学院祭へ《3》
「それじゃあ……学院長様の意見はトリとして、次は私の意見を聞いてもらいましょうか」
フィオの次は、アリア先輩。
「と言っても、私もユウハ君とフィオちゃんと同じことを考えてて、魔法実験とかその辺りが一番楽しく出来るかなと思うの。その、申し訳ないんだけれど、私生徒会長の仕事があるから、参加出来る時間も少なくなっちゃうのよ。それで、多分学院長様も、こっちに取れる時間は少なくなっちゃうと思うの」
「そうだね、やりたいって言っておきながら、その点は私もごめんねって感じかも。偉い子達も見に来るから、どうしても私が相手をしないといけない時があるし」
「あー、なるほど。しょうがないことですが、さらに人数減っちゃうんですね」
そう言えば学院長と生徒会長だった、この人ら。
こういう時に忙しくなる筆頭二人である。
「となると、私達でもやれるものってなると、やっぱりそれらくらいかなって。だから、二人の案のどっちかで良いかなっていうのが私の意見ね」
なるほど、ほとんど俺とフィオと同じ案だと。
彼女が話し終わったところで、最後にミアラちゃんが口を開く。
「それじゃあ、最後に私の案だね。私のは、フィオちゃんの魔法実験の案に近いかな? 実験というか、お披露目というか。実は一つ、やりたいことがあるんだ。――ユウハ君、君が魔法杯で使っていた、あの色とりどりの魔法……あれ、何ていう魔法なんだい?」
突然、そう問うてくるミアラちゃん。
「え? 色とりどりと言うと……花火魔法ですか?」
いや、厳密に言えば原初魔法による花火の再現、なのだが。
「そうそう、それそれ。ユウハ君が見せてくれたの、綺麗で、派手で、とても良い魔法だと思うんだ。原初魔法で発動していると思うんだけれど、どういうイメージで発動しているのか、聞いても良いかな?」
俺は不思議に思いながらも、考えながら言葉を返す。
「ええっと……火って、実は様々な色があるじゃないですか。それは燃やすものによって変わる訳ですが、同じように溜めた魔力を幾つかに『色分け』して、それを打ち上げて散らすイメージで発動してます」
「ふむ、なるほど、炎色反応のイメージでの魔法か。となるとベースは『火』と『土』の複合と考えて……こんな感じかな?」
何事かをぶつぶつと呟いていたミアラちゃんは、ふと手のひらを見せたかと思うと、次の瞬間そこに、ビー玉サイズの小さな火球が生み出され、そしてパァンと爆ぜる。
キラキラと舞う、綺麗な火花。
――まさしくそれは、規模こそ圧倒的に小さいものの、花火であった。
「うわぁ、綺麗!」
「おー、すごいわ、ミアラちゃん」
小さな歓声をあげる、フィオとシイカ。
「……ミアラちゃんも、原初魔法使えたんですか?」
「いや、一応使えることには使えるんだけど、君達程自在には無理だよ。だからこれは、原初魔法じゃなくて術式による魔法だね」
「えっ……ってことは、この短時間で新しい術式を編み出したんですか?」
「狼煙を打ち上げる際に使う、近い形式の魔法があってね。それに、私のオリジナルじゃなくて、完成された君の魔法を一度見ているから、そう難しくはないさ」
さも当然かの如く、にこやかにそう語るミアラちゃん。
俺がアリア先輩とオルガ先輩の二人に顔を向けると、彼女らはどことなく呆れたような苦笑で、首を横に振っていた。
うん、常人どころか、この学院のエリートでも無理であると。知ってた。
「よし、ユウハ君、この魔法使わせてくれないかな? 勿論、開発者は君であると登録しておこう」
「それは全然、好きにしてもらって大丈夫ですが」
「ありがとう、嬉しいよ。――でね、学院祭の開幕式で、みんなでこれを打ち上げたいんだ。まあ、やるのがそれだけだとちょっと味気ないから、その後に何か他のをやるって感じがいいかな。どう?」
彼女の意見に、まずアリア先輩が反応を示す。
「いいですね! セレモニーとしてそれは、良い始まり方になると思います。せっかく学院長様がやりたいと仰ったものだし、これはもうやることで決定してしまいましょうか。で、後は……屋台と魔法実験のどっちをやるかで、もう決めちゃいましょうか」
シイカとオルガ先輩の意見を当然のようにスルーして、多数決が行われる。
つっても、その二人も特に何も言わず――結果は、一対五で、屋台に決定。
なお、その一はフィオではなく、アリア先輩である。
「あら、フィオちゃん、良いの?」
「はい、別に、とりわけそれがやりたかった訳でもないので。それに、食べ物が絡んだ時のシイカさんの表情の輝きを見てしまったら、もうそっちでいいかなって」
「流石ね、フィオ。よく見ているわ」
「いえ、その顔を見れば一発です」
グ、とサムズアップするシイカに、苦笑するフィオだった。
――これで、やることは『花火の打ち上げ』と『屋台』の二つともに決定。
で、その後の話し合いで、やっぱり人数の問題から一日通してやるのは無理だろうと、午前中のみに絞ることになった。
六人で回すとなると、それが妥当だろうな。一日中やったら、疲労困憊になりそうだ。
俺とシイカは、クラスの方で何かやることが決定してるしな。
ローテーションの組み方は、日が近付いてきたらしっかり考えないといけないだろう。
料理に関しては、近い内に試食会をやることに決まり、シイカがメチャクチャ楽しみそうにしていた。
……逆に、アリア先輩の笑みが、何故か少しだけ引き攣っているように見えたのだが、どうしたのだろうか。




