性別不明エルフ、来襲
ゴツいガタいの、カルの親戚の叔父さんが去って行った後。
ポツポツとお客さんが増え始め、忙しいという程ではないものの、程良く仕事をする必要があるくらいの客入りとなっている。
お客さん方は、まず店名の『ミアラちゃんの屋台』を見て「おっ」という顔になり、次にシイカを見てギョッとした顔をし、最後に「流石この学院だな……」という顔で去って行くという流れが出来つつある。
変わらずシイカは、他者からは恐れられる種であるらしい。
パッと見て「トーデス・テイル」だと理解されるくらい知名度があり、だから扱いとしては本当に、龍族とかそういう、皆が知っている最強種と同じくらいの種なのだろう。
そうして彼女と屋台を回している内に、フィオがクラスの手伝いが終え、俺達の手伝いへとやって来る。
魔法少女服のまま。
「……今、笑いませんでしたか、ユウハさん」
「いやいや、そんなまさか」
鋭い。
何だろうな。シイカも同じものを着ており、それもちゃんと似合っているのだが……フィオは似合ってるとか似合ってないとかを超えているのだ。
本物。紛うことなき本物である。
「言いたいことがあるなら言ってくださいよ。ねぇ、ユウハさん」
「可愛いぞ、その恰好」
「…………本当に言わないでくださいよ。困ります」
俺が笑うと、フィオは唇を尖らせ、そっぽを向いた。
「……ユウハさんって、こういうところありますよね」
「そうね。私もさっきやられたから、気持ちはわかるわ」
「前から思ってましたけど、この人結構……アレですよね」
「アレね」
「何だアレって」
「アレはアレです」
「アレはアレよ」
「……そ、そうか」
深く言及すると、負ける気がするので、やめておこう。
――なんて、二人と話していると、また一人、お客さんがやってくる。
「こんにちはー! それ、一つくださーい!」
学院祭のどっかで売ってるのか、なんか仮面を被った、少女か少年かわからないような声音の小柄なお客さん。
……というか、待て。
この声、覚えがあるな。
「……ルーヴァ先輩、ですか?」
「せいかーい! ちょっと前ぶり、ユウハ君! 元気そうで何より!」
仮面の下に覗いた顔は、魔法杯で二度程戦った、男性か女性かわからないエルフの知り合い。
ルーヴァ先輩だった。
「魔法杯ぶりです。相変わらず、性別不詳ですね。というか、狙ってますね、それ?」
ゆったりとした、スカートにも見えるようなズボンを履き、上も、体形がわからないようなカジュアルなシャツを身に纏っている。
すごくよく似合っているのだが、この人これ、自分が中性的に見えるのを理解して、絶対狙って着こなしてるな。
「んふふ~、その方が面白いからね! それにしても、交友期間は魔法杯だけだったのに、しっかり僕のことわかってくれるなんて、嬉しいよ! いやぁ、ちょっと照れちゃうな~!」
「先輩みたいなインパクトある人、忘れろという方が難しいと思いますよ」
「つまり、僕の存在は君の中に刻み付けられたってことだね!」
ぐっ……あ、相変わらず、強い。
「ゆ、ユウハさん……お知り合いの方、ですか? 随分、その、濃い方ですが……」
「初めまして、可愛い恰好の君! よく似合ってるね、それ!」
「……あ、ありがとうございます」
「このエルフは、ルーヴァよ。ユウハは、男の子か女の子かわからないって言ってたわ」
「え? 女の子じゃないんですか? この方。あ、フィオです。よろしくお願いします」
「よろしくね、フィオちゃん! エルフィン法国学院の二年、ルーヴァだよ!」
「いや、それがどうもわかんねぇんだ。聞いても答えてくれないし――って、その言い方だと、シイカはわかるのか? ルーヴァ先輩の性別」
「? 当たり前よ。体臭でわかるわ」
……な、なるほど、元々森の中で過ごしてきたシイカなら、確かにそういうのでわかりそうだ。
「あー! ダメダメ! シイカちゃん、教えちゃダメだからね。そういう特殊技能で判断するのはルール違反だよ!」
「そう。るーるいはん? なら、黙っておくわ」
「……ルーヴァ先輩、超気になるんですが」
「……私も気になります」
「そのまま気にし続けなさい!」
ニコニコと、楽しそうに笑うルーヴァ先輩。
……本当に、綺麗な顔で笑うから、わからないのだ。この人の性別が。
「……それで、先輩もエルフィン法国から、学院祭に遊びに来たんですか?」
「うん、そだね。あーでも、半分くらいは勉強かな? 魔法士の世界で知らない者がいない『エルランシア王立魔法学院』を、一度は見て来いって、何人かの他のエルフ達と一緒に送り出されたんだ」
「へぇ……先輩、魔法杯にも出てましたし、やっぱり優秀なんですね」
「うん、僕、天才だからね。色々期待されてるんだ」
あっけらかんと、自分でそう言い放つルーヴァ先輩。
ただ、実際そうなのだろう。魔法杯の本戦で戦った時、あの怪物のような先輩二人と張り合えてたのがこの人だからな。
――エルフの国、『エルフィン法国』。
何でも、現エルフの女王がこの学院の卒業生だそうで、その関係でミアラちゃんとかなり仲が良いらしく、で、それが理由でこの国『エルランシア王国』とも友好国として長年付き合いがあるらしい。
先輩が通ってるのは、先程言っていた通り『エルフィン法国学院』ってところだそうだが、そこも、ここでの学院生活の経験を参考にして女王が建てたそうで、今では世界に名だたる学院にまでなっているとか。
少なくとも、世界で三本指には入るであろうという話だ。
同じエルフであるオルガ先輩に、雑談がてらいつか聞いたことがある。
国許にそんな有名な学院がありながら、怠惰が過ぎて、あの人はこっちまで飛ばされてきた訳だが。
「で、うーん……」
「? どうしました?」
「いや、学院の案内、出来たら誰かにしてほしいなぁって思ったんだけど、君達、明らかに仕事中みたいだからさ」
「あ、なら……午後からなら、案内しますよ? ここの三人と、あと華焔達――ええっと、まあ他にもいますが、その時俺達もゆっくり見て回るつもりだったので。いいよな、お前ら?」
「私は別にいいわ」
「私もいいですよ。エルフィン法国学院のお話、実は聞いてみたいって前から思ってたんです」
「……ホント? 何だかお願いしちゃったみたいで悪いけど、ありがとう、君達! いいよいいよ、何でも話したげる。よーし、なら僕も、今から君達の仕事を手伝って、横で笑顔で『いらっしゃいませー!』って愛想良く言うマシーンになってあげる!」
「え、あー……わかりました、お願いします。じゃあマシーン先輩、こちらにどうぞ」
「はい! いらっしゃいませー!」
「うわマシーンだ」
「……なるほど、どういう性格の方か、大体わかってきましたね」
「ルーヴァは結構愉快よ」
変人なのは間違いないな。
少しの間、投稿頻度落ちます! 具体的には今月いっぱい更新遅くなります! ごめんね!




