あの人の授業が計五人だったのに対し、こちらは普通の授業の一クラス分、よりちょっと少ないくらいか?


 時間より少し早くは来たつもりだったが、どうやら俺達が最後だったようで、全員揃ったのを見て取ったゲルギア先生が口を開く。


「よし、揃ったな。まず、一年はこちらに集まれ。幾つか説明を行う。それ以外の二~四年生はいつも通りだ。さあ、動け」


 その簡潔な言葉で、上級生達は互いに雑談しながらこの場を離れていき、一年生が残る。


 そして始まる、ゲルギア先生の説明。


 初級授業の時もそれらしいことを言っていたが、この授業では型や基礎等は教えないらしい。


 ここに来るのは、それぞれどこかしらの流派で学んだ者が多いため、新たに何か技を学ぶのではなく、その流派の技を各々で磨くという方針で授業を行っているようだ。


 だからという訳ではないだろうが……説明が終わった後、彼が最初に指導を始めたのは、圧倒的素人の俺だった。


「――ユウハ。その調子で、お前は握りを意識しろ。正しく握らねば、剣は振れん。余計な力が入り、自らの肉体すらを傷付けることになる。常に頭の片隅に置いておけ。エーンゴール、ユウハの相手はお前が務めろ」


「わかりました。じゃ、ユウハ、僕がしっかり君のこと、(しご)いてあげるよ!」


「……お手柔らかに頼むぜ」


「勿論、勿論。任せておいて。僕は優しいからね、優しく手取り足取り教えてあげるよ」


 良い笑顔のカルさん。


「優しい奴はそんな胡散臭い顔はしねぇ」


「おっと、酷いなぁ。そんな悲しいことを言われると、悲しみで優しい僕の剣先もブレちゃうよ」


「いや嘘、冗談、冗談だって、カルさんよ」


「……お前達、じゃれていないで、真面目にやれ。――シイカ、お前はまず、この二人でもいいが、皆の様子をよく見ているといい。お前は、ヒト種がどのように戦うのか、それを知ることからだ」


「ん」 



   *   *   *



 ――不思議なクラスメイトだ。


 カルヴァン=エーンゴールは、つい最近知り合った友人、ユウハと木剣を打ち合わせながら、そんなことを思っていた。


 まだ、出自などを聞いたことはないが……恐らく貴族の家系ではないのだろう。


 かと言って、話している感じからして、平民という感じもない。

 魔法や剣術に関してはからきしなようなのだが、話をしていると、深い知性を感じるのだ。


 今の時代、貴族や平民など関係なく、教育が受けられるだけの基盤が整いつつあるものの、経済的な理由から、この学院に入学出来るだけの知識や魔法技術を得るためには、やはり平民では難しいものがある。


 才能を強く重視するのがこの場所であるため、他の魔法教育機関よりは身分など関係なく入学可能であるのは確かだが、その者が磨けば光る原石なのかどうかは、実際に一度磨いてみなければわからないのだ。


 平民よりは、貴族等の方がその機会が多いことは、間違いないのである。


 ユウハは、魔法に関する知識の面では、正直なところ無知と評して良い具合であり、魔法技能なども一般人以下としか言えないくらいの実力しか有していない。


 だが――それらが、彼を表す上で一面のものでしかないということは、すでに理解している。


 この学院に入学が許された以上、知識や魔法技能がなくとも、何か世人とは違う特異な才能を有しているのだろうとは思っていたが……多分、この同級生が持っている才能は、特異なんて言葉で表せるようなレベルにあるものではないのだろう。


 何故か、という根拠を述べることは出来ない。

 だが、自身の直感が、彼は何かが違うと訴えて止まないのだ。


 恐らくだが……彼と共にいる少女、トーデス・テイルのシイカもまた、自身と同じように感じたのだろう。


 だから、離れることなく、常に共にいるのだ。

 彼の持つ特別な何かに惹かれ、ああして付き従っているのだ。


「――うん、君はやっぱり、目が良いんだね」


 一通り打ち合ったところで、カルヴァンはユウハへとそう話す。


「ハァ、ハァ……こんだけ翻弄され続けて、そう言われてもな。やっぱり、俺に上級は早いんじゃないか?」


 両膝に両手を突き、息も切れ切れの様子で答えるユウハ。


「いや、そんなことはないよ。確かに駆け引きへの対処はまだダメかもしれないけど、それは君が慣れていないだけだ。多分もうちょっと慣れれば、僕のフェイントなんて君は簡単に見破れるようになるだろうさ。ゲルギア先生の判断は、間違ってないよ」


