お料理教室《4》
ホントや、普通に花火打ってたわ。
感想いつもありがとう、ありがとう! 本当に助かってます。
読者さんの感想の一つ一つが、いったいどれだけ嬉しいことか。
「――よし、出来たわ!」
満足そうな声を溢すのは、アリア先輩。
うんうんと頷いている彼女の前にあるのは、アツアツの湯気を出している、何とか形になった料理。
「……お疲れ様です。これで一品ちゃんと作れましたね」
「えぇ! 私も料理の何たるかが、ちょっとわかったような気がするわ!」
フフンと得意げな顔のアリア先輩を見て、シェナ先輩が微妙そうな顔で口を開く。
「……まあ、アンタが頑張ったのは本当だから、そこは素直にお疲れ様って感じだけど……友人として、完全なる善意から、言っておく。料理は他の子達に任せな」
「えぇ? 私、これで頑張れると思ったのだけれど」
アリア先輩の言葉を受け、次に口を開いたのは、フィオ。
「あー、えっと……ほ、ほら、屋台は売り子も必要ですから! 役割分担は重要ですよ!」
……これは、俺も乗っかっておくべきだろう。
「……アリア先輩は生徒会長ですし、顔が広いでしょうから、売り子に専念してくれた方が、売り上げ自体もきっと伸びると思うんですよ。そ、それに、今からしっかり料理を覚えるとなると、先輩も大変でしょうから。そっちは、ちょっとずつ学んでいきましょう、ちょっとずつ」
「うーん、ま、後輩がそう言うなら仕方ないわね! 私の方が下手なのは確かだし。でも、手伝いが必要になったら言ってね、私もやるわ!」
自分で料理を作ることが出来て機嫌が良いのか、鼻歌でも歌い出しそうな様子で、アリア先輩はそう言った。
――ここまで辿り着くのは、なかなか大変だった。
フィオは、良かった。
夏休み、シイカとフィオが二人で作っていた料理を食べたこともあるので、普通に料理が出来ることは知っていたのだが、見ていても手際が良かった。
ちょっと慣れていないくらいだろうか。
ルーも、まあ大丈夫だった。
やはり幼いので、色んなところでたどたどしい感じはあったが、それでも一生懸命に頑張っており、皆もそれとなく様子を気にしていたので、特に失敗することもなく料理をやり遂げることが出来た。
……問題は、やはりアリア先輩である。
正直に言おう。
料理、ただ下手ではなく、超下手であった、と。
包丁を握れば指を切りかけ、フライパンに火を点けたら魔力の扱いを失敗して焦がしかけ、味付けは適量の倍以上をぶっ込みかけ。
いつもは非常に頼りになる先輩が、ものの見事にポンコツと化していたのだ。
なるほど、アリア先輩をよく知っているシェナ先輩が、何かと微妙そうな表情をしていた訳である。
やはり料理の経験が全くなかったからか、例えば『これくらいの火加減なら焦げない』とか、『これくらいの量の調味料なら辛くない』とか、そういう基準も一切知らないようで、だから大体の調理過程が極端になってしまっていたのだ。
いや、それを抜きにしても、手際自体もすごい悪かったんだけどな。ルーと比較しても、下手だったように思う。
これでいて、魔法の扱いとなるとどれだけ繊細なものでも自在に扱えるという話だから、よくわからない。
やっぱり人って、得手不得手があるんだなと、実感した瞬間である。
……ただ、今回に関して言えば、シイカがぶっちゃけ、教え下手だったのもあるかもな。
感覚で生きているからかわからんが、「これは~……ふわっとするくらい」だとか、「良い匂いがするまで」とか、そんな指示ばっかりだったのだ、アイツ。
途中から俺の仕事の内容に、シイカの感覚を言語化して翻訳する、というのが追加されたくらいである。
なお、ルーだけはシイカの感覚指示でも普通に上手くやることが出来ており、「? ルーが出来てるんだから、みんなも大丈夫でしょ?」と、奴の誤解が増した感がある。
ルーはどうやら、シイカタイプだったらしい。
ま、まあ、とにかく無事に、お料理教室自体は終わった訳だ。
もうお昼も過ぎてしまい、流石に俺も腹減ったので、すぐに食べる準備を――と、そこで俺は、ソファに横たわり、目を閉じて動かなくなっている華焔を発見する。
だらんと垂れ下がった彼女の腕を取り、その脈を確認し……。
「……し、死んでる!」
「死んでないわ、阿呆! 全く、いつまで待たせるつもりじゃ! 本当に餓死するかと思うたわ!」
死体、もとい華焔は蘇生したようで、がばりと起き上がった。
「ちょくちょく俺の魔力吸ってたから、実際そんな腹減ってないだろ」
「主様方が儂の分も作ってくれておったから、ちゃんと食べられるように、吸うのはちょっとだけにしておったのー! 全く、腹と背中がくっ付くかと思うたわ」
あ、そうだったのか。
律儀な奴である。
「俺、お前のその律儀さ、嫌いじゃないぜ」
「世辞は良いからはーやーくー! ギンラなぞ、もう冬眠しそうになっておるぞ」
「クルル……」
見るとギンラは、窓から入ってくる温かな陽射しで眠気が出て来たのか、丸くなって半分寝かけていた。
「……ギンラ、最近俺は、お前が猫に見える」
狼っぽい面構えのクセに。
「ユウハ君は、猫は好き?」
「え? はい、好きっすね。動物の中だと一番好きかもしれないです」
唐突な問い掛けにそう答えると、アリア先輩はニヤリと笑みを浮かべ、シェナ先輩を見る。
「そう、良かったわね、シェナ」
「……私は猫獣人であって、猫じゃないし」
一瞬シェナ先輩と目が合うが、少しだけ頬を赤くし、つい、と視線を逸らされる。
相変わらず可愛い人だな。
「むぅ、ゆーはにぃ、きつねは?」
「勿論、狐も好きさ。猫と同じくらい」
そう言ってポンポンと頭を撫でてやると、「んふー」と満足そうにするルー。可愛い。
「……私も、尻尾とか耳とかあったら良かったんですが」
「? フィオには、立派な角があるじゃない」
「ま、まあ、そうなんですが……え、えーっと……じゃ、じゃあユウハさん! 羊角はどうですか、羊角は」
「ひ、羊角? お、おう、勿論それも良いと思うぜ。カッコ良くて、可愛くも見えて」
「……そうですか。なら良かったです」
ふふ、と微笑むフィオ。
見ていると、少しドキッとしそうになる表情である。
「じゃあユウハ、私の尻尾は?」
「最強」
「……むぅ、もうちょっと考えて」
「えっ、だって、最強は最強だし」
色んな意味でな。
俺はお前の尻尾以上に、こう、強い奴を知らん。
「いつまで話しておるんじゃ、お主ら! 早く飯ー!」
――そうして俺達は、お料理教室を終え、少し遅めの昼食を皆で楽しんだのだった。
なお、アリア先輩の料理も、一応ちゃんと食べられる出来にはなっており、そのせいで無駄に自信を高めてしまったようで、「どうよ、やっぱり私も作る側に回るわ!」と言っていたのが、ちょっと困った。
諦めてください。




