辺境の街、リディア《2》
「それにしても……ユウハはすごいね」
「? 何だ、急に」
町の様子を、あちこち見ながら三人で歩いていると、ふとエルヴィーラがそう言った。
ここはヒト種の国なので、学院とは違って人間の数が多いが、それでも他人種の姿がちらほらと見られる。
観光客か、住んでいるのかはわからないが、多分この世界において人種の違いというのは、前世における『日本人』だとか『アメリカ人』だとか、そういう違いと似たようなものなのだろう、きっと。
「だって君、どんな種族の子とも、どんな階級の子とも、仲良くしてるでしょ? 学院長様と楽しそうに話してる姿なんかも、見たことあるし。もう一種の才能だよね、それ。シイカと一緒にいる時の様子見てたらよくわかるけど」
コイツは……まあ、コイツとはそれなりに仲良くやってるように見えるかもしれないが、例外なので。
あと、ミアラちゃんは俺がどうのというより、あの人が気さくなのだ。肩書がデカいせいで、普通に話す機会が少なく、そのせいで知らんのかもしれんが。
「それは、エルだって同じじゃないか? ウチのクラスだと中心人物だって、お前のこと思ってたんだが」
「んーとね、正直に言っちゃうと、結構気を遣ってる。ほら、私、地味子ちゃんだからさ。加えて平民なんだけど、そうなるともう、ちょっと気後れしちゃって。君からそう見えてないんだったら、気を遣ってる甲斐があったってものだけど」
……なるほど。
普通にしてるように見えたが、それはそういう風に振る舞ってただけなのか。
そう言われると、確かに俺は身分とか一切関係なく普通にしてるように見えるのかもしれないが……まあ、俺がよくつるんでる友人連中に関して言えば、そういうのを気にするだけ無駄だしな。
「とりあえず一つ言っておくが、俺はお前を見て地味って思ったことは一度もないぞ。お前が地味ならこの世の大半の存在は地味だし、俺なんか埋もれるわ」
「……そ、そう? ありがと」
少し照れたような顔をするエルヴィーラ。なかなか自己評価の低い奴である。
「オホン、それより! 何か秘訣でもあるの? 誰とでも仲良くなれるような」
「あー、秘訣っつわれてもなぁ……」
あと、ぶっちゃけると別に、俺そんな交友関係広くないので。
一部突出した変なのと知り合いであるだけで。
と、その問いに答えたのは、俺ではなくシイカ。
「ユウハは、相手そのものを見て、それ以上は別に気にしないわ。だから、相手が年上でも、年下でも、偉い人でも、そういうのはただの情報で、見てないの」
「ちょっと、おい、その説明だと俺、すごい失礼な奴みたいだろ」
「一面では……その通りね!」
「何頷いてんだ。違うからな、エル。俺だってちゃんと、相手の立場によって話し方も考えるからな」
「うーん、何となくシイカの言うことの方が正しそうなんだよね~」
「おっと、コイツよりも俺の言葉の方が信用ならないと申すか」
「そうかも」
「エル、私と友達になりましょう」
「フフ、うん、勿論。よろしくね」
「…………」
結託した二人に、何も言えない俺である。
意外とこういう時、シイカは社交的なのである。
まあ、人見知りとかする性質じゃないしな、コイツ。
「いやぁ、何か安心出来るね。ユウハは。普通の同級生の男の子って感じで」
「そりゃどーも。俺は同じことをエルに思ってたけどな」
「エル、私は?」
「シイカはメッチャ可愛い」
「そう? ありがとう。ユウハ、エルは良い子だわ」
「はいはい。お前はとんでもない美少女だよ」
「……エル、気を付けて。ユウハは、こういうところあるから」
「なるほど、実は女の子を転がすのが上手い、と」
「お前ら酷くないか?」
あとエルさん、その物言いは多大なる誤解を生む気がするので、やめてくれませんか。
◇ ◇ ◇
何か知らんがすぐに仲良くなり、ワイワイと楽しそうな二人の隣を歩き、街を進んでいく。
人当たりの良いエルヴィーラと、物怖じも人見知りもしないシイカというペアは、どうやら相性が良かったらしく、二人で色々と話している。
で、その横で俺は、口を挟まず、大人しく付いて行くだけである。時折相槌を打つくらいだ。
まあ、いいさ。
シイカに新たな友人が出来たようで良かったよ。ホントにさ。
「ん、あったあった! あそこだね。私も店自体は初めて来たから、ちゃんと着いて一安心だよ」
やがて辿り着いたのは、今日の目的の、学院と提携しているという店。
大通りの一等地っぽいところにあり、人の出入りの多さから繁盛しているらしいことがよく窺える。
異世界っぽく、魔法が用いられているらしい展示物も幾つか見えるのだが、どことなくスーパーを思い起こさせるような造りで、何だか安心感がある。
こういう店は、異世界だろうとレイアウトがそう違ったりすることもないらしい。
へぇ……いいな、面白そうだ。
やっぱ買い出し班にして正解だったぜ。
――なんて、そんなことを思っていた時だった。
暴走した馬車が、こちらに向かって突っ込んで来たのは。