ミアラちゃんとルーヴァ先輩
遅くなりました!
前回のあらすじ:学院祭が開始し、性別不詳エルフのルーヴァが襲来。
「――あぁ、君は、魔法杯でユウハ君達と勝負してた子だね! 遅延術式や感応術式の使い方が見事で、設置型の魔法を上手に使いこなせていたから、よく記憶に残ってるよ」
「あ、ありがとうございます! ミアラ様にそう言っていただけるなんて、本当に嬉しいです……!」
あれだけ快活なルーヴァ先輩が、若干の緊張と、それ以上の興奮の様子で、そう話す。
その相手は、ミアラちゃん。
屋台の接客の交代で、ミアラちゃん、アリア先輩、オルガ先輩がやって来たのだが、その時いらっしゃいませマシーンとなって、俺達の接客を手伝ってくれていたルーヴァ先輩を見て「あれ、見慣れない子だね」という会話になり……こんな感じだ。
つい忘れそうになるが、やはりミアラちゃんが、この世界において相当な偉人なのだということが、ルーヴァ先輩の反応からよく窺える。
「シャリア様からは、今回の機会にエルランシアの学院を見て来なさいと言われてまして、お邪魔させていただいてます!」
「そうかいそうかい。シャリアちゃんが見出した子なら、本当に才能があるんだろうね。先の成長が楽しみだよ」
「ウチの怠け者エルフとは違うってことねぇ」
「へぇ、そんなエルフがいるんですかい」
「今、私の隣にね」
アリア先輩とオルガ先輩のやり取りを聞き、ルーヴァ先輩が苦笑を溢す。
「あー……僕も、知ってますよ。オルガ先輩、エルフじゃ有名ですし」
「ルーヴァ先輩、この人のこと知ってるんです?」
俺の問い掛けに、頷く。
「エルフって、元々そんなに大きなコミュニティじゃないからね。他種族と比べて寿命が長い分、何とか人口が確保出来てるけど、その分同年代のエルフってなると、グッと少なくなるんだよ」
「へぇ……それで、オルガ先輩のことも?」
「うん。同年代の中じゃあ、恐らくトップクラスに優秀なのに、あまりにもやる気が無さ過ぎて、エルフィン法国学院じゃなくて外に出されたエルフがいるって。どれだけ能力があっても、意志が欠如していたらダメだっていう良い例だって、反面教師的に名前が伝わってるんだ」
「いやぁ、僕も有名になったもので、嬉し――くはないな、別に。面倒くさそう」
「オルガ先輩、俺、ここまで来ると、逆に尊敬しますよ。先輩のこと」
何というダメな方面に名前が広まっている人なんだ。
そして、それを本人が何とも思っていないという胆の据わり方。
すげぇぜ。尊敬する。毛程も羨ましくないのが。
ある意味すごいオルガ先輩に、俺達は苦笑を溢し、それから気を取り直したようにミアラちゃんが口を開く。
「ま、とにかく、是非楽しんでくれると、私も嬉しいよ。その様子だと、これからユウハ君達と一緒に回るのかな?」
「はい、この子達の好意で、案内してくれることになりまして!」
「なるほどねぇ。ちょうど交代の時間だし、今からいっぱい、みんなで見て来なさい」
「ミアラちゃん、アリア先輩、オルガ先輩、あとはお願いします」
「はーい、任せて!」
「色々面白いものがあるから、楽しんできなさい!」
「うーん、面倒くさい」
そうして俺達は、三人と交代し、屋台を後にした。
「いやぁ……やっぱりすごいね、この学院。こんな簡単にミアラ様と出会えるなんて、思ってなかったよ!」
「そう? ミアラちゃんは、意外とすぐに会えるわ」
「そりゃあ、俺達はな」
「二人とも、言っておきますが、基本的にはこの学院の方でも、学院長様には会えないんですからね。私達は授業があるから、週二では確実に会いますけど」
本来は超レアキャラなはずなのに、あまりに普通に会えるので、俺達だとミアラちゃんのネームバリューを感じにくいんだよな。
「君達があの方の授業を取ってるっていうのもすごいけど、何より『ミアラちゃん』って呼んでることがすごいね」
