学院祭へ《1》
前回のざっくりあらすじ:森に出たら、なんか怪しいのがいた。
――森での一件は、俺達の思惑通り、すぐに気付いてくれたミアラちゃんが守備隊の一つをこちらに送ってくれ、彼らに任せることで一件落着となった。
学院に戻ってきたところで事情も幾らか聞かれ、「学院を害するという話をしていたので、不審者と判断した」という話をしたのだが……怒られた。普通に。
子供が危ないことをするんじゃない、と。
俺達が動いていなければ普通に逃げられていたはずだ、と言いたくなる気持ちもあったが、こちらに対する心配が多分に感じられたので、甘んじてお叱りを受けた。
実際、華焔とギンラが一緒にいたとはいえ、危ないことをした事実に変わりはないしな。
なお、その華焔とギンラは、説教が始まる前にそそくさと逃げやがった。
危機察知能力の高い奴らめ……。
「……同じことを前も言ったような気がするけど、やっぱり君は、一歩歩けば、何かに巻き込まれるねぇ」
「いやー、はは……」
まさか散歩に出ただけで、ああいうのと遭遇するとは思わないからな。
どことなく呆れた声音で話すのは、ミアラちゃんである。
俺が説教を受けていた時に、彼女がこちらに様子を見に来てくれ、「私が言っておくから」という取り成しによって、説教が終わったのだ。
「まー、怪我がなくて良かったよ。と言っても、カエンがいる以上、それこそシイカちゃん並の相手が出て来なければ問題ないだろうけど。今は君には、ギンラ君もいるし」
「ギンラも、普通に俺より強いっぽくて、流石龍族っていうのを実感しましたよ」
「龍族より強い生物なんて、それこそシイカちゃんの『トーデス・テイル』とか、数えるくらいしかいないからね。子供と言えど、そこらの兵士くらいなら余裕で蹴散らせるさ」
そこらの兵士というか、精鋭っぽい相手も普通に降してましたけどね。
――そう、少し話が一段落したところで、俺は問い掛ける。
「で……あの奴らは、学院襲撃とか、魔法杯でちょっかいを出していた奴らと、同じ手合いですか?」
ミアラちゃんは、頷く。
「うん、まだ確証が取れた訳じゃないけれど、間違いなくね。今年度に入ってから、継続して攻撃して来てる相手がいる。――ユウハ君、『杯の円』は、覚えているね?」
「……はい」
杯の円。
神を作り出す、または自らが神になる、という極まった思想を持つ、邪教集団。
奴らの言う『神』というのは、具体的にはミアラちゃんのことを指し、だが彼女にとっては、見たくもないであろう忌まわしい者達。
「あの馬鹿な子達には、行動を移すに当たって、協力者がいた。この協力者というのが、ここまでの事態を全て裏で手引きしている敵だと、私は見ている。そして……学院ではこれから、学院祭が行われる。敵にとって、手を出してくるには絶好の機会さ」
「……ミアラちゃんは、その敵には見当が?」
「多少は、見えてきた。けれども、わからない点は多い。まだまだ情報収集の段階さ。勿論、敵が手を出してくることを想定して、今年の警備は例年の倍は用意するつもりだよ。私も、しばらく学院から出ずにいるつもりだけれど……君も、十分に気を付けて」
「……わかりました」
ミアラちゃんの真面目な声音に、俺は少し呑まれながら、頷いた。
◇ ◇ ◇
新学期が始まって少し落ち着き、学院全体で、学院祭へ向けての取り組みが始まっていく。
つい先程、我がクラスでも一つ出し物をやることに決まり、実行委員長はそういうのがよく似合う我が友人ジオと、俺はあまり話したことのない女子生徒の二人となった。
ただ、やること自体はまだ決まらず、話し合いは翌日に持ち越しとなったのだが……なんか結構本格的に話し合いが行われ、ちょっとビックリした。
まず予算の使い方から始まり、費用対効果を考えて最適なものを、みたいな会話が飛び出し、ここの商会に話を通せば安く物が揃えられるだとか、いやいや幅広く揃えられるところよりは専門的なところに、だとか。
やっぱり貴族とか、そういう立場の奴が多いので、理想が高いらしく話がなかなか纏まらなかった、という点もある。
そんな中で、実行委員長のジオともう一人の子の二人組は、話し合いをよく捌いて纏めていたと言えるだろう。
なお、特に大した取り柄のない、普通の学生である俺は、ただ話を聞いてぼけーっとしているだけであった。
この学院に来るのが、元々エリートばっかである、というのを改めて感じたものである。
また、シイカは途中で寝ていた。まあ、そうなるわな。知ってる。
「みんな、すごいいっぱい考えるのね。すごいわ」
一日が終わり、部屋へと戻る途中で、そう呟くシイカ。
「そのみんなの意見としては、お前にも考えてほしかったところだと思うがな」
俺がそう言うと、シイカは不思議そうにこちらを見返す。
「? 無理よ。だって私、ヒト社会知らないもの」
「いや、けど、最近は大分学んできただろ? 何かないのか、何か」
するとシイカは、少し考える素振りを見せてから、答える。
「……なら、一つ思い付いたわ。ご飯がいっぱい食べられる、ご飯祭り」
「おう、お前の願望丸出しだな」
「ユウハの魔力、いっぱい感じ取り祭り」
「おう、お前の願望丸出しだな」
「何だかとても良い案な気がしてきたわ。ユウハ、これやりましょう」
「どうやらお前は学院祭の趣旨を理解していないようだ」
ヒト社会に馴染んできたと思ったが、まだまだだったらしい。
と、俺の間髪入れずの否定に、彼女は不服そうな顔をする。
「むぅ、なら、ユウハの方はどうなの? ユウハも話し合いの時、ぼーっとしてたわ。何かお祭りの案、あるのかしら」
「えっ、えーっと……も、勿論あるぞ。あー……魔法でお化け屋敷とか、どうだ?」
「おばけやしき?」
「おう。説明が難しいんだが……こう、暗い部屋に迷路みたいなのを作って、入ってくるお客さんを怖がらせるんだ」
「怖いのが面白いの?」
「ん、まあ、多分。好きな人は好きなんじゃないか?」
こういう学生のお祭りでお化け屋敷というのは、前世じゃ定番だったし、人気はあったのだろう。
ホラーが別に好きでも嫌いでもない身からすると、酔狂だなとは思うが。
「そう。じゃあ、ユウハ」
「何だ」
「しゃーっ」
両手を広げ、尻尾も広げ、なんか変な威嚇っぽいポーズを取るシイカ。
「……あの、何です、シイカさん」
「怖いのが面白いって言うから。怖いでしょ?」
ふふんと、どことなく得意げな様子でそう言うシイカ。
「……怖い。すげー怖いから、もっかいやって」
「しゃーっ」
「うむ……うむ。怖い怖い。お化け選手権があったら、きっとお前が一等賞だ」
「当り前よ。怖さで私を上回れるのなんて、いないんだから」
胸を張り、わかりやすくドヤ顔になるシイカ。
お前は本当に可愛い奴だな。




