表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/148

閑話:料理

流れをぶった切って閑話を投入。

書きたくなっちゃったので。


 ――とある日の授業終わり。


 俺達は、部屋でのんびりしていた。


 俺は、魔法の訓練をしたり、図書館で借りてきた本を読んだり。

 シイカはゴロゴロしたり、長風呂したり、俺に尻尾を絡ませてきたり。

 華焔は、基本的には何も言わず、好きな時に俺を吸い付かせ、魔力をチュウチュウと吸い。


 そうして各々が好きに過ごしていると、ベッドに寝転がっていたシイカが、身体を起こす。


「そうそう。聞いて、ユウハ」


「おう、どうした」


「私は、進化する女なの」


「そうか。進化というと、その内尻尾が二本になったりするのか?」


「ん、いいわね。ゆくゆくは三本になって、今より三倍ごはんが食べられるようになりたいわ」


「おう、三本か。食費も三倍になって大変そうだな。それで絡まれたら俺、身動き取れなくなりそうだわ」


「それは素晴らしいわ。尻尾、三本ほしいわね。よし、今日から、尻尾を増やす努力をすることにするわ」


「そうか、頑張れ。ただ同居人として一つ言わせてもらうと、その努力は無駄になるような気がするから、やらんでいいと思うぞ」


「そう。ならやめとくわ。残念ね」


 テキトーな会話がひと段落したところで、シイカはごろんとベッドに転がり――が、フルフルと首を横に振って、身体を起こす。


「いいえ、違うの。聞いて」


「尻尾を三本にする努力か?」


「違うわ。私は、進化する女なの」


「おう、まずは二本になるところからだもんな」


「…………」


「いてっ、いてっ、わかったわかった、悪かったって! ちゃんと聞くから! で、何だ、何に進化するんだ?」


 するとシイカは、パシパシと俺を叩くのをやめ、薄い胸を張って、言った。


「えっへん。私、料理を覚えたの」


「……ほぉ! そうか」


 それは、良いことだ。


 うん、文句なく良いことだ。


「ゴード料理長に教わったのか?」


「ん。おいしいものが自分で作れたら、良いと思って。今日は、その成果を見てもらうわ!」


「おぉ……」


 あのシイカが、立派になって。


 同居人として、嬉しい限りである。


「そういうことなら、協力しよう。野菜洗ったりとか、切ったりとかするぞ。食材はどうする? 今から食堂で貰ってくるか?」


 全然使っていないが、この部屋にはキッチンがある。

 小さめで狭いのは確かなものの、道具は一通り揃えられており、火も使えるし水も使える。


 食材等も、流石に多くは無理だが、言えば人数分を渡してくれるようになっているのだ。


 改めてだが、この学院は相当に融通が利くようになってるな。

 貴族とかが多いから、というのもあるのだろうが……そういう面で苦労はさせないという、ミアラちゃんの意思も感じられる。


 ちなみに売店もある訳なので、そちらなら何の制限もなく食材類が買えるのだが、我々は完全なる無一文であるため売店利用は不可能である。


 そう言えば俺、まだこちらの世界の通貨も知らんわ。実物を見たことすらない。


 それでも、完全に衣食住が満たされ、しかも世界最高峰らしい授業を受けられるとあっては、ミアラちゃんには頭が上がらないばかりだ。


 俺が有する謎の魔力の研究、というのはあるが、十分以上な対価を貰っていることは間違いないだろう。


「いえ、私がすべてやるわ。食材も、もう用意してあるの」


 そう言ってシイカは、備え付けの小さな冷蔵庫を開ける。


 中には、一通りの野菜類と肉類が入っていた。


 いつの間に。


「おぉ……用意がいいな」


「だから、ユウハは、後ろで見てて」


「そうか? ……じゃあ、お言葉に甘えて」


 俺が勉強机の椅子に腰を下ろすと、シイカは張り切ってキッチンに立ち、調理を開始する。


 冷蔵庫から出した野菜を洗い、同時並行で尻尾が包丁を咥え、トントンと切っていく。


 やはり超器用である。

 そして丁寧である。


 普段の残念さ具合から、何となくドジっ子属性でもありそうなものだが、全然そんなことはなく良い手つきだ。

 とても、最近料理を学んだ、という様子ではない。


 森で魔物を捌いてた時もそうだったが、コイツは元々、手先と、あと尻尾先が器用なのだろう。


 それに、コイツは食べることが大好きだしな。

 料理をする、という上でそれは、これ以上ないモチベーションになることだろう。


 そうして、意外と料理の才能があったらしいシイカの調理の様子を、安心して横から見守り――やがて、完成する。


 出来上がったのは、ステーキと、簡単な根菜のサラダ。


 食欲をそそる良い香りが充満し、俺の空きっ腹を刺激する。


「うわ、美味そう!」


「ん、上手く出来て良かった。はい、ふぉーくとないふ」


「おう、サンキュー! ――よし、いただきます!」


「いただきます」


 俺の後に、シイカもまた同じように言い、両手を合わせる。


 俺が「いただきます」と言っていたら、シイカもまた真似して食事時にはそう言うようになっている。良いことだ。


 肉を切り分け、ジュワァ、と肉汁が溢れ出るステーキの一切れを口に運び――ん、美味い!


