学院祭へ《2》
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――もう大分通い慣れた、ミアラちゃんの研究室にて。
「よし、各々、考えてきてくれたね? さあ、案を聞こうか」
研究室の一角にあるソファに各々座り、ミアラちゃんがそう切り出した。
前回、こちらの授業でも、学院祭で何かをやるというところまでは決まったが、内容はまだ決まっていない。
今日までに各々考えておくということで、あの時は話が一段落したのだ。
「じゃあ、僕からいいかな」
と、珍しいことに最初に口を開いたのは、怠け者という言葉がピッタリ来るであろう三年のエルフ、オルガ先輩。
「おぉ、オルガ君が? いいねいいね、是非意見を言ってみて」
「……大体何を言うか想像付くわね」
教育者らしい顔のミアラちゃんと、胡乱気な眼差しを送るアリア先輩の二人に対し、にこやかな顔でオルガ先輩は言った。
「休養って大事でしょ? だから学院祭では、休養の大切さをみんなに知ってもらうために、僕達が率先して――」
「うん、そこまででいいかな」
「知ってた、って感じね」
「……もう大分私も、オルガ先輩のキャラを掴めましたよ」
「オルガはきっと、カエンと気が合うわ」
俺もシイカに同感だ。
一斉に放たれるツッコミも全く気にせず、彼はマイペースに立ち上がる。
「じゃあ僕、意見言ったから、もう帰っていいですかね」
「今帰ったら、一番面倒くさくてキツい仕事全部を君にやらせるからね」
「うん、アリアちゃんの言う通りにする」
「えー」
にっこりと笑うアリア先輩と、やれやれといった様子のミアラちゃんの言葉は流石に無視出来なかったようで、再びソファに腰を下ろすオルガ先輩。
……この人の場合は、どこまで冗談で、どこまで本気なのかわからんな。
いや、恐らく半分以上は本気なのだろうが。
と、彼の次に「はい」と手を挙げたのは、シイカ。
「お、次はシイカちゃんか」
「コイツの方も大体お察し、って感じな気がしますが……」
俺の心配を他所に、シイカは案を言い始める。
「がくいんさいは、色んなことを体験したりするものって聞いたわ」
「そうだね、そういうことも多くやるね」
「だから、素晴らしいものを体験する場として、ユウハの魔力体験コーナーをしたいわ!」
「お前俺にどんだけの負担を強いるつもりだ」
学院祭は、三日間を通して行われるのだが、その三日間ずっと魔力を練り続けてろと。
「……ちょっと、体験してみたい気もしますね」
「フィオさん? あなたは私の味方だと思ってたんですが」
横に顔を向けると、俺からスッと目を逸らすフィオ。
フィオ、お前もか。
「……正直私も興味あるわね。シイカちゃんとカエンちゃんと、あとギンラ君も君の魔力が好きみたいだし……」
「お、何だい。ユウハ君の魔力ってそんなに特殊なのかい」
アリア先輩の次に、オルガ先輩が不思議そうな顔でそう言う。
「……まあ、俺がこの学院に入学出来た理由が、主にそれなので、特殊だろうことは確かですね」
今思うと、ミアラちゃんは最初に会った時から、俺の魔力の質に気付いていたのだのだろう。
同じ、無属性。
ただミアラちゃんは、自分の無属性は『偽物』であり、俺のが『本物』だと言っていたが……まあ、そうあれかしと創り出された以上、本物であることは確かなのかもしれない。
――俺は恐らく、転生する際に、『上位存在』と呼ぶべき相手と遭遇しているのだ。
異世界らしく、神様だったのか、それともそれに準ずる何かなのか。
本当に漠然とした、朧げな感覚でしか覚えていないので、何も確たることは言えないのだが。
そして、その上位存在には、何かやらせたいことがあるのである。
そのための一手として、俺を古の森に生み出した。
推測に推測を重ねただけで、確証がない以上、全ては妄想の域を出ないが……。
「フフ、今は君が来てくれて、色々と楽しい日々が送れているよ」
「何か変なことにいっぱい巻き込まれるものねぇ、ユウハ君」
「私、話でしか聞いてませんけど、魔法杯でも何か色々あったみたいですね、ユウハさん」
「お、実は問題児なんだ、ユウハ君」
「…………」
何も言えない俺である。
「そ、それより、学院祭の話に戻りましょうよ。はい、俺は、この人数なので無難に食べ物の屋台とかをやるのがいいんじゃないかと思います。俺も多少は作れるし、シイカなんかは普通に料理、上手いですから」
「食べるのも作るのも任せて。作った端から残さず食べていくわ」
「売る分無くなるがな」
この授業は、ミアラちゃんを含めても六人しかいない。
となると、やれることも少なくなってくる訳だが、屋台で料理を作るのならばこの人数でもやれるはずだ。
一人が作り、一人が売り子の、最低二人でも店を回せるだろうし、それならばローテーションも組みやすいだろう。
作る料理に関しては、俺の知識が役に立つと思っている。
何故なら俺は、この世界出身じゃないからだ。
物珍しさで、これ以上はない――と思ったが、この世界は流通網がしっかりしていて、他種族の目新しい料理とか普通にあるので、あんまり斬新さとかは出ないかもしれないな。
いや、そもそも学生が作る料理なんだし、目新しさよりも簡単で無難な料理にしておいた方が、何かと都合が良いか。
となると、たこ焼きとか焼きそばとか……は、この世界にもあるんだったか? 前にミアラちゃんがニコニコしながら言ってたな。
じゃあ……あ、チヂミとかがいいかもしれない。
簡単で、かつ美味しくて、こういう時に作るものとしては最適ではなかろうか。
甘いものならクレープとかか?
それも良さそうだな。
「ようやく意見らしい意見が出たわね。書いていきましょうか」
「あ、私書きますよ」
「あら、じゃあお願いしようかしら、フィオちゃん」
研究室にあったホワイトボードをこっちまで持ってくると、フィオはそこに今まで出た三つの意見を書く。
上二つはいらない気もするが、まあいいか。
「それじゃあ次は、フィオちゃんの意見が聞きたいわね。あなたはどうかしら?」
「私ですか? わかりました。まず私、学院祭というものがよくわからなくて少し調べたんですが……ユウハさんも言ったように、人数が少ないのでやれることも少なくなるのがネックだと思うんですよね」
せやな。
六人という少人数さが、少しネックだろうというのは、同じ意見だ。
「発表会とかの出し物なら、少人数でもやれると思いますが……そういうのは夏季休暇からしっかり準備するようですし」
「そうだね、フィオちゃん。その方向のは、今からやるのはちょっと難しいね」
フィオの言葉に、ミアラちゃんが同意する。
「となると、少人数でもやれて、そこまで成果等を必要しないものとなると、何かしらの魔法の公開実験をやったら、面白いんじゃないかなと思うんですよ。やる内容は考えないといけないでしょうが、それなら派手で人目を引くものも選べるんじゃないかと」
「おぉ、良い意見だな。この学院での学院祭に相応しそうだ」
「そうね、安全面は考慮しないといけないだろうけれど……」
「それをやるとなったら、相応しそうなのは私が考えてあげるよ」
ミアラちゃんが選ぶ実験なら、外れは無さそうだな。というか、普通に楽しそう。
「私の、ユウハの魔力体験コーナーの次に良いわね」
「僕の休養の大切さを説くって意見の次に良いね」
「アンタらは黙ってろ」
何故そんな自信満々なのか。
オルガ先輩はともかく、シイカはそれ、本気で言ってるだろ。