「それは本人の望みなので。ルーヴァ先輩も気軽にミアラちゃんって呼べば、多分あの人、嬉しそうな顔しますよ」
「それは……ハードルが高いねぇ」
まあ、そうかもしれないが。
――それにしても、すごい人の数だ。
元々、この学院は生徒の他にも兵士や職員などで、敷地の規模に相応しいだけの人がいるのだが、今日の混雑さはやはりすごい。
俺達の屋台が、中庭のちょっと奥まったところにあったので感じにくかったが、この学院の注目され具合がよくわかる。
ただの学生がやるお祭りだからな、これ。
これでも人数制限はしているそうだが、気を付けていないと肩がぶつかりそうになる程で、また物珍しそうに学院を見ている観光客達が、至るところに見られる。
俺達ですら、未だ学院の設備には驚くのだ。気持ちはよくわかる。
なんてことを思っていた時、俺達を呼ぶ声。
「お前様方、こっちー。――ん? いつかのエルフ」
「しらないひと」
「クルル」
俺達を呼ぶのは、華焔とルーと、そしてギンラ。
二人と一匹はこちらにやって来ると、ギンラはそのまま俺の肩に乗っかってくる。
「君は……魔法杯でもいた子だね! 確か、カエンちゃん、だったかな? で、そっちの小さい子は、初めまして。僕はルーヴァだよ。名前を聞いてもいいかな?」
「るーは、るー」
「ルーちゃんか。よろしくね! あと、そこの龍君は……もしかして、ユウハ君のペット?」
「クルル!」
抗議するように鳴くギンラ。
「ペットって言うと怒るんすよ、コイツ。名前はギンラです」
「へぇ……それは失礼したね、ギンラ君! この飴あげるから許して! あ、ルーちゃんにもあげる」
「ありがと」
「……クルル」
飴を貰って嬉しそうに笑みを浮かべるルーと、「……しょうがないな」と言いたげな様子で同じく貰うギンラ。
と、俺の視線に気付いて、こちらを見るギンラ。
「……クルル」
「いやいや、何にも言ってないじゃないですか、ギンラ君」
コイツ、意外と……とか思ってないですよ。
「それにしても、お前様よ。何じゃ、その耳は。シェナに媚びるのか?」
「媚びるって。これはミアラちゃんが用意してくれたんだ。ほら、シイカとフィオ、朝と違う恰好してるだろ? この服、ミアラちゃんが用意したらしいんだけど、男のはないから、代わりにって」
「ゆーはにぃ、よくにあってる。でも、きつねのみみの方が、いい」
「はは、そうだな。狐耳があったら、次からはそれにするよ」
ポンポンと撫でてやると、狐尻尾をフリフリと振り、嬉しそうにするルー。可愛い。
「ふむ、ユウハ君は、小さい子に甘い、と。まあルーちゃん可愛いから仕方ないね!」
「ルーヴァ、それは違うわ。ユウハは、小さい子だけじゃなくて、女の子相手だと基本的にこんな感じよ」
「……そうですね。そういう人ではありますね」
「あー、そうじゃな。我が主様は、そういう男ではあるの」
「お前ら、ルーヴァ先輩が誤解するような物言いはやめようじゃないか。俺は誰にだって優しい紳士なのさ」
「でもユウハ、男友達相手だと、結構テキトーよ」
「いやそりゃ、男友達だからな。女性陣との対応とは大分変わるさ」
「じゃあユウハ君、僕は?」
「……そう言うなら性別教えてくださいよ」
「教えなーい!」
無駄に元気良くそう言うルーヴァ先輩である。
俺は、誤魔化すようにオホンと一つ咳払いしてから、華焔へと問い掛ける。
「それより華焔、お前ら色々見てたんだろ? この後、何か面白そうなのとかないか?」
「うむ、ルーが興味を持ったものが一つあっての。魔法実験をやるところがあるようで、それを見たいって」
「みたい」
「よし、じゃあそれ見るか。――あ、すいません、ルーヴァ先輩。そういう訳なんですが……いいですかね?」
「勿論! じゃあみんなで見に行こうか!」