「シイカ、美味いぞ!」


「ん。良かった」


 手放しの称賛に、嬉しそうにするシイカ。


 今回のこれが、そんなに複雑な料理じゃないことは確かだ。


 切って、焼くだけ。


 しかし、しっかりと美味いのだ。

 味付けは薄過ぎず、濃過ぎずのちょうど良い具合で、焼き加減も絶妙である。


 肉を焼いたりするのは、森でもしていたし、その点に関して言うとシイカは慣れているのだろう。


 ……こうなってくると、米が食いたいな。米が。


 こっちの主食はパンなので、まだ見ていないのだが、ないだろうか、米。

 流通とかもしっかりしてるっぽいし、どっかの国のが入ってきてないだろうか。


 ゴード料理長に聞いてみるとしよう。


 こういう時に米が食いたくなる辺り、自分も元日本人だと実感するな。


「フゥ……ご馳走様! シイカ、マジで美味かったぞ」


「喜んでくれたなら良かったわ。……でも、ちょっと量が足りないわ。もうちょっと焼けば良かった」


 俺より先にステーキを平らげていたシイカは、物足りなそうな顔でそう言う。


「……よし、なら次は、俺が作ろう!」


「ユウハが?」


「おう、今回は美味いのをシイカが作ってくれたからな。そのお返しだ」

 

 そう言って俺は、キッチンに立つ。


 残っているのは……レタス等の野菜に、豚肉だな。


「シイカ、肉が続くけどいいか?」


「お肉はどれだけでも食べられるけれど」


 なら、この豚肉使うか。


 俺の方はもうお腹いっぱいなので、シイカ一人分を作るとして……よし。


 何を作るか決めた俺は、調理を開始する。


 野菜類を洗い、切り、湯を沸騰させ――ここまでやって気付いたが、俺、料理は普通に出来るっぽいな。


 記憶が曖昧ではあるが、作ろうと思う料理はすぐに頭に思い浮かんだし、その調理も、特につっかえることもなく出来ている。


 多分俺は、それなりの頻度で料理をしていたのだろう。

 親が忙しかったりしたのか、それとも一人暮らしをしていたのか。


 うーん……そこの部分は全然覚えていないが、まあ、役に立つ技能が俺にあるのならば、喜ばしいばかりだ。


 そして、三十分くらいで俺が作ったのは――冷しゃぶ。


 ガラス瓶に入っていたドレッシングがあったので、それを振りかけて完成だ。


 このドレッシングも、前世のものとそん色ないくらい味がちゃんとしており、悪くない。

 こういう細かいところで、この世界の文明力の高さを感じるものである。


「さぁ、出来たぞ、シイカ! 全部お前の分だから、遠慮せず食ってくれ」


 すると、何故かちょっと複雑そうな表情になるシイカ。


「むぅ……」


「? どうした?」


「いえ……いただくわ」


 我が同居人は、フォークで刺し、一口分を口に運び――そして、何故か俺をパシパシと叩き始める。


「…………」


「いてっ、いてっ、な、何だよ、美味くなかったか?」


「……いいえ。とってもとっても美味しかったわ」


「そ、それにしてはシイカさん、不機嫌そうですが」


「……私が、ユウハにごはんを作ってあげて、喜んでほしかったのに」


 ちょっとぶすっとした表情で、そんなことを言うシイカ。


 ……そうか。


 考えてみれば、シイカは頑張って料理を覚えて、それで俺に振る舞ってくれたんだよな。

 にもかかわらず、俺の方も普通に料理が出来て、逆に振る舞われた、と


 …………。


「……れ、冷しゃぶは簡単だから、手順を覚えればシイカもすぐ作れるようになるから! そ、それに、肉を焼いたりするのは、絶対シイカの方が上手いぞ!」


「…………」


「だから、今日のこの感触からして、シイカさんがもうちょっと慣れたら、俺なんか比べものにならないくらい料理が上手くなるんだろうなー! あぁ、同居人の料理がもっと上手くなったら、きっと最高だぜ! 今日のも超美味しかったし、わざわざ作ってくれてすげー嬉しかったし!」


「……ほんと?」


「ホントもホント、超ホントだ。ありがとうな、シイカ。これからのお前の料理が、メチャクチャ楽しみだ!」


「……なら、いいわ。これから、ユウハのごはん、時々でも作ってあげる」


 必死に捲し立てた結果、シイカは機嫌を直してくれたようで、フフン、と上機嫌そうに尻尾を揺らす。


 フゥ……セーフ。


 思わず安堵の息を漏らしていると、何となく、壁に立て掛けた華焔から感じる視線。


「……何だよ、華焔。言いたいことがあるなら言えよ」


 俺の言葉に、だが華焔は黙して語らず。


 プイ、と俺から意識を逸らし、黙ったままなのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] やっぱり、華焔の人格は女性だな?
[一言] シィカが可愛くて生きるのが辛い!
[一言] 可愛いだけでも強いのに、料理もできるとか最強か? 日常が本当に素敵で大好き。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