 見ていればわかる。


 ユウハは、非常に目が良い。


 素人であることは否めない事実であるが、しかしこちらの動きをしっかりと見て、反応しているのが相対しているとよくわかる。


 彼が慣れていない上に、そうして目が良いので、多少のフェイントを入れれば反応してしまうという面はあるが、それは剣術を学んでいけば自然と改善されていくものだ。


 それに、一度使ったフェイントは、二度目は避けられている。


 見ることで覚え、常に頭を働かせ続けている証拠だ。

 決して肉体頼りではないことがよくわかる。


 誰に言われずとも、それが出来ているユウハならば、自身のそんなに上手くもない剣術など、簡単に抜けることだろう。


 見るという技術(・・)は、それだけ重要なものだ。

 全ては模倣から始まり、そこが優れている者は、例外なく成長が早いのである。


 ――まあ、彼に才能があろうがなかろうが、そんなのはどうでもいい(・・・・・・)のだが。


 別に、才能云々で、彼と話すようになった訳ではないのだから。


「ユウハ、弱い」


「ぐっ、うるせ、わかってるよ」


「大丈夫。ユウハが最弱でも私が守る」


「お前はもうちょっと、言い方ってものを覚えた方がいいな」


 そこで息が整ってきたようで、身体を屈めていたユウハは、体勢を起こす。


「フゥ……そういや、聞きたかったんだが、前の時ゲルギア先生が言ってた魔王流ってのは? お前んところの流派なのか?」


「ん、そうだね。一部の魔族が学ばされる……ま、一言で言ってマイナー流派さ。影響力も特にないし、門下生もすごい少ないし」


「俺、知ってる。そういうところに限って、一子相伝の奥義が連綿と受け継がれてたり、剣からビーム出せたりするんだろ?」


「い、いや、確かに奥義はあるけど……あと、何だい、剣からビームって」


「知らんのか? 剣士はビームを出せてこそ一人前なんだぜ。常識だ」


「そうなんだ。どうやら君のところと僕のところの常識は、ちょっと違うようだね」


「私、尻尾からなら、ビーム出せるわ」


「マジで? 見てみたい――いや、やっぱいいわ。お前のビーム、すごい威力してそうだから」


「山を抉るくらいは出来るわ。ユウハ、撃ってほしい?」


「死ぬわ」


 二人のやり取りに、笑う。


 ――まさか自分が、こんな風に普通の学生生活を送れるとは、思っていなかった。


 最初は、こんな魔法を学ぶ最高の環境に来ていても、権威意識が消えないくだらない同級生に辟易したものだ。


 貴族の意識が消えない同級生。 

 こちらの身分(・・・・・・)に気付き(・・・・)、へりくだってくる同級生。


 鬱陶しい上に、くだらない。

 いったい何のためにこの学院に来ているのか、彼らは。


 せっかくの最高の環境を、何だと思っているのか。

 貴族様ごっこがしたいがために、わざわざ遠い他国の学院にまで来た訳じゃないのだ。


 そうして、胸中で失望していたものだったが……この二人と出会ってからは、なかなかに楽しい日々を送れている。


 打てば響くような返答をしてくれる、気の良いユウハ。

 色々ぶっ飛んでいて、常識が通用しないシイカ。


 良い意味で、遠慮のない二人である。


 彼らがいてくれたおかげで、自身は、普通の生徒としてようやく過ごせるようになったのだ。


「――じゃあ、次は私が、ユウハの相手してあげる」


「えっ、待て、おわっ、ちょっ――おわぁ!?」


 と、数度の打ち合いの後、シイカの尻尾に足を掴まれ、逆さまに吊り上げられるユウハ。


 何とも言えない表情で、ぷらーんぷらーんとされている彼を見て、カルヴァンは腹を抱えて笑った。


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― 新着の感想 ―
[一言] セイバーはビームを撃つものw いつ「目の良さが命取りだ!」と言われるかと心配w
[良い点] 王族ゆえの窮屈さから縁遠い二人がてぇてぇのね。 胡散臭い顔は腹芸必須の陰謀渦巻く王公貴族生活で染み付いたんやろなぁ。 [一言] どうせなら頭マルカジリして身体ぷらぁ~んして差し上げたら良か…
[一言] シイカってどっかの超弩級重雷装航空巡洋戦艦レベルでヤバいじゃん
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