お料理教室《3》
――翌日、昼前。
前日の約束通り、お料理教室をやるべく、俺達はミアラちゃんの研究室へとやって来ていた。
部屋の主たるミアラちゃんはいないのだが、アリア先輩が昨日の内に鍵を借りておいてくれたらしい。
研究室でお料理教室というのも変な話だが、実際一通りの器具は揃っているし、集まった人数も多いので、丁度良い場所ではあるのだ、ここ。
メンバーは、昨日話した俺、シイカ、アリア先輩、シェナ先輩に加え、華焔にギンラ、そしてフィオとルーである。
なお、フィオとルーは一緒に料理を勉強するつもりのようなのだが、華焔とギンラは完全な試食係として来たようで、まず華焔がソファにゴロンと転がり、足をパタパタさせながら、気の抜けたような声で「お腹空いたー。ごはーん。それか血をよこせー」と溢し、ギンラも同じような感じで「クルル」と鳴いて飯を催促している。
お前らな。いや、いいんだけどさ。
刀とペットに手伝いを要求する方が、おかしいのは確かだし。
「おりょーり、ルーも、できるようになりたい」
「そうですね、一緒に頑張りましょうか、ルーちゃん」
「ん、がんばる」
むん、と両手に拳を作って気合いを入れてみせるルーに、微笑ましそうにそう話すフィオ。
なんか可愛い組み合わせだな、フィオとルー。
「いやぁ、ルーちゃん、本当に可愛いですね! 私、一人っ子だったので、ルーちゃんみたいな妹が欲しかったんですよ」
「はは、気持ちはわかるぜ、フィオ。……そういや、先輩方って兄妹いるんですか?」
「私は兄が一人と妹が二人いるわね。下の子達は、二人とも来年この学院入るつもりで勉強頑張ってて、多分学院祭にも来るだろうから、その時はユウハ君達にも紹介するわね」
「私の方は弟が一人かな。アリアの妹と同じ年代なんだけど、学院に来るかはわかんないし、学院祭に来るかもわかんないから、紹介する機会はなさそうかな。ここ、ウチからすっごい遠いし」
へぇ、二人とも兄妹はいるのか。
大分、しっくり来るな。
色々気が合うように見える二人だが、それが理由の一つでもあるのかもしれない。
「ユウハさんは、ご兄弟は?」
「ん、あぁ、俺も一人だ。上も下も……いないな」
魂に情報が刻まれていないので、前世でもいないだろう。
「ユウハ、私はどうなのかしら?」
「お前が知らなかったら俺は知らん。あー、お前も一人なんじゃないか?」
「むぅ、もっとちゃんと考えて」
不満そうに頬を膨らませるシイカ。
いや、考えてと言われても。
兄妹がいるかどうかは事実があるだけで、考えたりするもんじゃないだろ。
と、ルーが、俺達を見ながら楽しそうに口を開く。
「ルーも、ひとり。だから、みんなといると、楽しい!」
「フフ、そうね、ルーちゃん。今日のお料理会が終わっても、また何か、一緒に集まって遊びましょうか」
「ん!」
嬉しそうにするルーの頭を、アリア先輩はポンポンと撫でた。
◇ ◇ ◇
――そうして始まった、お料理教室。
先生役は、シイカ。
その補佐に俺とシェナ先輩といった感じだ。
今ではもう、俺とは比べものにならないくらいシイカの方が上手いからな、料理。
俺のアドバンテージと言えば、シイカの知らない料理を知ってるくらいか。
つっても、俺もこっちの料理は知らないし、シイカはそれらも学びつつあるので、どっこいどっこいなのだが。
「じゃあ、始めましょうか。あまり遅くなると、カエンが餓死してしまいそうだし」
「そうじゃぞー。儂を餓死させるなー」
「本来飯を必要としないはずの奴が何か言ってますが、アレは無視していいっすからね、みんな」
「何じゃとー! お前様は、儂の主様じゃろう! 主たるならば、自らの剣の日々の面倒くらいちゃんと見んかー!」
「わっ、ったく……わかったわかった、じゃあそのまま俺の魔力でも吸ってろ」
「クルル!」
「はいはい、お前も好きにしろ」
「……なら、私も」
「シイカは後にしろ。話が進まんから」
纏わり付いて魔力を吸ってくる華焔とギンラを見て、ちょっと羨ましそうにするシイカ。
「フフ、相変わらずユウハ君、モテモテねぇ」
「それ、『食料として』っつー但し書きが付くんで、別に嬉しくないです」
「ほら、みんな、本当にご飯遅くなっちゃうから、早く作るわよ。ただでさえ、お荷物が一人いるんだから」
「はい! お荷物です!」
「自信満々に言わない」
もう何か潔いアリア先輩に、苦笑を溢すシェナ先輩。
「じゃあ、フィオとルーは、知ってるから……アリアは、何が出来る?」
「はい、シイカ先生! 辛うじて、切れます!」
シイカの問い掛けに、そう元気良く答えるアリア先輩。
「ん、なら、みんなで野菜を切るところからやりましょう」
「「「はーい」」」
シイカの言葉に、フィオとルーとアリア先輩が同時に返事をする。
と、俺の横でボソッと呟くシェナ先輩。
「……個人的にはアリアに包丁持たせたくないんだけどね。手、切りそうで見てて怖い」
「慣れてないと、包丁とか握らせるところから怖いっすもんね」
俺の言葉に、だがシェナ先輩はちょっと困ったような、言葉に悩むような様子で口を開く。
「んー、というかね、アリアの場合味付けとかにも同じことが言えるんだけど、細かいところを気にしないのよ、この子。まあ、包丁の握り方もやっぱり危なっかしいんだけど」
「……全体的に大雑把と」
「実はズボラだからね。良く言って大胆、悪く言って大雑把って性格だから、そういう面でも、まあ、その……うんって感じ」
「あぁ……」
料理自体向いてないと。
その俺達の会話を聞き、一つ納得したような顔をするシイカ。
「なるほど、理解したわ。アリアはカエンタイプなのね。ちょっとテキトーなタイプ」
「むっ、むむう……否定したいところだけど、甘んじてその評価を受け入れましょう」
「おっと、何だか流れ弾が飛んで来たような気がするんじゃが?」
「反論は出来ないけどな、お前」
「いや、一つならば反論出来るぞ! 儂は斬ることなら得意じゃ! 特に生物なら、どんな相手でも綺麗に肉を断ち、骨を断ち、解体してみせよう! 臓物ごとに分けてやるぞ!」
「華焔、俺の魔力吸ってていいから、もう黙ってなさい」
「はーい」
お料理教室の第三話(なおまだ一品も料理を作っていない模様)。




